85.旅の開始
最初に村まで来た道を今度は下っていく。
馬車も馬も無いので、身軽ではあるが、町まで一度はキャンプになりそうだ。
接収した馬車があれば休むのに少しは安全だが、ニーナ達が使うため持っていかれたのと、馬車は目立つので断念した。
ま、めちゃくちゃ急ぐ旅でもないので疲れたら休みつつまずは‟大将”達が目指した町へ行くことに決めた。
グラディスという10歳の俺には心強すぎる味方がいるので大将をとっ捕まえて吐かせるのもアリか。俺の中身は35歳だから、こいつより年上なんだが。……だよな?
「……グラディスって何歳なんだ?」
「いきなりなんだ? 今いくつだったかな……多分103歳くらいだったはずだ」
「あ、そうか」
エルフと一緒で寿命が長いんだったな。
カーネリア母さんより若いから……えっと、多分30行ってないくらいか?
ふむ、精神的余裕は俺の方が上だな、きっと。
「なんで得意気なのか分からないが、疲れたら言うんだぞ」
「ありがとう。一日くらいなら大丈夫だよ、鍛えているし」
「あの夜も思ったが、アルの剣は立派だな。見たことのない形をしているのも興味深い。イークンベルではそれが基本なのか?」
「いや、これは俺のワンオフ武器なんだ。もっと大きくなったらしっくりくると思う」
少しだけマチェットを鞘から抜いて笑うと、グラディスが貸してくれというので腰から外して鞘ごと渡す。
立ち止まってから抜いた後、目を細めてから軽く振る。ああ、キレイな太刀筋だなと思っていると小気味よい金属音と共に俺に返してくれた。
「……どこで作ったんだ? 切れ味、重さ、グリップ。どれをとっても申し分ない。さぞや名匠に違いない……俺も一本欲しい」
「あー、これは俺が産まれた時に両親にもらったんだ。だから出所は分からない」
「そうか……ご両親に話しを聞きたいものだ。まだ健在なのだろう?」
咄嗟についた嘘に食いつく。よほどこのマチェットが気に入ったようだが、まさかいつの間にか手にしたとは言いにくい。
なので真実を話しておこうと思う。
「実は、イークベルン王国の両親は本当の両親じゃなくて――」
一通り、ここまで来た経緯を話す俺。
こう改めて話すと、俺って他人が耳にしたら不幸というか不遇というか波乱万丈だと思う。
冷静に話せるのは中身がおっさんだからで、本当に10歳なら屋敷襲撃で死んでいるだろう。イルネースが馬鹿笑いするのが目に見える。
で、全部の話を聞いたグラディスが顔を逸らした。
「あれ? グラディス、泣いているのか?」
「くっ……大変な人生だったのだな……」
ホントに泣いてた。
「はは、身体がでかいのに涙もろいんだな」
俺は苦笑しながらグラディスの背中を叩いて歩くように促す。
するとグラディスは突然、俺を抱え上げて肩車を始めた。
「なんだよ!?」
「アルは偉いな。両親が殺され、復讐に身をやつしても他人を思いやれる。それは誰にでも出来ることじゃない。今、こうして苦難にあっても泣き言も言わず前を向いている」
「ま、まあ、くよくよしても仕方ないからな。だけど、俺は必ず黒い剣士を見つけ出して……殺す」
グラディスの頭を掴んで声を低くして呟くと、彼は軽く頷いて口を開く。
「ふむ、それはそれで調査してもいいかもしれないな。カムフラージュにもなる」
「というと?」
「ギルドだ。ツィアル国の王都は難しいかもしれないが、今から行く町ならまだカードを作りやすいはずだ。本当の名前、アルフェンで登録すれば、名前だけで判断はできないだろう」
おお、そりゃいい案だ。
どこまで着いて来てくれるか分からないが、金を稼ぐ手段として冒険者として活動をすること自体いつかはと考えていた。
イークンベルでゼルガイド父さんに言ったら金は心配するな、騎士を目指せって真顔で言われたからな……一旦ライクベルンに帰るってのに……。
さて、そんな状況でグラディスが完全に味方になってくれたのでこれから安心して冒険者としてやっていこうと思う。
確かにアルとしか呼ばれていないからアルフェンと登録しておけば、顔を見られるまで……いや、クソエルフは顔を知らないから、なんか功績を立てれば城に近づけるか……?
「よし、それでいこう」
「どうした、小便か? 頭にするのはやめてくれよ」
「しないよ!?」
そんなやり取りをしながら山を下り、まだ血痕の残るあの現場を通り過ぎてキャンプをやった後、さらに歩くこと数時間――
「ふう、やっと見えてきたな」
「ああ。ベッドが恋しいだろう」
「そんなにやわじゃないっての。行こう」
町の入り口が見えてくると、わくわくしてくるのは仕方がない。
門番からの質疑応答はグラディスがさっさと終えてくれ、町の中へ。
……魔人ではあるけど、いがみ合っているわけではないらしい。あくまでも誘拐事件に関りがある者を調べているということだ。
国としてきちんと抗議しているが、それが変わらないため、こうしてグラディスたちが秘密裏に動いているのだとか。殺すこともあるのが物騒だが……
「……普通の町だな」
「それはそうだろう……ほら、宿に行くぞ」
「ギルドは?」
「もう日が暮れる。今日のところは疲れているだろうから宿で休むといい」
そう言って俺の背中をポンと軽く押して歩くことを促す。
生活レベルはイークンベルの町と変わらないので普通と称した俺。
そう思えば港町があそこまで寂れていたのは逆になにがあるのか?
いや、この町もどこか怪しい場所があるのかもしれない……貴族だけが旨味を吸う国、か。
俺はフードで口を隠し、目だけで周囲を確認しながら宿へと向かった。
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