140.真相と情報源


 「ふん、やっぱり居たのか。こいつらも含めて、俺になんの用だ?」


 ぎゃーぎゃーとうるさい冒険者二人は無視して貴族のお坊ちゃんに声をかける。

 すると、お坊ちゃんは俺に指を突きつけてから口を開く。


 「お前のおかげで獣人を手に入れる計画が台無しだ! 航路の積み荷なら国境を越えるのが楽だと思ったのに、連れ出しおってからに!」

 

 若いのに変な喋り方をする奴だな……

 

 しかし、わざわざ航路を使った理由が割とまともだった。

 どうやら陸路に比べると中身までしっかり確認しているかと言われたら恐らくNO。

 あの樽に張られていた札は確認後につけられるものなので、パッと見で木くずばかりだったから危険はないと判断されたのだろう。


 なお、ツィアル国から出る危険物は出荷量が決められている火薬くらいなものなので、後はフルーツや穀物、魚介類が主な貿易物。

 貿易の完全再開したとはいえ一年程度のことなのでざるになっていてもおかしくないかとも思う。


 まあそれはいいとしてとりあえずこいつらだ。


 「いえー! ヴィダー様、いえー!!」

 「くく……奢りで飲む酒は最高だぜ……」

 「ええい、役立たずどもめ! 自分で払え!」

 「「断る」」

 

 雇い主と思われる貴族、ヴィダーという男の顔をジョッキで挟んで騒ぐ男女の冒険者。怒り心頭で金は出さないと口にするが、まるで言うことを聞かない。


 「うるさいなあ……。とりあえず飯を食うから騒ぐなら離れてくれないか?」

 「ふん、お前の言葉など聞くものか。こいつらはアホだからな」

 「「……」」

 

 めっちゃ静かになった。

 ヴィダーが顔を真っ赤にして怒鳴っていたが、スン……となった二人には効果が無かった。

 俺としては静かになったのでゆっくり食事ができるかと少し離れて運ばれた照り焼きみたいなウサギ肉の料理を食べる。


 「んま……! こりゃアタリだぞ。甘辛だけど辛さの方が勝っているから米にもパンにも合うぞ。んぐ、み、みず……」

 「はい、お待ち!」

 「ああ、ありがとう……って酒じゃないかこれ!?」

 「チッ! チッ!」

 「いつの間にこっちに来てたんだよ……」


 ロレーナが舌打ちをしながらジョッキを押し付けてくるのを避けつつ食事を終えると、ヴィダーが声をかけてきた。


 「終わったか」

 「待ってたのかよ!? 律儀すぎるだろ……。というかちゃっかり酒を飲んでいるし」

 「僕……わ、私は成人しているからいいのだ! そんなことより一緒にいた獣人たちはどうした? 何故一人なんだ?」

 「見ての通り港町で別れたんだよ。お前が気にすることじゃないだろ? 船で仲良くなったから一緒に降りたんだ。なんか樽に入っていたらしいんだが……そういやお前、積み荷を探していたらしいな? まさか誘拐したんじゃないだろうな?」

 「う……!? い、いや、そんなことは無い……」

 「もうゲロっちまいなよYOU!」

 「逆に突っ込まれるとかまさに予想GUY! 男だけに!」

 「やかましいわ!」


 酔っぱらい二人が煽る煽る。

 一応、女性には手を上げないのか男の冒険者……オーフって言ったか? そいつに掴みかかる。


 まあ概ね犯人で間違いないので突き出すのもいいが、当事者の兄弟も居ないし、どうも全員アホそうなのでこのまま立ち去るかと席を立つ俺。


 「あ、ま、待て! 話があるのだ!」

 「はあ? もう勘弁してくれよ、明日も早いんだからさ……」


 俺は止める声を無視して支払いをしようとすると、ヴィダーが財布を取り出してから言う。


 「ここは私がもとう。それなら話を聞いてくれるか?」

 「……少しだけだぞ」

 「とりあえずわたし達が彼を止めますので、ヴィダー様は支払いをお願いします……!」

 「いや、お前等はちゃんと払えよ」


 容赦なく飲み食いしていた二人はなかなかの金額になったようで、外に出るとさっきまでの元気はどこへ行ったのか、お通夜みたいな状態になった二人がついてくる。

 テンションの上下が激しいがカップルなのだろうか。


 それはさておき、ヴィダーが隣に並んで歩き出して口を開く。


 「船で獣人と仲良くなった、と聞いたがどうやって仲良くなるんだ?」

 「いきなりなんの話だ?」

 「うぇっへっへ……ヴィダー様はこう見えて友達が居なくてですねえ……いつもボッチなんですよ。だからそこの君! ヴィダー様の友達になってくださいお願いします」

 <華麗なる土下座>


 呆れるリグレットに胸中で同意していると、オーフが俺の肩に腕を回しながら口を開く。


 「結構羽振りがいいから損はしないと思うぜぇ? 友達になっとけって! 金だけはもってっから!」

 「とんだドクズ!? いや、友達ってそういう金とか物で繋がるもんじゃないだろ。もし友人が欲しいなら、相手に合わせたり気遣ったりすればいいだけだ。

 一緒に遊んでたらそうなるだろ? 俺は友達が要らないって言ってたクチだけど、学校で勝手にできたぞ」

 「な、なんだと……!?」


 立ち止まって目を見開くヴィダー。

 俺はそんなに難しいことを言っていないんだが相当ショックだったようだ。


 「いやあ、残念ながらウチのお坊ちゃんは見ての通り言葉は不遜で態度もでかいでしょ。だから学校だと喧嘩した相手の方が多いってわけです。

 まあ貴族同士って牽制し合いとかになるから、要領が悪いとすぐハブられる世界ですから」

 「いやな社会だな……いいところの学校だったのか?」

 「ああ。坊ちゃんは剣も魔法も普通だからな。賢さも……うん、まあ、浅い誘拐を考える程度だから……」

 「お?」

 「あ、お、お前なに口にしてんだ!?」


 オーフが酒臭い息を吐きながらぽろっと出した。さらにヴィダーを貶めるというおまけつきだ。いったいどっちの味方だと思いながら俺はため息を吐いて返してやる。


 「まあ、犯人がお前達ってのは分かってたけどな。大事には至らなかったし、俺もどうこうしたいわけじゃない。とりあえず友達が欲しいなら助け合いの精神と認める勇気! じゃあな!」

 「おー」


 ロレーナがパチパチと手を叩いて見送ってくれ……るのかと思ったら回り込まれていた。


 「そういえば急いでいるみたいだけど、どこへいくつもりなの?」

 「どこだっていいだろう……まあ、ライクベルンだよ」

 

 するとさっきまでの緩い空気がスッと消え、オーフが目を細めてから顎に手を当てて口を開く。


 「……本気か?」

 「なんかマズイことでもあるのか? ギルドでもおススメはしないと言われたけど」

 「そうだな、あの国は将軍が一人変わってからあまりいい噂は聞かないぞ。入国も厳しいから俺達は近づかないな」

 「将軍が変わった?」

 

 思わぬところで情報が入りそうだな……

 俺は少しだけこいつらに付き合ってみることにした。爺さん以外にも将軍は数人いたが、誰が変わったんだろうな?

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