139.やばいのに絡まれるアルフェン

 

 「到着したよ、今日はあそこで一泊だ」


 馬車に揺られてはや一日。

 御者が口にした通り俺は次の町へと到着していた。

 

 途中に野宿を一泊挟んだわけだが、その時、仮眠のため魔法のコテージとやらを御者が使い屋根のある睡眠が取れた。


 収納魔法となにかの合成で作れるらしいんだが、正直めちゃくちゃ欲しいと思った。ゲームとかだと稀にアイテムとして存在するものを目の前で見るとわくわくしてしまう。

 ちなみに乗合馬車組合で安く購入しても価格でも80万は越える代物らしい……金が全てか……。

 でも旅が続くなら魔物避けも兼ねて欲しいなあと久しぶりに物欲に目覚めた。


 そんな会話を御者や乗っている人と話しながら暇をつぶしていたので意外と楽しく移動できたな。


 <うーん、あんまり大きくない町ですね> 

 「中継地点ってところだろうな。流石に国境付近まで10日もかかるような道程だし、こういう町を少しずつ作っているんじゃないか?」

 <名物とか買っていけば喜びますかね、おじいさん達>

 「あ、いいかもな」 


 「アルフェン君、また馬車でな」

 「今日はベッドでゆっくり眠れるな……、子供は早く寝ろよ」

 「うるせえ、またなー」


 明日の時間を確認してから乗り場で一旦解散し、他にも乗っていた人達も散開していく。

 陽が落ちかけていたので俺も早足で商店が並ぶ通りへと足を運んだ。


 「可もなく不可もなくといった感じの町だな」

 <なんですかね、宿場町って言葉が似合いそう>

 「なんでそんな言葉を知っているんだ……」

 <私はアル様の知識と経験などなどから生まれた存在ですからね。スキルを使えるのもその一つ……私には10の秘密があるのです>

 「知らんよ……」


 今まで双子や母さん、エリベールにグラディスなど誰かが居たのであまりでしゃばらないリグレットだったが、旅に出てから活発になってきたなと感じる。

 そういえばもう一つのスキルを使ったことないが、名前からしてやはり攻撃系の技なんだろうな。


 とりあえずいくつか店を冷やかしてみたが土産になりそうなものは無かった。

 陽もすっかり暮れてしまったのでそのまま俺は飯を食いに料理屋へと入っていく。


 「いらっしゃい!」

 「ありゃ、まだ早かった?」

 「いんや、構わないぜ。お前いくつだ?」


 人が全然居ない店はどうやら酒場だったようで、酒瓶がずらりとならんだカウンターの向こうがそれを物語っていた。

 店主が俺に年齢を聞いてきたので、ああ、と思いながら答えてやる。


 「12だよ」

 「冒険者みたいだな? 酒は軽い果実酒なら出してやる」

 「はは、商売が上手いな。とりあえず飯を食わせてくれればいいよ」


 白髪交じりの角刈りをしたおっさんがかっかと笑いながらくいっと飲む仕草をする。

 本来、酒は成人まで出さないのがルールだが、そこまで厳しくないのは異世界ならではだな。


 「うさぎ肉か、試してみようかな」

 「おう、シャープラビットのもも肉でいいのがあるぜ。甘辛ソースでいいか?」

 「米は?」

 「あるぜ」

 「それで頼む。後、オレンジジュースで」


 おっさんが真面目だなと笑いながら厨房へ引っ込み、ウェイトレスらしき人も出勤してきたのが見えた。


 「さて、料理が来るまでゆっくり――」

 「すまん、今日のおすすめとビールを頼む!」

 「あ、わたしもー!」


 ――ゆっくりと思った瞬間、俺の両隣りにマントを羽織ったくせっけの男と、ショートカットの女が座った。


 <ば、馬鹿な……!? これだけ空いているというのにわざわざアル様の隣に座るだと……!?>


 いや、本当にそうだよ。

 俺はスッと立ち上がり、別のテーブル席へと移動する。


 「……」

 「……」

 「……」


 すると、二人もぴったりくっついてきた。

 意味が分からず、正直ちょっと怖いので今度は離れたところに移動するが、またしても両脇を固めてきた。


 「って、なんなんだよあんた達は!? なんでわざわざ俺の隣に座るんだ!? トナラーってやつか!?」

 「なんだトナラーって?」

 「知らないわね」


 デパートの駐車場とかでガラガラなのに何故か隣に車を止めてくる輩のことだが、まあ分かるはずもないか。

 とりあえずウェイトレスが俺達の飲み物をどこに置いていいか分からず苦笑していたので隅っこの席に腰を落ち着ける。


 「で、なんか用か?」

 「いやあ、用事ってほどでもないんだけどな?」

 「ひとりで寂しそうだったから、一緒に食べようって思ったのよ!」

 「間に合ってるからあっちに行ってくれ」

 「「なんだって……!?」」


 驚く二人が鬱陶しいなと思いつつ、顔をよく見てみるとどこかで見た覚えがあると気づく。

 ……そうだ、あの貴族についていた冒険者の中の二人だ。

 となると、コウ達と一緒に居た俺を追いかけて来たというのが本命ってところだろう。


 「なるほど、獣人を追っていた貴族のお坊ちゃんについていた奴等だな? だけど、あの二人はここには居ないぞ」

 「……なるほど、お互い気づいていたということか」

 「……!」


 細身だが肩幅は結構ある男が口元に笑みを浮かべて目を細めると、周囲の空気が冷たくなった気がした。こいつ、できる……?

 そう思った瞬間、女の方がジョッキを片手にハイテンションで口を開いた。


 「まあまあ、オーフ! とりあえず乾杯しましょ乾杯♪ この新たなる出会いにかんぱーい!」

 「うおっと!? テンション高いな!?」

 「ふはははは! これでも『燻製のロレーナ』という異名をもつ冒険者だからね! あ、自己紹介ね。歳は17歳の乙女よ!」

 「マジで……? その姿で俺より5も上……妹と似たようなテンションだから同い年か下だと思った」


 後、胸が無いし。


 「へえ、妹ちゃん、美人なんじゃない? 歳はいくつなの?」

 「4歳だ」

 「おぼふぉ!?」


 ロレーナの噴き出したビールをさっと回避すると、真逆にいてまだにやついていたオーフとか言うやつの顔に直撃した。


 「ぎゃあああ!? てめぇロレーナなにしやがる!?」

 「4歳……わたし4歳児と一緒……こうなりゃヤケだ! お姉さん! この店で一番強い酒もってきて! この子に飲ますから!」

 「巻き込むな!? マジでなんなんだよあんたら!」

 「「冒険者だ」」

 「こいつら……!!」


 ……というかなんか目的があるならさっさと話せばいいのに……そう思っていると、背後で声がした。


 「お前等だけなに楽しんでおるのだ!! いつまでたっても呼びに来んと思ったら酒盛りか……!!」


 ……まあ、居るだろうとは思ったが……あの時の貴族が半泣きで怒鳴っていた。

 

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