138.平和な結末?
「ぐがー」
「お前の弟は強いヤツになるな……」
「ごめん……」
宿で飯をたらふく食べたセロはあっという間にベッドへダイブしていびきをかいて寝ていた。
まあ、元気なのはいいことだと思うし二人は被害者の立場なので宿泊と料理料金も国から出ると言うので食べて貰ったわけである。
さて、あの貴族のお坊ちゃんが手配したってのはほぼ確定。
だけど、不明点と明らかにしておきたい点が残っているのがモヤるな。
・誘拐した理由は?
・ここから数日はかかる森の情報をどうやってもっていたのか?
・誰に頼んだのか?
ざっとこんな感じだ。
見解としては旅行先で彼らを見つけて人さらいに依頼し、待ち構えていたということを考えたが確実性に欠ける。
もし地続きなら船を使わず陸路でいいじゃんとなるからだ。
ザルな計画だよなと誰でも思うだろう。
というか俺もそうだったけど誘拐話とはついてない。国が不安定だったツィアル国は分からなくも無いけど、こっちはそれほど荒れていないと思ったんだけどな。
「それにしてもわざわざウォルフ族をさらうあたり、コウたちってなんか特殊だったりするのか?」
「よくわからない。だけど父ちゃん達は強いぞ」
「まあ、コウもいい動きしてたし地上戦なら俺も苦戦すると思う」
「アルは子供なのに強すぎると思う」
船上でのやりとりで俺が勝ちこしていることに頬を膨らませるが、今は重要では無いので話を変える。
「それはとりあえず置いといて、お前達をなんに使うつもりだったかだよな」
「わからない。起きたら樽だった」
「あっさりだな……」
せめてどうやって誘拐されたのか覚えておいて欲しかったが仕方ないか。
それからしばらく進展があった時のために構えていると、昼前にギルドの受付が宿へ現れた。
「よう、元気か」
「ああ、今朝はサンキュー。向こうの味方じゃなくて助かったよ」
「当たり前だ、他種族の誘拐とかバレたら国王様に申し訳が立たん。とりあえず、坊ちゃんにはギルド、警護団、船長と不可解な点が多いということで下がって貰った。町を出るところまで確認したから、後は送り届けるだけだな」
「良かった、案外スムーズに行きそうだね。あの坊ちゃんって何者なんだい?」
船長のビルから預かったという金を受け取りながらあの貴族の男について尋ねてみると、ギルドの受付であるダニィは肩を竦めながら口を開く。
「ジャンクリィ王国の国境付近にある領地に住む貴族の息子さんでな。ご両親はとてもいい人なんだが、甘やかされて育てられたせいか無茶を結構やらかしてよく叱られているって感じだ。そろそろ成人になるし、落ち着いて欲しいもんだ」
ただ、今回こんなことを企てたことは分からなかったのでヤツの両親にそれとなく話を持って行くとのこと。
あの様子だと少なくともなにかしら荷物を運ばせていたというのは公にしておきたいということだ。
「なら後は任せて良さそうだな。ライクベルンまで遠いし、出発は早めにしておきたい」
「え、行っちゃうの? 一緒に森へ行こうよー、助けてくれたお礼したいよ」
「悪いなセロ、面白そうだけどやることがあるんだ。落ち着いたら遊びに行くから覚えておいてくれ」
「……うん」
「ありがとうアル」
寂しそうな顔で耳と尻尾を下げて頷くセロの頭を撫でてから俺は宿を出てから乗合馬車へと向かう。
「うーん……」
ここまで関わっておいて結末が見れないのは少々心苦しい気もするな。
とはいえ、ライクベルンとは道が違うみたいだから付き合うのも難しい。
ま、場所は聞いたし落ち着いたら会いに行けばいい。
双子を連れて行ったらセロが喜びそうだなと思いながら荷台に背を預けてから俺は目を瞑る。
「お金は収納魔法に入れてあるし眠っても問題無いか……ふあ……」
早朝からの緊張続きだったが、ようやく気が休まる時が来たと眠気をそのまま受けれて意識を手放した。
◆ ◇ ◆
「ぐぬぬ……獣人は間違いなく居たのにお前達がそ知らぬ顔をしろというから」
金髪くせっけの貴族らしい服を着た、黒幕であるヴィダーが町の外に停めていた馬車の中で悔しそうに口を開く。
すると対面に座っていた男女の冒険者が腕組みをしながら渋い顔で頷いて答える。
「そうですねぇ、坊ちゃんが南にあるキボーホーの港町へ旅行に行った時に獣人を見て、かっこいい! 友達にしたい! とか言って現地人に旦那様たちに内緒で金を渡して攫って来いって指示した獣人ですね、間違いないですね」
「あ、オーフ説明的ぃ。ちなみにキボーホーの港町は二つ目に停泊した港町よ♪」
「誰と喋っているんだロレーナ!? 執政官も役に立たない……」
毒づくヴィダーに冒険者の男、オーフが首を振って言う。
「逆ですぜ、誘拐したことがバレたらぶち込まれますよ。ほら、旦那様と奥様が心配させていいんですか? 待っている屋敷へ帰りましょうや」
「そろそろ成人なんですから道楽を止めて真面目にしないと、彼女も出来ませんよ?」
「俺達にも気づかれずこんなことしてたってのが驚きでしたよ。正直、連れて帰ってもご両親になんて言うつもりだったんですかね。
執政官を呼んだのもマズイですし、揉めるのはもっとやばいかったんですぜ」
冒険者二人に詰め寄られて焦るヴィダーが、感極まったのか押しのけながら怒声を上げた。
「ぐぬ……好き放題いいおって! 解雇だ解雇!」
「わーい♪ もうおもりしなくていいんですね!」
「あああああああ、もう!!」
ロレーナが喜ぶと、ヴィダーは顔を真っ赤にして外に目を向ける。
性格は尊大で、口ほどの実力は無し。
なのにでかい口は叩くので学生時代に友達ができなかった典型的な嫌な奴である。
そんな彼が外に目を向けた時、街道を進む乗合馬車に見知った顔を見つけた。
「……あいつ、獣人と一緒に居た奴じゃないか?」
「お、そうですね。一緒に居ないのはどういうこったろう?」
「うーん、向こうもこっちの思惑もバレていたって感じですかねえ。ま、終わったことですから帰りましょ。で、お金ください」
「友人じゃなかったのか……? なら町に戻って獣人を掴まえれば……」
「止めてくださいよ、これ以上ややこしいことしてギルドに睨まれるのは勘弁ですって」
「あの子を追いかけて友達にしたらどうです? もしかしたら獣人とも仲良くなれるかもー?」
ロレーナが適当なことを言うと、ヴィダーは顎に手を当てて口を開く。
「よし、追いかけるぞ。あいつに話を聞きたい」
「ええー……」
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