137.お代はおいくらで?


 夜中の訪問者はまさかのコウとセロの二人と船員だった。

 船員が焦っているのでなにかあったと思うのだが、とりあえずセロが息切れをしてもぞもぞしていたので三人を引き入れて話を聞くことにした。

 

 「ほら水だ。ゆっくり飲めよ」

 「うん!」

 「ありがとう」

 

 三人が飲み終わるのを待ってから俺は船員に目を向けて尋ねる。


 「で? 一体どうしたんだ? 送り返されたんじゃなかったのか?」

 「あ、ああ……それが、客と荷物を全員降ろした後に荷物が無いと騒ぐ奴らが現れて――」


 船員の話だと、二人が詰められていた樽の受取人と口にしていたらしい。

 冒険者に混じっていた貴族の男がそう主張するため、ビルが開封された樽を見せてやり、気づいたらこうなっていたと返答。

 すると貴族の男は『勝手に開封したな』と激怒し、船を捜索させるように詰め寄って来たらしい。

 ならどんな積み荷だったのかと聞けば『いいから探させろ』の一点張りで平行線。


 こちらの定期船はツィアル国とジャンクリィ王国の二国が管理運営している扱いになるので、一貴族がそこまで強行できる権限はないと突っぱねてなんとか追い出した。


 「隠すのはあまりよろしくないと思うんだけど……」

 「執政員を連れてくれば内部閲覧の権限はあるんですけど、それを渋るあたりロクでもない感じがすると船長が……」

 「まあ、分からなくはないけど、騒ぎにならない?」

 「元々、出どころが怪しい積み荷でしたから僕達は知らぬ存ぜぬを押し通せます」

 「ふむ……」


 まあ、船員はそれでいいかもしれないがこの二人がどういう目的で連れて来られたのかが問題だと考えていた。

 もし今回を諦めたとしても、ウォルフ族を狙った誘拐ならまた別の子が狙われる可能性があるのではないか?

 であれば、違法性を説いて執政官とやらの判断を仰ぐ必要があると思う。


 「で、ここに来た理由は?」

 「この二人が匂いを辿り、君に会いたいと……」

 「アル、オレ達を逃がしてくれないか? ここから森まで遠いけど、途中まででもお願いしたいんだ」

 「そうしたいのはやまやまだけど、俺はライクベルンへ行かないといけないんだ。執政官が来るならそこで指示を仰ぐべきじゃないのか?」


 俺が正論を口にすると船員は神妙な顔で頷いたのでそこは承知しているようだ。

 

 「分かってるみたいだな……ならギルドに行けばいいんじゃないか?」

 「それは考えたんだ。だけど、まずはこの町を脱出することが先決じゃないかって」

 「アル兄ちゃん行こう行こう!」


 セロが両手を上げて喜ぶが、俺は腕組みをして考える。

 正直、俺にメリットがないから引き受けたくないというのが強い。

 二人は仲良くなったし、誘拐されてきたという経緯も同情するけど先が見えない状況なので巻き込まれるとどうなるか分からない。

 『ブック・オブ・アカシック』で確認するにも時間があまりないしどうするか……


 「もし引き受けてくれるなら依頼料として5万ルベル支払います」

 「5万か……」


 悪くない。もう一声欲しいところだが、成功報酬としてふっかけるか、貴族とやらに頂こう。


 「はあ……仕方ない、憂いを断っておくか。よし、とりあえず逃げるのは無しだ、明日にでもまた来るだろ? その時に俺とこいつらで下船する」

 「そ、それだと捕まっちゃいません?」

 「執政官がいるかどうかで変わるけど、基本この二人が積み荷だと言うなら違法性を問おう。ギルドにも話を通しておけば犯罪立証もしやすい。

 自警団みたいなのが居れば立ち会ってもらいたいところだな」

 「なるほど……牽制しつつ事件性を持たせるんだ……」


 俺の提案に考え込み、しばらくしてから船員はビルにそのことを言ってみると彼だけが一度船に戻っていく。


 「……このまま逃げればいいのに」

 「いや、どうせ関わるならお前達が誘拐された理由を知りたい。黒幕がここで諦めても、他のウォルフ族を狙うかもしれないぞ?」

 「あ」

 「おなかすいたよー……」


 コウも気づいたようでポカンと口を開けて手を打っていた。

 そんな中でセロがお腹を押さえてうずくまるのを見て手持ちのパンを食べせてやった。


 それから数十分ほど経ってから船員が戻って来て俺の提案で進めようということになり、とりあえず三人は船へと戻ってもらう。

 早朝に俺も船へ行って引き取り者たちが来るのを待つ、というものだ。


 町には警護団、いわゆる警察のようなものがあるとのことなので船員はそっちへ行ってもらい、俺はギルドに経緯を話しておく。

 ……受付は流石にグルではないと思いたいが、どうだろうか。こういう時、すでに根回し済みみたいなマンガとかあるもんな。


 ◆ ◇ ◆


 ――翌日


 「どきどきするね、兄ちゃん」

 「……ああ。アル、これで本当に良かったのか?」

 「正解は無いし、やるだけだって。外に出た途端に捕まってしまう可能性もあるしな」

 「う……」


 『ブック・オブ・アカシック』を開いてみたが、俺が選択した『船で堂々と降りる』ことで解決するとのことだった。

 本の予測より先読みできて少々にやっとしてしまうが、間違っていないなら文字通り堂々としておこうと思う。

 そんなことを思いながら甲板で身を潜めていると、下で揉めている声が聞こえてきた。


 「ですから樽は最初からああでしたと言っているじゃありませんか。こちらを疑っておられると?」

 「……そうだ」

 「では本日は執政官の方もいらっしゃいますし、船内を確認してもらっても構いませんよ」

 「だそうですよヴィダー伯。積み荷はなんだったのですか? 樽は木くずが入っていただけと聞いていますが」

 「あなたには関係ない。では、確認させてもらうぞ」


 ふむ、頭の弱い貴族様だろうか?

 執政官を連れて来たのは賢い選択だが、積み荷がこいつらなら悪事をしていますってことを公にしているようなものだ。

 よしんば見つかったとして、ビルがコウたちをお客さんとして扱ったら?

 その場合こいつらが積み荷だったと言えばおててに縄がついてしまう。

 

 どっちにしてもこっちが有利なのは変わりがないので俺はこの作戦を立てた訳だ。

 執政官なしで強行してきても乱暴を働く貴族はやばいだろうし。


 「さて、それじゃ行くか」

 「オッケー」

 「どうどうとしていればいいんだよね!」

 

 セロの言葉に頷き、階段を登って来た奴らと入れ違いに階段を降りていく俺達。

 そ知らぬ顔ですれ違うと、一人だけいい服を着ている男が目を見開いてこちらを向いた。


 「お、おい、止まれお前達!」

 「ん? なにか用?」

 「そ、その二人は……」

 「俺の友達になにか? ちょっと体調が悪くて今から降りるところなんだけど」

 「……そうか」


 そう言いながら目を細めて俺の顔をじっとみてきたが、


 「用がないなら行くよ。コウ、セロ、行こう」

 「おう」

 「はーい」


 とっととこの場を離れようと歩き出す。

 背後で苛立った声を上げながら船を探せという貴族が滑稽でならなかった。

 間違いなくこの二人が積み荷だと、目が言っていたからだ。

 

 さて、この後どうでるかが船着き場の建物を出たところでギルドと警護団の人間に声をかけられた。


 「その二人が誘拐されたらしいっていう子か……むう……」

 「はあ……獣人か……面倒ごとだなこりゃ……あのお坊ちゃん、やってくれたな」

 「まだ証拠はないがな。とりあえずこのまま警護団へ身を寄せてくれ、送り返す手段を考える」


 囮にもしたいが、と小さく呟いていたのを聞き逃さなかった。

 タレ目のギルド職員がため息を吐いていたが、さっきの貴族は結構問題ある人っぽいかな?

 ま、とりあえず安全を確保されたので甘えておこうか――

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