136.ライクベルンへの道
「ご利用ありがとうございました。君みたいな子供でも乗船できるようになったのは良かったわ。ツィアル国のごたごたも完全に終わったみたいね」
「そうだね。また使うと思うからその時はよろしく」
チケットの半券を渡して船着き場を出た後、金をこの国のものと変えてから俺は町中へと向かう。レートは殆ど変わらないが、少し前までツィアル国の通貨価値は低かったらしい。
ちなみにジャンクリィ王国の通貨単位は『ルベル』である。
換金してから町へ出てから俺は周囲を見ながらゆっくり歩き出す。
「七万ルベルあれば当面は平気か? とりあえずもう陽が暮れるけど、ギルドには顔を出しておこうかな」
<そうですね、なんか感じ悪そうだったら次に行きましょう>
まあ受付の態度次第だよな。
ツィアル王都のギルドは雰囲気が良かったし、イークンベルのギルドも悪くなかった。今となっては懐かしいゲイツみたいにしっかりしている人間が居れば問題は無いと思う。
「さて、と。ギルドはどこだ? 港から一歩入っただけで全然風景が変わるなあ」
<右に大きな建物が見えません?>
「お、それっぽいな。宿でもいいし、行ってみるか。それにしてもお前、どこで視認しているんだよ……」
以前から気になっていたことを尋ねてみる。
俺の視界をジャックしているのかと思ったが、今はでかい建物を視認していないので、こいつ独自の情報収集があると見てよさそうだ。
<なんというか、360度のシネマを見ている感覚ですかね。後ろにも目がついている、みたいな感じもあるますよ>
「なんかアニメのパイロットみたいなことを言う……なら、背後から来た敵とかは教えてくれよ」
<はーい>
今更ながら有益な情報を得たなと思う。聞けば答えるが、俺のスキル要因としか認識がないからこの先一人なら背後を確認できるのは相当有利だ。
そんなリグレットが不安げな声で口を開く。口があるのかはわからないが。
<あの犬耳兄弟、大丈夫ですかね?>
「気にはなるけど、俺ができることって無いからな。おっさんに任せるしかない。どちらかと言えば物々しい雰囲気がした奴らの方がなんだったのか気になる」
まあ誰か待ち人が居たのかもしれないから珍しくないと思うけど、随分物騒だと思ったものだ。
もちろん俺になにかをしてくるわけでも無いのでそのままスルーして出て来た。
まあ、あの兄弟はとんぼ返りだろうなと思いつつ、大きな建物に到着する。
「いらっしゃいませ。一人かい? 親御さんは?」
「俺一人だよ。冒険者なんだ」
「おや、本当だ。……子供でも冒険者か、珍しくないが一人とは大変だな」
「好きでやってるけどね。適当な部屋空いてる?」
恰幅のいいおっさんがパーティを組んでないのかと遠回しに聞いてくるのを流して先にチェックインを終えてギルドへと向かうため宿の親父さんに場所を聞く。
「ギルドってどこにある? ちょっと顔を出しておこうと思って」
「ああ、裏通りをまっすぐ行くとあるよ。熱心だな、金がない……ってわけじゃなさそうよな、宿に泊まれるくらいだし」
「交通費はいくらあっても困らないからな」
「なるほど。帰ったら風呂に入れよ、潮風に当たってたろうしゆっくりできるぞ」
「サンキュー」
なかなか気が利くおっさんだな。
船だと真水が貴重だから体を拭く程度だったから風呂は確かに嬉しい。
楽しみが後にあることで軽くなった足をギルドへ。
「こんにちは」
「しゃーい……。ん? 子供? 冒険者か?」
「話が早いね。はい、カード」
「おう、マジでそうなのかよ、やるな坊主」
細身で無精ひげをしたタレがちな目を俺に向けてすぐび冒険者かと言ってきたのでカードを見せた。
近くに居た男も驚いた声を上げるが馬鹿にした感じはないのであんまり差別しない風潮がある国なのかね?
「アルフェンか。ツィアル国で作ったカードを確認……と。……お前、すごいな」
「そう言ってくれると鍛えがいがあるよ」
「もう陽が暮れるが、依頼やるか?」
「今日はいいかな。で、ライクベルンに手紙を出したいのと、戻るまでの道を教えてもらえると助かる。乗合馬車があるか、とか」
俺がスラスラと用件を言うと、タレ目の彼は片目をつぶってから口を開く。
「……ライクベルンか? 用があるなら止めはしねえがあんまりおススメはできねえな」
「え? どうして?」
「冒険者同士、噂の域をでないんだが随分窮屈な国になっているらしい。犯罪の厳罰化はいいことだと思うが、騎士達が町をうろついて外国人や冒険者に難癖をつけているとか聞くぜ?」
「マジでか」
「ああ、だからこっちへ稼ぎに来る冒険者も多い。魔物は騎士様がなんとかしてくれるから食いっぱぐれちまうってよ」
「悪いことは言わねえ、止めときな」
他の冒険者も俺の頭や肩に手を乗せたり、ため息を吐いたりと冗談ではない雰囲気だ。
それでも一応は確認しておくべきだろうと受付に聞いてみると、ライクベルンまでの乗合馬車はジャンクリィ王国の国境付近の町まであり、次いで徒歩で国境を越えて、ライクベルンの南にあるヘイル国で都合をつける必要があるらしい。
金額は国境まで乗合馬車を使うと4万ルベルはかかる上に約10日間の旅なので、生活費を考えると少々厳しい。
やっぱり稼ぎながら進むしかないと、取り急ぎどんな依頼があるか確認してその場を立ち去る。
<遠いですねえ>
「これでも南から行くよりは早いからな。さて、明日に備えて飯食って寝るか!」
地図をたたみながらレストランを探して早い食事を摂った後は風呂へ直行。
後はゆっくり寝るだけだと揺れないベッドへ入るが、夜中に叩き起こされることになった。
「アル……アル……」
「アル兄ちゃん……」
「ん、ん……? 誰だ?」
「……! 居た! オレだ、コウだ!」
「……はぁ!?」
窓の外から聞こえてきた名前で寝ぼけ眼の俺は一気に覚醒する。
なんでここに? と思いながら窓を開けると、その後ろには見たことのある若い船員がおどおどしながら立っていた。
真面目な話……どうしたんだ?
とりあえず中へ入れて話を聞くことにしたのだが――
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