135.モフれ、ウォルフ族!
「名前は?」
「オレはコウ。こっちが弟のセロだ」
「はぐはぐはぐはぐ!!」
「こら、ゆっくり食わないと――」
「ごほごほ……!?」
それみたことか。
俺はセロの背中を軽く叩いて飲み込ませてから水を飲ませてやる。
「ぷはー! ありがとう!」
「おお、すぐお礼を言えて偉いな」
「ふふふー」
ふむ、ふかふかの耳だ。横には人族のような耳が無いのでそういうものか。
とりあえず落ち着いたみたいなので、食事を終えたタイミングで何故ここで居るのかを聞いてみると、気づいたら樽に入れられていたらしい。
なんとか抜け出したところで空腹を感じて調理場に侵入して現在の状況というわけだった。
「どこに住んでいたんだ?」
「オレ達ウォルフ族がアイゼンの森って呼んでいるところだ」
「多分、連れ去られたと思うんだけどなんか覚えがないか?」
「……覚えてない。森で狩りをしていたんだけど、どこからかいい匂いがしてからここまでの記憶がないんだ……」
「おかわり!」
「おう、良く食うな弟は。ふうむ、これは事件だな」
セロにおかゆらしき食べ物を渡しながらおっさんが顎に手を当てて呟く。
俺も頭を掻きながらその言葉に同意する。
「事件……だよな、どう考えても。誘拐だと思うけど、どうしてこんな回りくどいことをしたのかが気になるな」
「ほう、考えているな坊主。その通りだ、アイゼンの森はこの前立ち寄った港町からだいたい3日くらいのところにある。誘拐は間違いないだろうな……ただ、メリットがない気がする」
「俺はアルフェンだよおっさん。なんか性悪貴族みたいなやつが愛でるために欲しい、とか?」
「俺はビルってんだアルフェン。どうかなあ……俺達ゃツィアルの人間だからそこまで情報に聡いってわけじゃねえんだよ」
それもそうかと俺は腕組みをして納得する。
まあ、場所も分かっているし後は折り返しでもなんでもして帰すのが筋だろう。
後はビルのおっさん……船長だった……がなんとかするらしい。
「しかし困ったもんだ。積み荷を確認したやつをとっちめないといかんな」
「そういや積み荷に行き先が書かれているんじゃないのか? 発着の両方を問い詰めるべきだと思うんだけど」
「まあな。とりあえずこいつらは適当な客室で預かっておくよ」
「オッケー、なら俺の役目も終わりだな。コウにセロ、大人しくしていたら森に帰れると思う」
「「え!?」」
俺が立ち上がって部屋に戻ろうとすると、二人が目を丸くして驚いていた。
なんだと思っていると、二人は俺の腰に絡みついて懇願を始める。
「人族の大人と一緒は嫌だ、怖いし! 一緒にいておくれよ!」
「うんうん! にいちゃんとにいちゃんと一緒がいい!」
「ええー……」
「ははは、アルフェン頼めねえか? 子ども同士の方が気が楽だろうし、お前は賢そうだ。どうせ海の上だし、よしんば次の港で逃げたとしても俺達に罪もねえ」
「……大丈夫なのか?」
難癖をつけられて金をとられるんじゃないかと危惧したが、さすが異世界、肝が据わっている返答を受けた。
「樽に人を詰めて運ばせようとしたんだ、密猟と変わんねえ。もしツッコまれたら『なにを運んでいたんですか?』って問えばだいたい黙る。送り返すのをどうするかはギルドと調整だな……」
そんなことを言いながらビルは俺達の頭を撫でて他の船員に指示を出しながら持ち場に戻っていった。
「まあ、暇だったしいいけど……」
「良かった……」
「わーい!」
「くっつくな!? お前達何歳なんだ?」
「オレは14だ。セロは8歳だな」
「へえ、俺より上なんだな。コウ兄ちゃんか」
「へへ!」
というわけで、なんか懐かれてしまった……
俺より年上だが田舎者臭がするコウをそのまま放逐するのも可哀想だし、精神年齢はこっちが上なので構ってやることにした。
で、ウォルフ族は見ての通り獣人でふさふさの尻尾と耳がある。それだけだとコスプレっぽいが、本気を出すと顔や関節、手足が犬っぽくなることが分かった。
「おお、肉球だ」
「くすぐったいよー」
セロはまだ子供なので手くらいしか変えられないらしいがこれは癖になる。
さらに分かったことといえば、身体能力がすこぶる高い。
船上の訓練をしている時にコウが相手をしてくれたのだが、揺れる船の上を縦横無尽に駆け回るコウはかなりいい相手となった。
「へへ、こっちだぜアル!」
「重心移動すればこれくらいは……!」
俺の水面蹴りを咄嗟に回避してバランスを崩すコウに体当たりを当てて床に転がす。
「わわ!?」
「コウにいちゃん頑張れ!」
ウライハの港町に到着する前日にはなんとか捉えられるようになったけど、獣化した状態だとまだ不利だったりする。
が、なかなかいい訓練になったと思う。
で、いよいよ港町に到着した俺達は下船に向けて準備をする。
「そういえばおトイレで出したうんちって海にそのまま流れていいのかなあ」
「汚いぞセロ……。まあ、魚の餌になるから大丈夫だろ」
「それはそれでお魚を食べにくくならない? 僕はお肉の方が好きだからいいけど!」
言わなきゃいいのにと思うが、まあ子供だしな。
ある意味素直な生き方をしてきた者の感想というところだろう。
そんなどうでもいい会話をしながら部屋を整えて降りる準備をしていると、ビルのおっさんがノックしながら声をかけてきた。
「おーい、どうだ?」
「ああ、降りる準備はできたけど二人はどうするんだ?」
「とりあえずギルドに相談しにいくからしばらく乗せておくよ。多分、ギルド経由で送り届ける形にするだろうな。それに依頼主が取りに来れば事情を聞くことになりそうだから、とっ掴まえておかないといかん」
「そっか。なら、今度こそ本当にお別れだな。元気でな、コウ、セロ」
「ええー! もっと遊びたいよー」
「こら、ダメだぞセロ。アルにはやることがあるんだから」
不満気なセロを抱きしめて止めているのを見て苦笑する。
なんだかんだとセロは大食いで微笑ましくもあったし、大人しいルークとはまた違った弟感があって楽しかった。
無事に帰れるといいなと思いながら二人と別れ、階段を降りて久しぶりの地上の感触を味わいながら背伸びをする。
「んー! 硬い地面だな!」
<うう……セロ君……>
「何故お前が泣く。さて、ギルドに行って手紙と仕事を――」
「「……」」
そう思いながら建物の中に入ると、物々しい感じで武装した連中がいることに気づいた。
こいつら、下船客をまっているにしてはピリピリしているな……?
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