235.凱旋


 概ね今回の事件がどういう類のものだったのかを陛下に伝え、後は俺の処遇をどうするかというところでまさかのサンディラス国からの使者。

 まあ、ライクベルンへ侵攻をしようとしていたから改めて謝罪という意味もあるのかもしれない。

 こっちはいつでも話ができるからと陛下はサンディラス国からの使者を招くのを優先。

 なぜか俺達も同席するように言われてダンスなどで使うホールへと案内された。


 「謁見の間じゃないのかい?」

 「来客が多いので申し訳ないのですが、ホールで会談をと陛下が」

 「まあ、ボクはいいけど。とりあえず王都は平和そうだね?」

 

 と、聞いたことがある声が耳に入り、俺とギルディーラは渋い顔で見合わせる。

 そしてホールの扉が開いた瞬間、お互いの目が合う。


 「あ! ボクのアルフェン君……!!」

 「ダレデスカ」

 「酷くないかい!?」

 

 なんでここにダーハルが居るのか分からないけど、とりあえず今は俺じゃないだろうと目配せをして陛下に向かせる。


 「お初にお目にかかります。ボ……わたしはサンディラス国の王女ダーハルと申します」

 「遠いところをようこそダーハル殿。それで今回の訪問理由は?」

 「ええ、そちらに居るアルフェンが先日、我が国を経由してジャンクリィ王国へ向かったと報告がありましてね。なぜそんな回りくどいことをしていたのか? もしかしたらなにかあったのではと追いかけてきた次第でありますよ」


 国境の兵あたりが気にして報告したってところか。

 たしかに城に報告してここへ来たならこのタイミングは有り得るな。


 「まあ、色々あったが……もう済んだことだ。ご心配をかけるようなことはもうありますまい」

 「左様でございますか。それはなによりです。少し観光をしたのち帰還いたします。……こちらをお納めください」

 「これはご丁寧痛み入る」


 ダーハルは俺を見てニヤリと笑う。

 特になにも無かったことに安堵しているようにも見えるし、観光とかこつけて同行してきそうな笑みともとれる。

 サンディラス国で採れる果物や布、金属の器などを土産として献上し、ちょうど昼飯時ということで一度解散となった。


 部屋へ行き、爺さんと二人だけになったところで先ほどの件を話すことにする。


 「爺ちゃん、俺はシェリシンダ王国へ戻るよ」

 「む……」

 「リンカも連れて約束通りエリベールと結婚する。爺ちゃんはどうする?」

 「……ワシも同行する。婆さんもな」

 「そっか……屋敷、空けることになるのは父さん達も寂しいかもしれないけど……」


 たまに帰ればいいと俺の頭に手を置いて微笑む爺さん。

 屋敷は誰かに管理してもらえればいい。例えばイリーナに譲渡しても彼女なら戻った時に受け入れてくれると思う。


 エリベールとの約束を反故にするのは違うので、結果がどうあれ俺はこの国を出て行くことになっていたのだと思う。

 例えば……そうだな、俺に子ができて国王を引退になれば屋敷に戻ってくるのもいいかもしれない。


 「よし! 前向きに行こう!」

 「うむ。しかし、あのサンディラス国の姫はどうしてアルフェンをあんなに熱っぽく見ていたのだろうな」

 「……さあ……」


 褐色巨乳眼鏡という属性てんこもりのダーハルだが俺には響かないので適当に流しておく。性格は悪そうに見えてそうでもないからいい子だとは思うけどさ。


 食事を経て俺達は再び謁見の間へと通され、父さん達を含めた全員に報奨をプレゼント。各国に事情を伝える書状も受け取り、一旦屋敷へ帰ることに。

 爺さんは事後の処理と先ほどの国を出る件について話をするため遅れて帰ることになる。


 「いやあ、死にかけた甲斐があったな。あの黒ずくめは強かったぜ。楽しかった」

 「あんたってば本当に頭おかしいわよねー。守ってくれて助かったわ、ありがと」

 「おお!? ロレーナちゃん、オレに惚れ――」

 「ばーか♪」

 「ひでぇ……!?」


 王都を後にした俺達は、一路フォーリアの町へ急ぐ。

 パーティをすると言っていたがこちらの私怨とそれに巻き込まれた側という点を考えると祝ってもらうようなものではないだろうと断ったためだ。

 やるとしても俺達だけでやるべきだと思う。


 「ブルベエェェ」

 「頑張れー、ペロー!」

 「すっかりラクダを気に入ってるな……」

 「珍しいしからだよ。あんたの生家に行ったらご両親に挨拶をしないとね」

 「うん。多分喜ぶよ。家には狼も居るし、双子に遊んでもらおうかな」


 母さんが並走しながら苦笑し、嬉しいことを言ってくれる。

 オーフやロレーナなんかも一緒にいるので、夕飯は豪華にしてもらいたいもんだ。


 「ルーナ、いいなあ」

 「後で交代すればいいだろルーク」

 「うん!」


 ラクダのペロには俺が搭乗してルーナを膝に乗せている。フタコブラクダのコブを掴んで安定しているので落ちることはないだろう。

 

 そして道中、町で一泊した後フォーリアの町へ到着する。

 高台から見えたのだろう、入り口ではリンカたちが立っていて手を振っていた。


 「ただいま、リンカ」

 「おかえりなさいアル!」


 挨拶を交わしてようやくすべてが終わったのだと俺達は微笑むのだった――

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