運命を操る者
234.はじまり
「ア、アルフェン君……!」
「終わったみたいだな」
「ロレーナ、オーフ無事だったか! ……ディカルトは?」
「あ、あそこに……」
外の空気が一変し、町が『動き出した』と感じていた。
門番もなにが起きたのか分からないようで、内側から走って来た俺達に驚いていた。
俺と母さん、それと双子はロレーナ達を迎えに走り、爺さん達は陛下の無事を確認するため二手に分かれている。
オーフもロレーナも怪我が酷く、すぐに回復魔法で治療するがディカルトの姿が見えなかった。
ロレーナが涙目で指を向けた先には木にもたれかかり、血だらけの彼が居た。
「……!? おい、ディカルト! しっかりしろ!? 冗談だろ……? 目を開けやがれ!! 【
「うう……」
ロレーナが涙を流し、ディカルトは目を覚まさない。
まさか……本当に死――
「起きなさいー!」
「起きろー!」
「うるさっ!?」
俺が愕然とする中、突然双子が収納魔法からフライパンとお玉を取り出し、ディカルトの耳元でガンガン鳴らし始めた!
「ルーナ、ルーク。こいつはもう……」
「うおおおおお、うるせぇえ!?」
「もう起きた!?」
「あん? アル様? 川の向こうに親父が居たけど夢だったのか……?」
「紙一重だったっぽいな……でも良かったよ」
「?」
どうやら父さんが朝起きて来ない時によくやる儀式らしく、母さんに叱られていた。だけど、おかげでディカルトは目を覚ましたので二人を撫でておくことにした。
「うわーん! 良かったぁぁぁ!」
「おう!? いてて……ロレーナちゃん、勘弁してくれ……」
「あ、ごめん」
「妹を守ってくれてありがとうな」
「そりゃあ仲間ですからねえ。アル様がここにいるってことは……」
「ああ、終わったよ」
俺がそういうと、ディカルトは笑っていた。
成し遂げたという意味では間違いなく同志でもあるしな。
そこへ黒い鎧を着た男が足を引きずりながら俺達の前に姿を現した。
「……王女が、負けたか。『英雄』を倒すとは……」
「消えなかったということは人間か」
「ああ、その通り。私もそう長くはあるまい、歳は取りたくないものだが……若者に次を任せろということだろうか」
「……」
仮面を取った顔のその下はウチの爺さんとそん色ないくらいの爺さんだった。
その場にへたりこんで誰にともなく呟いたをの聞いて、俺はそいつに近づいて回復魔法を使う。
「坊主……」
「……あんたにはまだ聞きたいことがある。ラヴィーネのことや国のこと、知っていることをな」
「……そうだな、あの方ももう居ない。できる限りのことは話してやろう――」
全員無事に帰還。
それが復讐を成し遂げたことよりも嬉しかった。
そして黒ずくめの男、名をハリヤと言うらしい。
彼が語ったことはそれほど難しいこともなく直属の部下四人、通路で倒した三人とハリヤだけが人間で、若いころから仕えていたらしい。
各地は平和に見えるが縮図にすると問題はあちこちにあり、ディカルトのような目にあった者達がラヴィーネに救われたのだという。
国民は殆どアンデッドのようなもので、無念を血で具現化し生前と変わらない状態にすることができる【呪い】なのだそうだ。
故に、ラヴィーネが生きていた場合復元ができるため無敵の軍団に成り得るが、主人が死んだので全員等しく還ったというわけだ。
「……あの方は自分が不幸でありながら、我等に手を差し伸べてくれた。だが長く生きすぎた。あの本を使って死ぬ方法を探していたと言っても不思議ではないだろう」
「目的までは聞いていなかったのか?」
「知ったところで王女がやることに異を唱える者は居ない。一度死んだ身だ、盲信と言われようと我らはついていっただろう」
「人間に復讐するために、か」
無敵の兵士を持つラヴィーネは直接的な力で亡ぼすことができたというわけか。
……でも、それでも手を下さなかったのは……まだ、どこかで人間を信じていたのかも、しれないなと俺は思った。優しすぎた『英雄』が悪魔に変わる。
それは外ならぬ同族による障害だったのだから。
そしてペロや馬達を回収し、仮眠を取った俺達。
そのまま長かった夜が明けると、陛下に呼び出されていた。
町の人も含めて全員無事で、犠牲者はゼロ。
すぐに時間が凍結し、陛下達は何気に数日程度しか経っていないとの認識らしい。
本を手に入れて死ぬつもりだったからだろうか?
そのあたりはもう分からない。
「……まさかかの王女が『英雄』ラヴィーネ=アレルタ本人だったとはな。それにアルフェンの父親がその直系とは」
「血はかなり薄くなっているでしょうが『ブック・オブ・アカシック』によるとそういうことのようです」
「ふむ……最悪の事件を起こした者の子孫が収束する、か。色々と考えることはあるが、まずは助けてくれたことについて礼を言う」
「いえ……発端は私の『ブック・オブ・アカシック』なので、申し訳ない気持ちの方が強いですが」
そこは隠さずに伝えておく。
祖父母には関係ないが、直系となると俺に対してなんらかの要求があってもおかしくない。だから先手を打つことにした。
「……陛下、私はこの国を出ようと思います。今回の事件を起こした者が土地に居るのはあまりいい気分ではないかと。ここには助けに来てくれた養父母と兄妹もおり、シェリシンダ王国には婚約者もおりますのでそちらへ移住させてもらえたらと」
「むう……」
「その時はわたしめも妻とついて行く所存であります。どちらにせよ、復讐を終えたらシェリシンダに戻るとエリベール姫と約束しているので、都合はいいかと存じますが?」
爺さんが目を光らせると、陛下は難しい顔で手を振る。
「分かっている。他国の者が居る中で私を悪者にせんでくれ。イークンベルとジャンクリィからご足労いただき感謝する。『魔神』のギルディーラ殿も」
「息子のためですからお気になさらずに」
「わたし達もアルフェン君には助けてもらいましたから」
『サンディラス国を荒らしていた水神の裏に居た者がヤツだった。こちらとしても話が早くて助かった』
各々笑顔で頭を下げる陛下へ返し、今後の話をする……はずだったのだが。
「お話し中に失礼します! 王都の入り口にサンディラス国からの使者が来て、謁見を申し出たいとのことです」
と、なぜかサンディラス国からの使者が現れたらしい――
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