236.平和な一日


 「わんわんだ!!」

 「ペロもいっぱいいるよ!」

 「きゅぅん?」

 

 無事帰還した感動もなんのそので開口一番に駆け出して行ったのはやっぱり双子だった。

 ルーナはリンカの足元でお座りをするクリーガーに向かい、ルークは残りのラクダであるペラとペルに目を輝かせていた。


 「撫でていい?」

 「クリーガー、この子は妹だ、いいよな?」

 「うぉふ♪」

 「わー♪」


 いつも洗って手入れをしているので手触りがとてもいいクリーガーをルーナは抱っこしてご満悦、三頭揃って『ブルベェェ』と鳴くラクダたちに大興奮のルーク。


 「ふふ、可愛いわね」

 「動物に興味がある内は大人しいだろうからこのまま見守っておこう。婆ちゃん、今の双子とこっちの夫婦が俺を育ててくれた両親だよ」

 

 俺が促すと婆さんがお辞儀をして挨拶をする。

 

 「初めまして、アルフェンの祖母バーチェルです」

 「お初にお目にかかります。イークンベル王国が騎士、ゼルガイドと申します。それと妻のカーネリア」

 「初めましてバーチェル様。ほら、あなたたちも挨拶をするんだよ」

 「ルーナです!!」

 「ルークです!」

 「ふふ、元気ねえ。……予言の通り、戦いに出向いたのですね? 育ててくれたこと、今回の戦い。どれだけお礼を言えばいいか」


 婆さんが困った顔でそういうと、母さんは手を握って微笑む。


 「お礼はもうあの子からもらっていますよ。この子達が産まれて来たのはアルのおかげなんです。だからお礼なんていいんですよ」

 「でも……」

 「妻の言う通りです。……娘さん夫婦が亡くなられたことは聞いております。代わり、とは言いにくいですが我々もアルを本当の息子のように思っております。だから家族として接していただけると嬉しいです」

 「父さんいいこと言うね」

 「こら、アルフェン。でも、素敵なお話ですわ。もちろんこちらからお願いしたいくらいです」


 婆さんがそう言って微笑み、母さんと抱き合う姿に涙腺が緩む。

 一通り挨拶が済んだところでイリーナが口を開く。


 「さあ、皆さんお疲れでしょう。まずはお屋敷へおいで下さい。私はイリーナ、ゼグライト家の使用人でございます。以後お見知りおきを」

 「私はリンカと申します。居候、になるのかな?」

 「えー、アルフェン君の恋人じゃない」

 「ロ、ロレーナさん!?」

 「アル、お前エリベール様がいるのに……」

 「ま、まあ、そこは後でね! 色々事情があるんだよ」

 「ふうん?」


 父さんと母さんの目が鋭くなる。ここで余計なことを言ってしまうあたりロレーナはロレーナなんだろうな……。


 「まあまあ、皆さん。今日は無事帰れたことを喜びましょうや。俺も疲れてるんで早く休ませてもらえると助かるんですが……」

 「オーフの言う通りだよ! さ、行こう行こう!」


 助け船を出してくれたオーフのさらに後ろで不機嫌な顔が口を開く。


 「……なんでボクの紹介はないのさ! 婚約者が居て恋人が居るならボクも候補としていいんじゃないか?」

 「いや、勝手についてきたし……」

 「そちらは?」


 俺の横で首を傾げるリンカに、何故かついてきたダーハルが胸を張って答えた。


 「サンディラス国の王女ダーハルだよ。アルフェンには世話になったから、ピンチに駆けつけたのさ!」

 「もう終わった後だったけどね。さ、屋敷に行こうベッカードさん」

 「う、うむ……姫、ここは異国。我儘を言わずに従いましょう」

 「ぐぬう……」

 

 俺が歩き出すとその場に居た全員が苦笑しながら後を追いかけてきた。

 ま、これも平和な証拠だ。

 ダーハルも下手をすれば水神の餌食だったわけだし。


 「……すごい視線を感じるわ」

 「少しだけ我慢してくれ、すぐに帰ると思うから……」




 ――そんなこんなで無事、全てを終えて屋敷へと帰還することができた俺達。

 

 爺さんが戻ってから祝勝会と称したパーティを行い、婆さんとリンカ、イリーナにシェリシンダ王国行きを告げると、二つ返事で頷きついてきてくれることとなった。

 引越しの準備があるので先に父さん達は帰還し、イークンベル王国とシェリシンダ王国にそのことを話してくれるそうだ。一応、俺もエリベールに手紙は出すけど。

 で、俺達は半年以内にはライクベルンを出立することに。

 陛下は残念がっていたが、境遇などを考えると手放しでここに居てもらうのは難しいようでラヴィーネの強襲と俺の救援で相殺ということにした。

 褒美はそれぞれお金だが、それが一番助かるのだ。


 で、ここにダーハルが居たのは僥倖でイークンベルを繋ぐ大橋が出来てから大きな荷物を運ぶことになるのを手伝ってくれるらしい。

 そしてイリーナはここに残ってもらうことを了承。ただ、一度マイヤには会いたいと言うので移住する際に港町まで案内することを約束した。


 一人で広い屋敷に、とは思ったが槍使いのスチュアートがイリーナに惚れたらしく、結婚を前提とした交際を始めた。ちょっと驚いたけど、ウチに出入りしていたから、有り得なくはないかと。


 もうひとつ驚いたのはディカルトで、俺がシェリシンダ王国に行く時に屋敷を出てオーフとロレーナについていくといいだした。

 本気でロレーナに惚れたディカルトは体を張って彼女を守ったわけだけどそれが良かったようだ。なので、先に暇を出してジャンクリィ王国へ。

 殺し合いをした仲だが、過去のことを考えると幸せになって欲しい。


 俺の復讐が終わり、ようやく時が動き出した。そんな気もする。

 そしてその立役者である『ブック・オブ・アカシック』は、あのラヴィーネを倒した日より、俺が語り掛けてもなにも記さなくなった。

 すべてが終わった今、必要がないと言えばその通りだけども。


 平和になったらなったで慌ただしい日々は、続く――

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