108.記憶を呼び起こす


 現場にいる人間の口封じ兼、脱出の算段をするため天井に放ったエクスプロード。

 当然、あっという間に粉々になった瓦礫がその場にいた全員に降り注ぎ、カーランに追及するどころではない状況に。


 「アル……!」

 「俺のことは後でいい! そこの大臣さんと魔人族を頼む、命の恩人だ!」

 「うるさいぞ……! こっちだ」

 『アルフェン!!』

 

 瓦礫が落ちてきて、追いかけて来ようとしたグラディスの姿が遮断され、俺はカーランに引きずられて王宮の奥へ。


 「く、くくく……これだ、この本さえあれば……」

 「……これからどうするんだ? 国王の病気が治らないとお前は詰められるんじゃないか?」

 

 ポーションを傷口にかけながら俺を引きずっていくカーランに質問を投げかけてみる。

 『ブック・オブ・アカシック』が手に入り、混乱の中で口が滑りやすくなっていないかと思ったが――


 「国王か、あれはもうダメだな。元々、私がここへ来た時に出会った先代と同じ病気のようだが、あれこそ【呪い】なのだろうな? くく……」

 「お前……まさか、そのために……シェリシンダ王国の呪いは200年前からあるらしいがそのころにはここに居たのか?」


 ……時系列が合わない。

 200年前からエリベールの一族に呪いがかかっていると言っていた。そして『ブック・オブ・アカシック』が言うにはこいつが原因。


 食い違いがあるのかと思いふいに口にしたが、カーランは特に何でもないといった感じで言う。


 「200年前とはよく知っているな。だが、私がこの国に潜り込んだのはほんの30年ほど前だ。シェリシンダへの呪いは個人的に必要だったからな……」

 「ならここの国王が戦争をしたいというのは――」

 「私が捲いた噂にすぎんよ。戦争をしたい王が民を苦しめるのは歴史でも良くある話だ、そうでなければあの時も……」

 「あの時?」


 俺が聞き返すと、カーランは一瞬口を噤んだあとに話を続ける。


 「……病気の人間を助けて潜り込む。実験には金や人はもちろん、命もかかるものだ。くく、最初は【呪い】の症状が和らぐようにしたから信用されたものだよ」


 ――なんだかんだで割とペラペラ話してくれた。

 気が大きくなったやつにはよくあることだが、これはフラグというやつにも見えるな。

 とりあえず人質が俺だけなので暴れれば逃げ出すこと自体は簡単そうだが、こいつは俺を殺す気は無さそうなのでもう少し様子を見ることにする。


 すると――


 「ああ、カーラン殿! 轟音が聞こえてきましたが一体なにが!?」


 なかなかの美人と子供と連れて慌てた様子の兵士が目の前に飛び出して来た。

 カーランはにやけていた口をスッと一文字に戻して返答をする。 


 「……賊ですな。今、向こうで足止めをしたところです。危ないので部屋へお戻りください王妃様」

 「賊ですって? なにを悠長なことを! 夫は動けないのですよ、早く兵士に指示をだしてあなたも捕縛に回りなさい!」

 「怖いよおかあさま……」


 息子だろうか? 双子より少し上くらいの男の子が震えながらスカートの裾を掴んでいた。

 

 「チッ……」

 「お前、王妃様に舌打ちはないだろう」

 「うるさいぞ。実験材料でなければ縊り殺しているところだ。……ふん、この国にはもう用は……ない!」

 「おいおい!?」

 「え?」


 カーラン様子を伺っていたが、いきなり目の前の三人に魔法を撃つ態勢に入ったので俺は慌てて首根っこを掴んでいたカーランの手を払い、後ろから体当たりを仕掛けてやった。


 「うぬ……!?」

 「カーラン殿、乱心されたか!?」


 バランスを崩したかカーランのファイヤーボールが壁を破壊すると、兵士が槍を構えて王妃たちの前に立って叫んでいた。

 これ以上は無理かと、俺も収納魔法にいったん戻しておいたマチェットを抜いてカーランに斬りかかる。

 すんでのところで回避されたが、こちらに身体を向けてくれたことで思惑には乗ってくれた形だ。


 「お前……!!」


 こちらに注意を逸らさないとあの三人ではまず間違いなく瞬殺されるためだ。


 <この人なんだかんだで強いですけど大丈夫ですか……>

 「心配するな、なんとかする!」

 <適当すぎません!?>


 リグレットが驚愕の声を頭の中で上げるが、救援は期待できない以上ここは俺とあの兵士でやるしかない。

 

 「そこの兵士さん、王妃様を連れてさっさと奥へ行ってくれ! ここは俺が食い止める」

 「し、しかし、カーラン殿に話を……」

 「なにを聞くつもりだ! 王妃に牙を向けた時点で敵だと認識しろ! 人を呼べ、出来るだけ多く」

 「あの子の言う通りです。誰かは分かりませんが感謝しますよ」


 俺が兵士に叫ぶと、王妃は共に後ずさりをし、すぐに背を向けて駆けだした。

 それを横目で見ていたカーランが再び魔法を撃つため手を広げて詠唱を始めたので、一歩踏み込み剣を振るう。


 「<アイシクル――」

 「させると思うか?」

 「……だろうな!」

 「!?」

 <アル様!>


 急にこちらを向いてアイシクルダガーを打ち込んでくる。

 不意をつかれた俺はもろに魔法を受けて傷だらけになっていた。


 だが、俺も男だ、


 「うううおおおおおおお!」

 「『大いなるマナよ盾となれ』<シルバーガード>」


 根性でカーランの右腕を大きく切り裂いてやった。それと同時に床に倒れこむ俺。


 「ぐは……!?」

 「つう……馬鹿な……咄嗟に張った私の防御魔法がまったく働かなかっただと……面白い……面白いぞアル=フォーゲンバーグ……」

 「くそ……」


 カーランが『ブック・オブ・アカシック』をふところに収め、左手で俺の頭を掴んでにたりと笑う。


 「くく……あのような連中など殺す必要も無い。お前と本があればいくらでもやり直しができるのだ……」

 「村の人は……どこだ……」

 「気にするな、もうアレには手を出さん。どこがいいか……海を渡ってギンドレイトかライクベルンあたりへ行けば……」


 故郷の名前が出てきて俺は痛む体を動かしてカーランの腕を拳で叩きつける。


 「まだそんな力を。寝ていればすぐに別の場所へ連れて行ってやるぞ」

 「はあ……はあ……」


 マチェットを構えて睨むが、この傷は結構きついな。

 まあ、死ぬほどではないのでせめて足止めができればと思う。あの兵士が人を呼んで来れば少しはマシになるはず。


 カーランのローブもかなりボロボロになり、右腕も大けがをしているので、向こうも余裕はないはず。

 しかしその時、懐に『ブック・オブ・アカシック』を入れた時に出たであろう梟の形をしたペンダントを見て思い出す。


 ‟治療法……【呪い】を解く方法は一つ。ツィアル国の宮廷魔術師の持つ‟梟の瞳”を破壊するしかない。”


 ……!

 そうだ、エリベールがツィアル国のことを話しだしていたから忘れていたけど、解除法は書いてあった!


 この土壇場で思い出すとはついているのかそうでないのか……

 ま、やるしかないか……!! 俺は足を踏ん張って再び仕掛けた。

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