109.思いがけないこと
「ここで終わらせる!!」
「子供は大人しく言うことを聞いていればいい! 『火は力となる<ファイアアロー>!」
「<アクアフォーム>!」
「無詠唱……!? それに防ぐだと! ならば――」
俺を捕まえたいカーランは未だに殺さないようにミドルクラス程度の魔法を使ってくるが、呪いの解き方が判った今、俺が手加減する必要は無い。
というわけで俺の気力が持つ間にこいつ倒さないといけないので、ファイアアローをアクアフォームでかき消しながら手足の一本はもらうつもりで斬りかかる。
だが、浅い。
出し過ぎた血が体力を奪い、思った動きが出来ていないからである。
ローブの端を切り裂いたところでカーランが後ろの飛びのき、そこで顔を覆っていたフードが外れた。
「……!」
「くっ、見るな……!」
カーネリア母さんと同じく長い耳とオレンジに近い髪の色。
耳はエルフだと知っていたから問題ないし顔もエルフらしく美形なおっさんだが、左の額から頬、眉間のあたりに酷いやけどの痕が残っていた。
……それがなんなのかは取り押さえてからでいい。よほど見られたのが嫌だったようで俺を裏拳で殴りつけたのがその証拠だ。
「下手に出ていればつけあがる……! 『敵を破砕――」
「遅い! <ファイヤーボール>!!」
「ぐ……『――せよ』<ファイヤーボール>」
「チッ! たあああああ!」
「馬鹿な!? 腕が吹き飛ぶぞ!?」
カーランが目を見開いて叫ぶが、それくらい考えている。
左肩にぶつかる瞬間、小規模のアクアフォームでファイヤーボールを受けて爆発の衝撃をある程度殺す。
「ぐううううう……!?」
「お前のは身体は貴重なんだ! もう動くな! 傷つけさせるな!」
「うるせぇ!! お前が実験台にした人間は全員貴重な存在だったんだ、てめぇの都合で選別するんじゃ……ねえぜ!!」
そのままカーランへと突撃し体当たりをぶちかますと、バランスを崩したカーラン。
そこへマチェットを振り下ろし、梟のペンダントを切り裂いた。
「これで……エリベールの、ウトゥルン家の呪いは終わりだ!」
「な!? お前が何故それを……これか、『ブック・オブ・アカシック』か!」
「その反応で十分だ、後はお前を――」
せめてあと一撃、こいつの足を斬ってやればと思ったが不意に目の前が霞んだ。
そう、身体に限界が来たからである、
それでも、あの時に防具を買っていなければアイシクルダガーで動けなくなっていたはずなので、ここまでやれれば上等なのかもしれない。
「ぐ……」
「く、くく……ここまでだな、アル。予定とかなり変わったが……」
「は、なせ……」
カーランはふらつきながらも俺を小脇に抱えて歩き出す。
「この剣もなかなかの切れ味だ、持って行くか……」
「カーラン、そこで止まれ!」
「子供を床に降ろして手を頭の後ろに――」
「邪魔だ! 『燃え盛る業炎よ力を与えたまえ』<エクスプロード>!」
薄目で前を見ると、爆発で兵士達が一瞬で吹き飛ばされているところだった。
そして満足気……いや、狂気の笑い声声を上げながら魔法を連続であちこちに放ちだした。
「はははは! アルを手に入れたのだ、よく考えれば破壊しつくしても構わないではないか! ははははは!!」
「や、止めろ……無駄に攻撃する必要は……ないだろ……」
「黙っていろ!」
「あぐ……!?」
カーランが俺を殴りつけて黙らせてきた。
そのまま兵士や騎士が立て続けに出てくるが、困惑する彼らとカーランでは初動が違う。
「く、くそ、魔法使いはまだ来ないのか!」
「伝達が遅れているようで……しかし来たとしても、宮廷魔術師を相手にどこまでやれるか……」
「根性を見せんか! 魔法が飛んでくる前に抑えればよかろう! 囲めば四方に撃つことはできまい。カーランめ、やはり逆賊であったか……」
おお……なんかカイゼル髭のおっさんが熱血的なことを言う……頑張れ……
と、思っていたが、
「消えろ……!」
「撤退、てったぁぁぁい!」
あっさりアイシクルダガーとファイヤーボールの雨を撃ち込まれ、回り込むどころか撤退した。
無理か……まだ遠巻きに見てはいるが、こいつを止めるほどの力は無さそうだ。
「……っく」
身体は動かない、か。
どうする、このままじゃ俺は実験材料。どこへ行くかも分からない……。
ま、エリベールの呪いが解けたからとりあえずは目的達成だな。
みんなには悪いけど簡単に殺されることはないだろうし、このまま一緒に行って後で脱出を考えるか。
俺がそんなことを考えていると――
「がっ!?」
「ええ!? ぶっ!?」
俺を抱えている左肩が、レーザー光線のようなもので貫かれた!
取り落とされた俺は顔から床に落ち、直後、背後から久しぶりの声が――
「ゼル、あいつを」
「あたしはアルを回収するわ」
「ああ」
「なんだ、お前達は……!? 速――」
目だけをカーランに向けていたが、入って来た映像はここに居るはずの無いゼルガイド父さんが、魔法を撃とうとしていたカーランの右腕を吹き飛ばすところだった。
変な形になっていたので間違いなく折れていると思う。
そして、
「アル! アル!」
「カーネリア……母さん、なんで……」
「喋らないで、ポーションを使うから」
なぜかカーネリア母さんの姿まであった。
幻覚かと思ったが、傷口にポーションをかけてくれ、飲ませてくれたところで俺はようやく意識がはっきりする。
「ぷは……!? ど、どうやって来たんだよ!?」
「話は後……と、言いたいところだけど、これで終わりかしらね」
「わ、私は、英雄を――」
「うるさい! ウチの子をあんな目に合わせた報いは受けてもらう!」
俺が目を向けた先ではゼルガイド父さんがカーランの首を掴んで足を引っかけると、そのまま組み伏せ顔面をぶん殴った。
一撃でカーランの身体はビクンと跳ねた後、動かなくなる。
「逃げられないように足首を折っといてよゼル」
「そうだな」
「うわ……」
冷淡に会話する夫婦。旦那は妻の言うことを受けた後、骨が折れる嫌な音がした。
そんな二人だがカーランを縛り上げた後、俺を抱きしめて涙を流しながら口を開いた。
「良かった……生きていたよゼル……」
「ああ……流石、ウチの子だ……」
――俺はいつか出て行く他人だとずっと自分に言い聞かせてきた、双子にも、爺さん達だってそうだ。拾われただけであの家には本来居場所なんてない。
みんなにもいつか元の国へ帰ると言っていたし。
だけど二人が本気で泣くのを見て、俺はみんなにとっても分け隔てることなく『家族』だったらしい。
それが頭に閃いた時、俺は子供らしく涙を流しながら答える。
「ありがとう、父さん、母さん……」
自然とそう口から出ていた。
本当の家族だと、俺が意識した瞬間のような気がした――
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