110.事後処理は大変だ
「にしても、よく国王様が許可したね」
「ん? まあ、戦時中でもないし俺が居なくても騎士団は回る。それに最後の後押しをしてくれたのはラッド王子だ」
「ラッドが?」
「そうよ。グシルスさんだっけ、彼がエリベール様宛に出した手紙でここに居るかもしれない情報を回してくれてね、それであたし達が来たんだ」
どのタイミングか分からないがグシルスは王都へ来る前に手紙を送っていたようで、それを見てエリベールがイークンベルへ赴き、そこからラッド、両親の順で伝言ゲームがあったようだ。
正直、諦めていたところにこの援軍は頼もしすぎる。
だけど、他国の王宮に突っ込んで大暴れしたが大丈夫なんだろうか? そんなことを考えていると、グシルスとグラディス、それとさっきの大臣だという人が追いついてきた。
「おお、アル、無事か!」
『安心したぞ』
「ありがとう。とりあえず元凶はこの通り、拘束したよ。ま、父さんのおかげだけど」
「いや、かなり弱っていたから楽だった。あなたはこの王宮の? 私はイークンベル王国騎士団長のゼルガイド=フォーゲンバーグ。誘拐された息子のアルを救出しに参りました、急な駆け込み、大変失礼を致しました」
父さんと母さんが頭を下げると大臣らしき人は慌てて両の手を前に出して振りながら口を開く。
「いえ! こちらこそ逆賊を見抜けず、ご子息を危険に晒したこと、申し訳ありません! それに私の傷はそちらの子が治療してくれたとシェリシンダの騎士殿から聞いております」
「アル……?」
「~♪」
母さんが訝し気な顔を向けてくるが、俺は目を逸らして口笛を吹いて誤魔化す。回復魔法が使えることは言っていなかったか、そういや。
すると、さらに知った声が俺達に声をかけてきた。
「立ち話もなんですし、一度情報交換を致しましょう、ヘベル大臣」
「あ、ルイグラス!」
「はは、無事みたいだねアルフェン。遅くなってごめんよ、まさかもうこんなことになっているなんて」
「まあ、仕方ないよ『ブック・オブ・アカシック』もそこまでは読めなかっただろうし」
「え?」
っと、面倒ごとになりそうだから本のことは隠しておかないとな。
後ろ手に本を隠して収納すると、ヘベルという大臣に案内されて、別室へと移動する。
ルイグラスには数人、貴族らしい人物もついており、グラディス、グシルスも合流。
グラディスは俺を見るなり抱きしめてきたのは恥ずかしかった。
とりあえずカーランも目を離さないようにと兵士に連れて来てもらうようにお願いし、到着した広い会議室のような場所で待っていると、先ほどの王妃が入室してくる。
「我が国の王妃である、ユリアーノ様です」
「ご苦労様です、ヘベル。あ、皆さま、そのままで結構ですので。……我が国の貴族たちも居るようですね」
「はっ、進言したいことがございましたが……」
「分かりました、それは後程聞きましょう。まずは他国の使者たちにお詫びを申し上げます」
俺達のことは話が伝わっているらしく、まずは頭を下げる王妃。カーランがあんな感じなので、唆された国としてはもう少し横柄かと思ったがそんなことは無かった。
謝罪の言葉を聞いてから、起こったことは仕方が無いとそこからの話はお互いの情報交換が始まる。
まずはイークンベルからの父さん達はシンプルで、俺のことを聞きつけて救出に来ただけなので他意はない。それは先ほどヘベル大臣へ伝えたことで納得してくれたようだ。
次にグラディスとロラだが、これも俺と同じくロラが誘拐されたこととを一緒に居た俺が告げたのでここも問題なし。ちなみに大将はグシルスがしっかり抑えている。
で、そのグシルスもシェリシンダからの使者ってことで書状を持っていてぬかりはなかった。もちろん俺を探しに来たわけだが、これを見せて動向を探る予定だったらしい。
……外にはシェリシンダの騎士が待機しているらしく、ツィアル国を刺激しないようにするという話はなんだったのかという話だ。
「そりゃおめえ、エリベール様のためだろうが」
と、話の腰を折ってくるグシルス。
そこで王妃が全てを聞いたうえで口を開く。
「各自の事情は分かりました。カーランについては尋問、場合によっては拷問も辞さないつもりです。
それと先ほどの話からするとわたくし達にも【呪い】がかかっている可能性は十分にあります、ヘベル、その時は任せますよ」
「はは……なにも無ければ良いのですが……」
心配だと青い顔で首を振るヘベルに、俺は気休めだが推論を語ることにした。
「とりあえずエリベールの呪いは多分解けたはず。あいつが持っていた梟のペンダントが媒介品だったみたいでした。
シェリシンダ王国のヴィクソン家にもガーゴイルになったおもちゃがあったことを考えると、道具を使うことによって相手を呪うのではないかと」
「道具か、ヤツの部屋にはあまり物がないのだが……」
ヘベルが顎に手を当てて考え込むと、不意に大将が口を開く。
「……地下だ。隠し部屋に怪しげな物が沢山あるぜ。俺は入り口が分かる、命を助けてくれるなら教えてもいい」
「貴様、立場がわかっているのか?」
「分かってるわい! このままなにもしなかったら俺は極刑だ! 誘拐に関わっていたんだからな。だが、人間だれしも死にたくはねえ……」
「……いいでしょう。あなたも彼の被害者と思えば」
「王妃」
「アレをのさばらせていたのはわたくしたちのせいです。温情は与えるべきでしょう」
「承知しました。……連れて行け」
ヘベルに指示され、兵士が大将を連れて出て行くのを見て、ひとつの事件が収束したなと思う。
「では――」
と、王妃が話を続けようとしたところで、大将と入れ替わりでまさかの人物が入って来た。
「あなた!? う、動いて大丈夫なんですか!?」
「へ、陛下!」
二人の男性に支えられて入って来たのは謁見の間で顔を見たことがある、この国の王だった。
ざわめく場に顔色の悪い国王が手を上げて口を開いた。
「……私が国王のガリアだ。皆の者、迷惑を……ごほ、かけた……」
「無理をなさらないでください」
「いや、いいのだ……カーランに騙され続けていた私の罪、自ら顔を出して謝罪をしなければ。そう長くない身体だ、無茶をしようがしまいがそれほど変わらん」
苦しそうに椅子に座り一息つくガリア王。
俺はとりあえず、聞きたいことがあったので尋ねてみる。その返答によっては――
「すみません、ガリア国王。お尋ねしたいことがあるのですが」
「こ、こら、君。陛下はお疲れなのだぞ」
「良い。君は?」
「ゼルガイド=フォーゲンバーグの子でアルフェンと申します。噂で、シェリシンダ王国を手に入れてイークベルン王国と戦争をするつもりでしたか?」
俺が聞きにくいことを口にすると、その場に居た全員が注目する。
ガリア王も俺を見て目を細め、しばらく沈黙が訪れるがすぐに彼は口を開いた。
「……そんなつもりは無い。先代は、親父はなにか考えていたようだが私はそんなことは微塵も考えていない。ザンエルド国に対しても同じだ」
「その言葉、信じますよ? では……」
「アル? ……まさかあれをやるのかい」
母さんの言葉に俺は目だけ合わせて頷く。そしてガリア王に近づいてから手を握り、
「【
スキルを使った。
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