111.手出しさせないために


 「う、うおおおおお?! こ、これは!?」

 「へ、陛下!?」

 「あ、あなた!」

 「君、なにをしているんだ、陛下から離れなさい!」


 手を握ってスキルを発動すると、国王が声を上げる。いや、そんなに苦しい者じゃなかったと思うが。

 母さんにしてもディアンネス王妃にしても体が熱いくらいでスッと治ったしな。

 というか離れろと言う前にやることがあるだろうに。


 「ここまで接近を許したのはあなた達ですよ。子供だからと油断したらダメです。カーランもそうですが、もっと疑いを持たないと。でも、これは大丈夫だよ」

 「ぐぬ……!」

 「おおおお!?」

 「へ、陛下ぁぁぁぁ!」


 と、ヘベルが叫んだところでピタリと国王の動きが止まり、


 「おお? なんと……体が軽い、これはどうしたことだ!? 治っているぞ」

 「はぁ!?」

 「ふう、ちゃんと効いて良かったですね。おっと……」

 「だ、大丈夫ですか?」


 ふらつく俺を王妃が支えてくれ、なんとか踏ん張ることができた。

 ポーションで回復しているとはいえ、疲労と出血と疲労はやはり無視できないようだな。


 <体力を物凄くもっていかれますしねえ>

 

 他人事……!

 リグレットのやれやれといった感じの声色に胸中でツッコミを入れていると、国王が握手を求めて来た。

 

 「いったいどういう方法を使ったのかは分からんが、手を握ってくれてから活力が返って来た。話を聞く限り君を巡って集まっている者ばかりのようだな」

 「ええ、まあ。本当はグラディス……あそこの魔人族に救出された時点で帰れたんですけど、このクソエルフに痛い目を見せたかったんで帰らなかった結果なので褒められたものじゃありませんがね」

 

 「フッ、面白い子だ。他国の王をあっさり治療するとは、イークンベルの未来は明るいな」

 「ガリア陛下は……ライクベルン王国のアルバート将軍はご存じで?」

 「うん? もちろんだ、かの猛勇を知らない者はそうおるまい」

 「アルは、そのアルバート将軍の孫なのです」

 「「「えっ!?」」」


 あら、この大勢の前で言っちゃんだ父さん? その場に居た全員が俺に目を向けてきてちょっと照れる。握手状態の国王の手はこわばってしまい離してくれない。

 それよりも珍しく迂闊だなと思っていたら、母さんも続ける。


 「訳あって我が家で預かっていますが、アルの身になにかあれば冗談では済まない事態になっていたかもというのをお伝えしたかったのです」

 「う、うむ、あの国が攻めてきたら……というより将軍一人でもウチは壊滅するだろうな……」


 そこまでか。俺はつい言葉を漏らす。


 「爺ちゃんはマジで強いんだな……それこそ『英雄』みたいな」


 そう言った瞬間、カーランがカッと目を見開き、笑いながら口を開く。

 目は血走り、口から泡を吹いておりとても怖い。


 「治った……治ったのか! ふはは、馬鹿な……あれは治療などとてもできる病状ではなかったはずだ! ふひ、ふひひ……しかも‟死神”の異名を持つ男の孫……アル、お前はやはり私の実験材料にふさわし――」

 「足が滑った」

 「奇遇ね、あたしもよ」

 「げふ……!?」


 父さんと母さんに踏みにじられて気絶するカーランを見て『それでいい』とばかりにみんなが頷いていた。

 もう少し話を聞きたいところだが、今日のところは疲れているだろうということで、とりあえず外部の俺達は退室となる。

 代わりにルイグラスを筆頭に、貴族達が話をするらしい。

 一応、挨拶をしておこうとグラディスと共に彼の下へ行き挨拶をすることにした。


 「久しぶり、ルイグラス。なんか終わっちゃったな」

 「はは……終わっちゃったって軽いもんじゃないけどね。アルフェンの肝が太い理由が分かった気がするよ」

 「ふわっはっは! 将来が楽しみな子だな! ルイグラスもこれくらい気概があればなあ」

 「父さんみたいにはなれないよ僕は」

 「父さん……?」


 あれ? ルイグラスの親父さんって確か直談判に来て死んだんじゃなかったんだっけ?


 「ああ、実は死んでいなかったんだ。僕が貴族たちに声をかけに行ったら姿を現してね。先に話をしていたらしい」

 「なんにしてもこのままではまずいと思っていたから、死んだと見せかけて暗躍しておったのだ。崖から海へ落ちた遺体には申し訳なかったが」


 なんとこのおっさん、追われながらそれらしい遺体と自分をすり替えて逃げおおせたらしい。

 マジシャンかというレベルで、夜襲で海に飛び込んだようにしたとかで、ミステリーサスペンス顔負けのムーブをかましていた。


 「なら、貴族関連は?」

 「カーランに握らされていた連中以外は仲間になったよ。だけど、その必要もなくなったけどね。この国はきっと生涯アルフェンに感謝するんじゃないかな?」

 「ぞっとするね」

 「はは、それじゃあ後でね」


 ルイグラスと別れて通路に出たところで、俺はひとつ思い出す。


 「あ、そうだ! 村の人達!」

 「大丈夫だよ、もうすでに解放して今は部屋をあてがっている。兵士の中にもカーラン派閥が居たからそれも洗い出さないといけない」

 「そっか、良かった」


 オリィが無事なのを確かめたいが、どうやら体は限界らしく――


 「ごめん母さん、おぶって……」

 「アル!?」


 俺は急激な眠気に襲われて母さんにもたれかかった。


 そして――

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