21.新居と声


 「結構違うなあ」

 「ん?」

 「ううん、なんでもない」


 早速町に入った俺は抱っこから降ろしてもらい町中を観察しながら歩く。『違う』と言ったのは街並みで、爺さんの家がある王都と似たような雰囲気はあるんだけど建てている家屋の材質や、形はこの国独自の様相をしていた。

 日本とヨーロッパくらいの差があるって感じだな。


 すれ違う商人の馬車や行きかう人々は活気に満ちているので、このイークンベルは良い国なのだろうと思う。

 興味津々といった顔で見ていたせいか、カーネリア母さんが俺の頭に手を置いてから口を開く。


 「綺麗な町だろう?」

 「うん、でも本当にあの森から出て良かったの? あそこに住んでいたのも気になるけど……」

 「まあ、私が逃げただけだからさ。あそこだと、可愛いアルが攫われちゃう可能性もあるし。……私が倒した、盗賊二人も大森林のどこかに巣くっている集団の仲間だからね」


 あの時、俺を襲ってきた二人組を思い出して身震いする。

 カーネリア母さんが来ていなかったら今頃どうなっていたか……俺がそんなことを考えていると、目的の場所に到着した。


 「さ、ついたよ!」

 「おおー!?」


 普通一軒家……ではなく、屋敷といって差し支えない建物で俺は驚いた。

 え? でかくない? 凄い魔法使いだって言ってたけど、お金持ちだったりするのか……?

 困惑する俺に構わず、ガシャンと鉄柵の門を鍵で開けて中へ進んでいく。

 俺は慌てて追いかけながら周囲を見渡すと、空き家の割には綺麗だと感じる。


 植栽は切りそろえられていて、噴水も苔むしたりしていないのだ。

 

 「誰か住んでいるのかな? お手入れされているね」

 「……よく見ているわね、アルは賢いね。住んではいないけど、掃除には来てくれているのよ、多分。元・旦那の指示だと思うけど」

 「どんな人なんだろう……でも、多分会うことは無いよね?」

 「どうかなー」


 いたずらっぽく笑いながらカーネリア母さんは収納魔法を使って荷物を出していく。喧嘩別れしているんだから気まずくて分かってても来れないだろう。


 「それじゃお片づけをしようか」

 「はーい!」


 俺達は台所や部屋に持ってきた道具を置いて行き、窓を開けて換気をしていく。

 そこで不意に窓の外から見える庭を見て、


 「……お父さん、お母さん……」


 両親の姿やイリーナ、マイヤの姿が浮かび涙が出てくる。

 

 ――五年。

 

 たったの五年だったけど、俺の幸せはあそこにしっかりあったのだと胸が苦しくなる。頭では37歳の意識はあるが、感情はあくまでも五歳の身体なので涙は止まらない。体と精神が乖離しているけど不思議なものだ。


 「どうしたんだいアル?」

 「ううん……ぐす……なんでもない」

 「……そっか。それじゃリビングでお茶でもしようか、それとも疲れたろうから寝るかい」

 「あ、うん。ちょっと寝たいかも……」

 「オッケー、それじゃお布団を用意しようね」


 少し一人になりたいなと思いベッドで休むことにした。

 

 「なにかあったら呼ぶんだよ」

 「うん」


 ベッドに寝転がり、ほぼ二日間ずっとべったりだったカーネリア母さんが気を遣ったのかリビングに行った。


 「……ふう。頭は切り替えたけど、やっぱまだ辛いな。だけど、カーネリア母さんのおかげでかなり救われている。一人だったらやばかったな」

 <一人じゃありません>

 「……!?」

 

 目を閉じると急に頭に声が聞こえてきたので、俺は慌てて身を起こし周囲を確認する。だが人の姿は無く、気味が悪い現象に心臓の鼓動が速くなる。

 

 「なんだ? 幽霊か?」

 <幽霊ではありません、アル様>

 「わ!?」


 意識を集中すると、直接頭に響いてきて咄嗟に耳を塞ぐ。

 しかし、そんなことは意味を成さず、さらに頭に響いてくる。


 <ようやく声が届きました。ずっと語り掛けていたのですが>

 「ずっと……? あ、そういえば盗賊に襲われた時に聞こえた声に似ている……?」

 <はい。あの時も声をかけていました。初めましてアル様、私は‟リグレット”あなたの【スキル】をサポートをするため生まれました>

 

 スキル……?

 そんなものこの世界には無い、と俺は認識している。魔法は本に書いてあったが、特技のようなものは特別な位置づけになってはいなかったはずだ。


 「なんで僕にそんなものが……」

 <私からお伝えできることは多くありません。発動した方が良い場合にアドバイスをするだけですので>

 「ん。とりあえず聞いていいか?」

 <なんでしょう>

 「頭の中で考えていることをお前は認識できるのか?」

 <いえ、あくまでも【会話】としてしか認識できません。目の前に姿の見えない美少女が立っていると思ってください>

 「……」


 軽い。

 こういう手合いは真の実力を隠しているか、本気で役に立たないかのいずれかで、中途半端に使えることは恐らくない。

 前世の協力者であった怜香のように冷静、冷徹な秘書タイプと違い見極めは難しい。ただ、俺から離れることはないのでうまく付き合っていくべきか。


 「オッケー。よろしくリグレット」

 <はい。早速ですが、スキルの効果を聞きますか?>

 「そうだな……いや、とりあえず後でいいか? ちょっと眠い」

 <承知しました、おやすみなさいアル様>


 ……声は可愛いけど、変なのがついてきたな……イルネースの仕業か? あのクソ神ならやりかねない……そんなことを思いながら俺は意識を手放した――

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