88.初狩りは豚肉の味
「よし、気合を入れていくか!」
「張り切っているな。依頼で戦うのは初めてか」
「ああ、んで冒険者として一歩目だこうなるだろ」
「フッ、確かに俺もそうだったな」
あの後、すぐにグラディスと一緒に町を後にしジャイアントタスクを探しに外へ出る。荷車を引きながら……。
――俺はこの依頼を受ける前に『ブック・オブ・アカシック』を確認しておいたのだが、このジャイアントタスクは討伐されずにガチで増えすぎていて、農耕に支障が出ているそうだ。
これを解決することで、少なくとも作物の流通はある程度復活し、寂れている町や村が少しだけ貧しさから脱することになると書かれていた。
他にもアリっぽい魔物のフォレストアントや、ウーズスネークという害虫ならぬ害魔物もやっておいたほうがいいらしい。
なので、しばらくここを拠点に狩りをすることになりそうだ。
それともう一つ理由があるのだが、それはかなり後に起こることらしいので今は考えない。
「さて、どこにいるのやら……」
とりあえずジャイアントタスクとやらを探して討伐する。増えすぎているらしいので遭遇する確率は高いはずだ。
3頭を倒すことで本の言う『今後』の条件に達するらしいが、もうちょっと倒せるだろうとタカをくくっている俺。
だが、獲物が出た時にその考えは打ち消された。
「お、居たぞアルフェン。早速倒すか」
「……はあ?」
「どうした、さっきまで張り切っていたじゃないか」
「でかくね?」
木の陰から目標を確認。
名前からして猪系の姿をしているだろうなーとは思っていたが、大きさがおかしい。
二メートルはあろう巨体がふごふごとキノコを貪っているのだ、びっくりするだろう、そりゃ。
「なんちゃら主様みたいな大きさだな……」
「なんだ?」
「いや、なんでもないよ。えっと、いきなりはやっぱりアレだからグラディスに見本を見せて欲しいかなって……」
「まあ、それはいいが……もじもじするな気持ち悪いぞ」
「ハッキリ言うな」
わからんが、過去話をし、先ほどの試験からグラディスは俺に大らかになった気がする。お客じゃなく相棒として扱おうとしてくれているのかもしれない。
それでもツィアル国の王都までだから、あと半月程度の付き合いになりそうだけど。
「では見ておけ。ただの猪はもう少し小ぶりで直線的な動きだが、魔物の場合はまた違う。赤い瞳の動物には気をつけろ……俺達、魔人が子供の頃に言い聞かせられる」
「へえ、俺達は悪いことをしたら魔人にさらわれるって言われていたなあ」
「はは、昔は争うこともあったし、実際に見せしめで子供とは言わないがさらってくることもあったらしい」
「へえ……」
ただの都市伝説的なものだと思っていたら事実に基づくものだったとは。
ちょっと戦慄していると、グラディスは大剣を抜いてジャイアントタスクへ近づいていく。
「フゴ……」
「……」
気づかれた。
見事な足さばきで静かに近づいたのだが、すぐにグラディスへ向きなおり、鼻息を荒くする。
「アルフェン、魔物というのはこういう風に勘が鋭い。こういう動物ならいいが、人型の魔物はさらに知恵が回る。侮るなよ」
「わかった」
「では――」
グラディスは講釈終了とばかりに大剣を肩に担ぐような構えを取り、あっと思った時にはすでにジャイアントタスクの首が落ちていた。悲鳴を上げる間もなく。
「うお……」
「ふむ、なかなかいい個体だ。村の襲撃をおさえられていい肉が手に入ったな」
まるで参考にならなかったが、一撃必殺が基本らしい。
テキパキと処理をし始めたので、俺は顔を顰めながらそれも教わることにした。
「血抜きをすると肉が臭くならないから重要だ。これで値が大幅に変わることが多い。毛皮はなるべくキレイに剥がせ、こっちも金になる。それと――」
魔物は捨てるところがないな……内臓はマナが蓄積されていて早めに処理しなければ汚染されてしまい食えないらしい。
骨も武器の素材になるし、一頭で結構な金額になると、内蔵の下処理をしながら教えてくれる。
「よし、内臓は一部だけ持ち帰ろう」
「というか肉はどうするんだ?」
「荷車に乗せればいい。血の臭いで寄ってくる魔物もいるかもしれないから警戒はすべきだが」
そうして、解体したジャイアントタスクをキレイに荷台へ乗せてさらに移動。
村がよく襲われているという話なので、そっちを目指してい歩いていくと、二頭目に遭遇した。
「任せるぞ。危なくなったら手助けしてやる」
「オッケー、任せてくれ。<ウォーターウィップ>!」
「フゴゴ!?」
俺はマチェットを抜いて飛び出すと、即座に足を水の鞭で絡めとり動きを封じる。
顔がこちらを向き、焦りで暴れる。
「こいつを食らえ」
「フホー!!」
ファイヤーボールを直撃させると怪しげな鳴き声をしながら頭を振るジャイアントタスク。
そのまま俺はさっきのグラディスのように首を断ち切るべくマチェットを振り下ろす。
が、
「うおお、硬いっ!?」
「フゴ! フゴー!!」
「アルフェン、いったん離れろ」
「だ、大丈夫! 暴れるなこいつ! もう一回ファイヤーボール……!!」
「ふご……」
至近距離、しかも顔面にぶっ放してやると血しぶきを散らしながら頭の上半分が吹き飛ぶ。
「いてっ!?」
衝撃で尻もちをついた俺と、ずしんという重い音と共にジャイアントタスクが倒れた。
「よし、やったぞ! ……痛っ!? なんだよグラディス」
「魔物に魔法を使うならしっかりと距離を取れ。首を狙うなら一撃でやれるだけの腕力か技術を磨け。今の拳骨は素材をめちゃくちゃにしたからだな」
「お、おお……」
確かに数度の攻防で倒せたことに喜びを覚えていたが、確かに倒した魔物はズタボロである。
<グロ……>
リグレットが引き気味にぽつりと呟くが、俺もそう思う。
……血には慣れているつもりだが、こいつらも生きているんだ、どうせなら一撃で楽にしてやったほうがいいか。
「うん、今後気を付けるよ」
「ま、最初だからそんなものだ。だが、最初だからこそ拳骨をやった。さ、こいつも解体だ」
グラディスに促され、もう一頭を解体。
ちょっと肉を焼いて口に咥えると、ジューシィな肉汁が広がる。
最初の狩りの報酬としてはまずまずだろう、美味い。
……双子たちはどうしているかなあ。両親も探してくれているだろうか?
まあ、元々拾われた俺だ、このまま居なくなってもカーネリア母さん達には実子が居る。しばらくすれば忘れるかもしれない。
そんなことを考えながら探索を続け、三頭目は村での遭遇戦となった。
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