116.一旦の決着
「あああああああ! アルにいちゃぁぁぁぁぁ!!」
「ふぐ……!?」
「にいちゃだぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐあ!?」
三日ほどかけてツィアル国から戻った俺と両親が屋敷へ入ると、驚くほど憔悴した双子が目に入った。
だが、俺を見た瞬間にソファから飛び降りて突撃してきて、まずはルーナに鳩尾を頭突きされて腰にしがみ付かれ、次いでルークにもう一撃もらいその場で膝をついたのだ。
油断していた……カーランよりも強力なダメージに思わず悶絶していると、奥から現れた祖父母に声をかけられた。
「アル……! アルじゃないか、い、生きていてくれたか……くぅ……」
「ああ、良かった……」
「爺ちゃん、婆ちゃん」
この二人も本気で心配してくれていたことが伝わり、双子と共に抱きしめてくれる肩に手を置いて再会を喜び合った。
グシルスと救援に来ていたシェリシンダの騎士は一足先に国へ戻ったのでここには居ない。何気にグシルスの行動力は凄い。
手紙を出すタイミングと俺と出会うタイミングがばっちりだったことによる。
実際、両親が来たから出番はなかったけどもし来ていなかったらお世話になっていたに違いない。
それはともかく――
「ほらルーナ、ちーん」
「んー-!! えへー」
ようやく泣き止んだ双子の鼻をハンカチでかませてやると満面の笑みで笑いかけてきたので俺は苦笑しながら頭を撫でてやった。
「体は大丈夫か?」
「うん、この通り全然大丈夫だよ。ちょっと危ない場面はあったけどね」
「怖いことを言わないで頂戴。それでもう解決したのかしら?」
「ええ、とりあえず明日は陛下のところへ報告へ行きますが――」
と、祖父母へ父さんと俺が今回の顛末を話し、疲れているだろうということで今日は一家そろってゆっくりすることとなった。
双子は甘やかし、久しぶりに食べる母さんの料理も当然、美味い。
俺は色々と失ったけど、手に入れることもできていたとあの戦いを経て改めて感謝する。
カーランは恐らく最後に『復讐に固執するとこうなる』と言いたかったのかもしれない。
だが、逆に俺はやるべきことを成さねばと気を引き締めた。
このままここに残るにしても、ライクベルンに戻ったとしても恐らくそれなりに平和に暮らせるに違いない。
エリベールと結婚すれば可愛い嫁さんと地位が手に入るだろうし。
でも、本来ならそんな平和な生活は実家で出来ていたのでそれを奪ったあいつらを許すわけにはいかない。
カーランもそうだが、こういう輩は他の人間達に害を及ぼす可能性も高いので、潰しておくのは後々の世にもいいことだと思う。
そのためにはまずライクベルンへ帰ってから情報を集める必要がある。
カーランが知らないと口にしていたので、あっちの大陸を主な出没地点として範囲を広げるのがいいだろうと考えていた。
「んふふ……アルにいちゃ……」
「僕、強くなったよーすやぁ……」
<うふふ、べったりですね>
「まあ今日くらいはな。しかし、こうくっつかれたら本を読むのも難しいぞ」
<まあまあ、しばらくゆっくりしたらいいんじゃないですか? 問題はもう起きないと思いますけど>
無責任なリグレットの発言を受けて俺は口を尖らせる。
確かにここからなにか問題が発生する可能性は少ないのでいつもどおりの日常は過ごせる。
気になるのはそこではなく、『ブック・オブ・アカシック』なんだよな。
「ん……アルにいちゃ……居る?」
「お? おお、居るぞルーナ」
「あーい……」
とりあえず度々目を覚ますルーナを寝かしつけないといけないので、本を読むのは諦めて俺も目を瞑る。
聞いた話によると、俺が誘拐されてから双子はずっと泣いていたらしいが、ある時を境に二人は魔法と剣の訓練を始めたそうだ。
もちろん三歳児にできることなど少ない(俺は例外のはず)ので可愛らしいものみたいだが、泣いてた双子に『そうさせてしまった』のは少しだけショックではある。
なんにせよ、冒険者稼業とカーランとの戦いで俺は子供という身体ハンデ以外に、この世界においての実戦経験不足や知識不足が露呈されたので、爺さんに手紙を送り、もっと修行を進めなければならないと感じていた。
「また……忙しくなるぞ……ふあ……」
<……おやすみなさい、アル様……>
◆ ◇ ◆
そして翌日――
「ゼルガイドにアルよ、よくぞ無事で戻った。書状は確かに受け取った。……アルを見つけるだけでなく、ツィアル国との友好を結んでくるとはな」
「それは私ではなく、息子の功績ですね。親の私としては寿命が縮む思いでしたが」
「ははは、それはそうだろう。……ラッドに言われてお前とカーネリアを向かわせたことは正解だった、シェリシンダにだけ恩を売ることになっていただろうしな」
「父上」
「あ、いや、コホン。良かったな、ラッド。アルが無事で」
……この国王も癖がある、というよりなるべく色々と関わりたくない系の意識が伺えるな。
ツィアル国のテロの時に斥侯だけでなく、もう少し突っ込んで調査をすべきだったのではと思うので日和見主義なのだろう。ラッドに冷たい視線を向けられているので普段からそういう父親なのかもな。
「そうですね。アル、また一緒に授業を受けられるね!」
「ああ、助かったよラッド。まさか父さん達が来てくれるとは思わなかった」
「それはエリベールさんに言ってあげてよ。凄く心配していたから」
「しばらく会わないと思うけど、会ったらお礼を言っておくよ」
俺とラッドが笑い、日常が戻って来たと実感させる。
一通りの報告を済ませると、国王は顎に手を当てて口を開く。
「それにしても『英雄』が生きているとはまた荒唐無稽な話だな」
「実際に目で見たわけではありませんから、虚言とそれほど変わりません。ただ、『ブック・オブ・アカシック』を探しているようなので俺……いえ、僕が狙われる可能性が高いです」
「アル……」
父さんが心配そうに呟くが、俺がこれを持つ以上それはあり得る。
「『英雄』が相手だと国に迷惑がかかると思うので、僕は大きくなったらライクベルンへ戻ります。もしかしたら先に身内から連絡があるかもしれませんが」
「ア、アルベール将軍か……」
「アル、どうあってもお前は俺達の息子だ。アルベール様とは話をさせてもらうが、もし戻ってもここへいつでも帰って来ていいんだからな?」
「うん、ありがとう父さん」
「……エリベールさんが黙っているとは思えないけど」
「ん? ラッド、なにか言ったかい?」
「いやあ、なんでもないよ! さて、また学校へ行けるように……いや、もうこのまま城で授業をするのもいいかなー」
「?」
俺から目を逸らして今後のことを語るラッドに違和感を覚えたが、成長するまでもう少しこの生活をさせてもらうかと思った。
エリベールにはこちらから会わなければその内愛想を尽かすに違いないし。
さて、これから俺はどうやって修行しようかな……父さんの剣はもうちょっと後に教えて貰うとして、やっぱり魔法かね。
そんなことを考えながら、俺は元の日常に戻るのだった。
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