105.クソエルフの実力


 大将はまだいいとして、グシルスがここに居ることで俺はつい口を出してしまい、その場に居る全員に俺が『アル』だということがバレてしまった。


 「あ!? ガ、ガキ! てめぇ王宮に!?」

 「なるほど、ビンゴだったか。で、その殺気、てめぇがカーランだな?」

 「ああ、まさかグシルスが来ているとは思わなかったけどね」


 大将とグシルスが身構えてカーランから距離を取りながら口を開く。

 俺がチラリと視線を向けると、グシルスが不敵に笑いながら言う。


 「エリベール様のお願いだ、来ない訳にゃいかねえだろ?」

 「ったく……」


 俺のことは放っておいていいのにと思いつつも嬉しく思う。

 そこでカーランが静かに話し出す。


 「なるほど、シェリシンダ王国の人間か。そしてアルが逃げ出さずここに居るということは……【呪い】の解除が目的ということか」

 「流石に分かってるじゃないか。俺としちゃ誘拐された理由を知りたいってのもあるがな?」

 「くくく……語る必要はないな。そしてここに居るという好都合の状況を逃す私ではないぞ」

 「兵士を呼ぶか……!」

 「必要ないな。『水よ唸りを上げて引き絞れ』<ウォーターウィップ>!」

 「!」


 水の鞭が迫り、俺を拘束するつもりだと判断し、咄嗟に魔法で防御を試みる。

 

 「<アクアフォーム>!」

 「なに……!?」


 水魔法には水魔法だと水の泡で鞭を相殺すると、カーランはその光景を見て距離を取った。


 「無詠唱だと? 面白い、私でも略式詠唱が限界だと言うのに。くく……ますます欲しくなったな」

 「気持ち悪いことを言うな。俺とグラディス、それにグシルス相手に勝てるか?」

 

 さて、実力者が二人居るがここで戦って勝てるかは微妙だ。

 というかここでグシルスが出てくる予定は『ブック・オブ・アカシック』には書かれていなかった。これが『ずれ』だとしてもこの展開は非常に良くない。

 せめてルイグラス達が居れば制圧しやすくなると思うんだが――


 「勝てるさ。アル、お前以外は殺せばいいのだからな。『燃え盛る業炎よ力を与えたまえ』」

 「……!? 馬鹿野郎! グシルス、横に飛べ!」

 「んだっての!」

 「あ、あわわ……」


 略式詠唱だが俺には分かる。

 あれはエキスパートクラスの魔法の、


 「<エクスプロード>」

 「うおおお……!」


 略式なのでカーネリア母さんが使ったものより規模は小さいが、グシルスと大将が立っていた周辺が大爆発を起こす。

 衝撃で柱に叩きつけられながらグシルスが呻く。


 「くっそ……派手にやってんな!」

 「チッ、アルめ……! むう!?」


 カーランは舌打ちをしながらグシルスが無事だったことを忌々し気に見ている中、俺はマチェットを手にしてヤツに迫っていた。


 「よそ見している暇があるのか!」

 

 イークンベル式の型を繰り出し攻め立てる。

 右肩からの切り落としはローブの端を裂いただけで外れ。そこから踏み込んでの薙ぎ払いは袖から取り出したロッドで受け止められた。


 「殺すつもりはない、大人しくして居れば実験材料にしてやるぞ」

 「はいそうですかっていう馬鹿が居ると思うか?」

 「うぬ……!」


 俺がマチェットから力を抜いて左に転がり、直後にグラディスが大剣を振り下ろす。


 『オオオオオ!!』

 「チィ……! 『大いなる光の加護よ』<シルバーガード>! 『激なる火の鼓動、目の前の障害を破壊せよ』<ファイアーボール>!」

 『無駄だ! くっ、逃げ足は速いな……』

 「やりますねえ……」


 大剣はシルバーガードで防がれたものの、それ以上の威力で魔法を破った。

 だが、グラディスが追撃をする前にファイヤーボールを顔面に放ち、それを避けている間に距離を取っていた。


 「こいつ!」

 「シェリシンダ王国の犬が!」

 「こっちも居るぞ、どうする!」

 「くく、追い詰めたつもりか? 『疾風よ剣となりて吹き荒べ』<ゲイルスラッシュ>」


 またハイクラスの魔法を詠唱し、両手から激しい突風を吐き出してきた。

 剣を振り抜いた状態だった俺とグシルスはもろに受け、全身を切り裂かれながら吹き飛ばされる。


 「痛ぅ……! っと!?」


 痛む頬を気にしていると、カーランがウォーターウィップを俺に飛ばしてきているのが見え、体勢を立て直そうとしたところでグラディスが割って入ってくれた。


 『ぬうん!』

 「力技で魔法を斬るのか……さすがは魔人族というところだな」

 「……」


 ……さて、どうする? 


 ちょっと挨拶してみたが、こいつは間違いなく強い。

 ハイクラスの魔法を略式詠唱だけでこれほど使える上にマナの総量も多いのだろう、疲れも見せていない。

 エキスパートクラスはエクスプロードだけしか撃っていないが、他にも隠していそうな雰囲気なのが不気味だ。


 このまま攻撃を続けるにはリスクが高い。

 が、正体を知られた以上、次に王宮へ近づくのが難しくなる。


 となれば、今、ここで続行するのが最適かと俺はまだおぼつかない回復魔法で傷を癒す。


 「……!? 神の魔法‟ベルクリフ”を使えるのかお前は!?」

 「まあ、お前が呪いをかけたエリベールから教えて貰ったんだがな」

 「教えて貰って使えるようなものではない。素養が無ければ発動すら不可能なのだ。面白い、私の実験にやはりお前は不可欠のようだ……」

 「実験、実験とうるさい奴だな。それより、エリベールの呪いの解き方を教えろ。というかどうしてシェリシンダ王国の貴族や王族に呪いをかけた?」


 ぶつぶつと歓喜に震えるカーランに質問を投げかけると、急にピタリと笑うのを止めて俺達に顔を向ける。


 「あの国に恨みはないが、役に立つと思い唆した」

 「王にでもなるつもりか?」

 「王? そんな面倒くさいことに興味は無い。シェリシンダを制圧してツィアル国と挟み撃ちでイークンベルを落としてやろうとは思っていたがな。優秀な人間やエルフも多い、実験には欠かせないものだ」


 こいつはあくまでも実験ありきなのか……

 ならば。


 「なら目的はなんだ? そこまで実験に拘るなら最終目標はあるだろ」

 「私の実験に協力してくれるなら教えてやるぞ? そこの魔人族にも関係がある」

 「フン、言う気は無しか」


 グシルスは……立て直したか。

 いくなら一気に畳みかければ三つ詠唱は難しいはず。覚悟を決めるかと剣を握った瞬間、グラディスが声を上げた。


 『ロラ!』

 『グラディス兄ちゃん!!』

 「カーラン様、言われた通り連れてきましたが……これはいったい……」

 

 司祭服を着たおっさんが小さい角を持つ女の子を連れ、困惑の表情をして俺達と見比べていると、カーランがフードの下にある口元を歪める。


 「これはちょうどいいですね。さあ、人質というものを手に入れましたが、そちらの魔人族はまだ歯向かいますか?」

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