128.出航前に


 ルイグラスの屋敷を出た俺とグラディス。

 そこで二手に分かれるはずだったのだが、そこで彼がこんなことを言いだした。


 「俺も出航まで付き合うとしよう。やはり見送りはしておきたい」

 

 馬にまたがり俺に手を差し出して笑う。

 

 「いや、ここまででいいって。イレイナのところへ帰らないといつ生まれるか分からないぞ?」

 「まだ予定日は先だから問題ない。それにここから港町までどうやって行くつもりだったんだ?」

 「まあ、適当に馬車かなにかで……」

 「なら俺が連れて行ってもいいだろう? 一緒は嫌か?」


 嫌なわけがない。

 馬の方が速いということもあり、結局連れて行ってもらうことになった。


 「寂しくなるな」

 「家族が増えたら賑やかになるよ」

 「……迂闊だった、すまん」

 「俺はそこまで悲観しているわけじゃないから大丈夫だ」


 なんだかんだで気に入ってくれているのは分かるし、ツィアル王都で依頼をこなしていたのも楽しかったしな。

 船に乗るまでは頼らせてもらうとするか……


 ちなみに余談だがオリィ達村人は全員無事で、ルイグラスは慰労でたまに訪れているのだとか。

 彼女の恋が叶うといいかもなと思いつつ、一路、南にある港町を目指す。


 ルイグラスの屋敷からは港町はまたそれなりに遠いので、野営と宿泊を繰り返してようやく『エイルの港町』へと到着した。


 「お、潮の匂いがする! 早く町へ入ろう」

 「ははは、そういうところはまだ子供だな」


 そんな調子でこっちの海に期待を寄せる。

 なんせイークンベルがある大陸とこっちの大陸はまだ大河と呼んで差し支えない場所だからだ。一応『港』ではあるものの、海と呼ぶには狭い。


 で、ツィアルの王都がある北西付近の大河から徐々に広がっていき、そこで海と結合。海辺の町となるここは本当に港町と呼んでいいだろう。


 「あー……尻が痛い……」

 「でも早く到着しただろう?」

 「まあね! ……うーん、海だなあ、でかい船もたくさんある! 料理とか楽しみじゃない?」

 「そうだな。とりあえず宿を確保してから船着き場へ行くとしよう。今日すぐには発たないだろう?」


 その言葉に頷く俺。

 ここまで連れて来てくれ、あらゆる意味での恩人といきなりさよならするほどサイコパスではない。

 食事と酒、宿代くらいは出させてほしいものだ。


 「あ、あなた方がこの国を……! ありがたや……! 一番良い部屋をご用意させていただきます!

 「いや、普通のでいいけど……」

 「そういう訳にはいきません! そんな失礼なことをしたら国王様にお叱りを受けてしまいます!」


 例のペンダントを使ってチェックインし、宿の主人に崇められるというハプニングがあったものの、ツィアル最後の思い出としてロイヤルルームという豪華な部屋で寝泊まりするのも悪くないかと苦笑する。


 程なくして外へ出かけ、船の時間を確認しに出る。

 中央大陸へ向かう船は一日一回。朝7時には乗り込んでいないと次は翌日というタイトなスケジュールとなるらしい。


 一日四回船が出ているみたいだが他の地域にも船を出すので、一日一度だけ出て行くのだそうだ。

 とりあえずチケットは偽造を防ぐため、当日乗り込む時に買うものということで、後は時間まで自由時間となった。


 「なんか適当にぶらついてみようか?」

 「そうするか。折角だし土産を買って帰ろう」

 「いいね、子供が産まれたら使うおもちゃとかプレゼントさせてよ」


 そんな話をしながら商店街へ足を運び、木でできた魚のおもちゃを見つけて近づいていく。


 「あ、これなんかいいんじゃない?」

 「でかいな……」

 

 グラディスが口をへの字にして俺の手にある魚を見て唸っていると、別のお客さんが店員と話している声が聞こえて来た。


 「おや、フォーラじゃないか」

 「こんにちはおばさん! 息子におもちゃでも買って帰ろうと思って」

 「あはは、もう二歳だっけ? 可愛い盛りだろう」

 「ええ、やんちゃで困りますけど」


 やっぱりここは魚だろうと思いながら、商品を選ぶ女性を見て、俺は目を見開いて大声を出した。


 「……!? マ、マイヤ! マイヤじゃないか!!」

 「え? えっと? 君は……?」

 「え!? 俺だよ、アルフェンだよ!」

 「アル……フェン……? う……あ、頭が……」

 「だ、大丈夫――」


 俺が支えようとしたところで、スッと間に割って入る人影があった。

 

 「……なんだ坊主? ウチの妻になにか用があるのか?」

 「妻……!? いや、マイヤはウチのメイドだった人なんだ! 一緒に川に流されてはぐれて……マイヤならお尻に三つのほくろがあるはず――」

 「……! 何者かは分からんが、人違いだろう。いくぞフォーラ!」

 「え、ええ、でも……」

 「いいから来るんだ!」

 「ま、待って!?」


 男はマイヤを連れてさっさと歩き出し、追おうとしたがグラディスと店員のおばちゃんに腕を掴まれて止められた。


 「放してくれ! マイヤが行ってしまう!?」

 『止めておけ。あの男の目は怒りに満ちていた。刺激しない方がいい』

 「ちょっと落ち着きなよ坊や。あの子はようやく幸せになれたところなんだ、そっとしておいてやれないかね?」

 「どういうことだい……?」


 俺がおばちゃんに振り返ると、先に事情を話せと追及された。

 店先だとアレなので中へ入って語ることになり、今の状況を聞かされることとなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る