127.挨拶回りの特典


 <昨晩はお楽しみでしたね……>

 「おい、誤解を招く言い方をするんじゃない」

 「どうしたアルフェン?」

 「い、いや、なんでもない」


 現在、俺はグラディスと共に馬に乗り、ルイグラスの屋敷を目指していた。

 グラディスの前に俺がちょこんと座り、一年前のデジャヴを感じる。


 それはともかくリグレットの言葉だ。

 昨晩はイレイナの手料理を振舞ってもらい、みんなで楽しく食事をしたというだけであって決してニーナといいことをしたとかは無い。絶対にだ。


 というか飲み食いしているのを羨ましそうにしてブツブツなんか言っていたが、こいつはどういう感じなんだろうな?

 たまになにかを食っているようなことを言うしイルネースと顔を合わすことがあれば一度聞いてみるか?


 とまあ、そんなこんなで俺とグラディスはルイグラスの屋敷まで向かっている。

 イレイナが妊婦なのですぐ帰るようにしているが、それでもザンエルドからあそこまでは五日かかる。

 往復で十日、滞在期間を考えて十二日程度は家を空けることになるので少々心配だが……


 「お前が心配せずともご近所づきあいがあるし、ニーナ達も居る。少しくらいなら大丈夫だ」

 「港町まで来なくていいからな? イレイナについててやってくれよ」

 「まあ、ついてから考えよう。お前ひとりで大丈夫とは思うがな」


 そう言ってフッと笑い馬の速度を上げた。

 前なら『心配だからついていく』と言いそうな過保護兄ちゃんだったが、俺の力を認めてくれているらしい。

 グラディスやグシルス、父さんといった手練れに認められるのは嬉しいものだ。

 

 そして魔物を狩りつつ、ルイグラスの屋敷に到着。

 あの時、少しだけ顔を見た豪快な親父さんとルイグラスに出迎えられた。


 「やあ、アルフェン君だね! その節はお世話になった!」

 「声でか!? いえ、亡くなったと聞いていたので驚きましたが、良かったです」

 「え? 死んだとは言って無いよ?」

 「あれ、そうだっけ?」


 まあいいじゃないかと親父さんが案内してくれ、リビングへと通された。

 さて、なんの用かと思っているとルイグラス達が頭を下げてお礼を口にする。


 「君たちのおかげでツィアル国が平和を取り戻した。感謝してもしきれないほどにだ」

 「村であった時は利用するつもりで声をかけたけど、いやあ凄かったみたいだねアルフェンは。陛下の病を治療したことが国中に広まりつつあるし」

 「げ、そんな大ごとに……!? あ、いや、都合がいいかもしれないな」

 「都合……? グラディスさんもありがとう……って、言葉が通じないんだっけ」

 

 ルイグラスがグラディスへ視線を向けて言う。

 通訳の出番かと思っていると衝撃的な展開を迎えた。


 「イヤ、スコシオボエタ。キニスルヒツヨウ、ナイ。オレタチモタスカタ」

 「グラディスが人族の言葉を!?」

 『ニーナ達に教わったのだ。一年もあったのだ、驚くことでもないだろう』


 ま、それもそうか。

 彼女らも魔人語を片言ながら話せるようになっているみたいだし、逆もまたしかりってことだな。


 で、話の趣旨としてはお礼のため金銭授与とガリア王から頼まれたものを渡したいからだそうだ。

 

 「これは?」

 「お二人に渡せと頼まれたものです。親愛の証として、ですな。この国へ来た時には是非、顔を出してくれと」

 「恐れおおいなあ……たまたま治療できただけだし」

 「欲がないね、アルフェンは。一応ギルドカードとセットで見せれば店で特典があるらしいよ」

 「へえ、いいなそれ。宿代とか?

 「そうだね。それをかざすと特殊な魔法印が紙に写されるからそれを城に提出すれば割引分を回収できるってものらしい。偽造が難しいみたいだから遠慮なく使うといいかな」

 『これはいいな。子が産まれたらここへ旅行をするか』


 もうすぐ出国だけどまだ南へ行くにはいくつか街を経由しないといけないので、節約生活にはありがたいアイテムだ。

 グラディスも旅行へ来た時などに使えるのだとか。


 「路銀も助かるよ。港町までまだかなりあるし」

 「どこかへ行くのかい?」

 「ああ、ライクベルンまで行くんだ」

 「また遠いところへ向かうのだな?」


 親父さんが顎に手を当てて眉を潜める。

 

 「ええ。故郷なんで、里帰りってところ。そうだ、ルイグラスに頼み事があるんだけどいいか?」

 「お安い御用さ」

 「……俺は『ブック・オブ・アカシック』という本を持っているんだけど、存在を知っているか?」

 「そう、だね。持つ者に災いをもたらすとか全知全能を与えるとか言われている怪しいやつだ」

 「それを持っていると?」


 二人の問いかけに頷き、俺が持っていることを噂として流して欲しいと伝える。

 驚いていたが、その目的を聞いて難しい顔をしながら口を開く親父さん。


 「うむう……『英雄』を求めるか……復讐のためにとはいえ……」

 「危険だけど大丈夫なのかい?」

 「ま、そこは運次第かな。剣も魔法もカーランとの戦い以降に鍛えまくったからそこらの冒険者程度なら負けないし」


 俺が無詠唱で固定ファイヤーボールを生み出すと、三人がごくりと喉をならしていた。

 

 とりあえずできることはするが無理をするなと窘められて話は終わった。

 ルイグラス達も貴族を取りまとめるため爵位が一つ上がったらしく、これから忙しくなるのだとか。

 ツィアル国はこれからいい方へ向かってくれると思いたいものだ。

 俺がシェリシンダ王国の王になったなら友好を築けるのはいいかもな?


 そんなことを考えながら俺はグラディスと別れる……はずだったのだが――

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