91.お貴族様


 「ま、魔人……!? ルイグラス様、お下がりください!」

 「おっと、これはまたいかついね。君達は冒険者かい?」

 

 お付のおっさんの陰から貴族のお坊ちゃん、ルイグラスという名の男が笑みを浮かべて話しかけてくる。

 装備は腰の剣と弓、魔物用に胸当てなんかもしっかり装備しているな。

 顔はイケメンで、くせっ毛の金髪は猫みたいにも見える。


 <なよっとしてそうですね>


 リグレットの目にはかなわなかったらしい。

 だが、こいつは俺にとって重要なファクターになる……らしい。


 「俺はアルフェン、人間だ。こっちが魔人族のグラディスで、二人とも冒険者だ」

 「へえ、小さいのに偉いじゃないか!」

 「もう少しで11歳になるよ。見てこいつ、依頼の品なんだ!」

 「ほう……確かに登録されていますな。それに見事なジャイアントタスク」


 おっさんが俺のギルドカードを見ながら感嘆の声を上げ、一応は信用してくれたらしい。考えさせないため、すかさず質問をする。


 「兄ちゃんたちはなにをしているんだ? いい服を着ているけど」

 「うむ、よくぞ気づいたぞ坊主。こちらのお方はこの辺り一帯を取り仕切る貴族の一人でヘープ家のルイグラス=ヘープ様であるぞ」

 「ははは、テルス自己紹介をありがとう。というわけで、僕達は趣味である狩りに来ているんだ」


 なにがというわけなのか分からないが、金髪をふぁさとかき上げ、得意気な顔で趣味をしに来たと言う。

 本によると本当にただの狩猟でこの時点では特になにもないのだが、この後、重要なイベントが来ることになっている。

 ずれていなければいいとか書いていたけどそこは意味が分からなかった。


 「へえ、貴族ってそういうのを趣味にしているんだ。獲物はとれた?」

 「それがさっぱりでね。魔物が増えているせいか、野生動物があまり居ないんだよ」

 「魔物は狩らないの?」

 「弱い魔物なら狩れるけど、僕は冒険者ではないし危険を犯す必要もないだろう?」

 「ふうん、やっぱり貴族なんだなあ。それじゃ、気を付けてな。手伝うよグラディス」

 「ぶ、無礼であろうが!」


 俺はため息を吐き、二人から顔を背けてグラディスの手伝いに回る。

 おっさんは激昂しているが、もちろんわざと挑発をしたからだ。

 ルイグラスはどう出る? この辺りの会話は本になかったが、俺の思う通りに喋っていいとのことだった。


 「ふむ、アルフェンと言ったか。どうしてやっぱり、なんて言い方をしたのかな?」


 すぐに食いついて来たか、よしよし。

 解せないといった感じで聞いてくるルイグラスには振り向かず、毛皮を剥ぎながら答えてやる。


 「そりゃあ、町や村が貧しい状況なのにのほほんと趣味をやっているなんてさ。まあ、貴族がなにもしないってみんなぼやく意味がわかるね」

 「ぐ、ぬ……! いわせておけば!」

 「だいたい、俺だって誘拐されてここに来たんだ。グラディスが助けてくれなかったらどうなっていたか」

 「なんだって……? 詳しく聞かせてもらえるかい」

 「うーん、信じてくれるかなあ……貴族だし……」


 俺はもう少しだけ挑発し、他の子供と港町で誘拐された経緯を語り、紆余曲折を経て冒険者として生きていくことを決めた可哀想な僕……という体をとった。

 

 すると――


 「ううむ、誘拐事件は魔人の仕業だと聞いていたぞ? その男、怪しいのではないか? ……いや、可能性の問題だぞ、うん」


 ずっとグラディスを警戒していたおっさんがハッキリとそう口にし、俺が不快感を顔に出すと焦って目を逸らす。

 

 まあ、両方を知らなければ人間の肩を持っていたかもしれない。なんせ悪いことをすると攫われるという都市伝説があったくらいだしな。

 だけど、グラディスは非常にいいやつで気さくなのだ、それは言わせておけないと睨む。

 

 「他の子供達は、無事だったのかな?」

 「ああ、みんな無事だ。なんなら、港町にケントって子がいるはずだから聞いてみるといい」

 「そうか」


 ふむ、ホッとしたような表情だな。

 貴族は冷徹で、民のことは考えていないと思っていたが、ルイグラスは人が良さそうな気がする。


 「アルフェン君と言ったかな? もう少し話を聞きたいんだけど、時間はあるかい」

 「俺達、依頼をこなさないといけないから村で休むけどそこでもいいか?」

 「そうだな……テルス、スケジュールはどうなっている?」

 「明日の昼まではフリーですが、話を聞くとなると村に泊まることになりますぞ」


 そろそろ暗くなってきた空を見上げながらおっさん……テルスが不安げに口を開く。

 

 「まあ、早朝に出発すればいいだろう。では、行くとしようか」

 「あれ? ……うわ!?」


 ルイグラスが笑ながら合図をすると、どこに居たのか武装した男達が数人ぞろぞろと出てきて頭を下げた。


 「ははは、警戒させてしまうと思って控えさせていたんだ。解体は終わったかな」

 「ああ。行こう、グラディス」

 「……」


 俺が通訳しないとグラディスは微妙にしか聞き取れないので、黙って頷き荷車に素材を乗せて出発する。


 「アルフェンが引くのかい?」

 「体力づくりの一つだよ。強くなるためには色々やらないとな」

 「ふうん、面白いな君は」


 ルイグラスは目を細めて笑ながら俺の横を歩いていき、やがて村へと到着した。

 結局三頭か……もう少し魔法も試したかったけど、仕方ない。


 「あ、アルフェン君達おかえり……って、増えてない?」

 「お邪魔するよお嬢さん。村長に挨拶をしたい、案内してくれるかな?」

 「あ、は、はい! お父さんです! こ、こちらへ……。アルフェン君、き、貴族の人?」

 「みたいだよ。ルイグラスって名前だった」

 「はー……名前だけは知っているわ……か、かっこいい……」


 オリィはこういうヤツが好みなのか。

 まあ、村の若い連中よりイケメンに惹かれるのは田舎の娘にはよくあることだ。

 

 「でもアルフェン君も将来かっこよくなりそうよね」

 「やめてくれ、顔より強さが欲しいよ」

 

 そんな話をしながら村長の家へ赴き、滞在をことわっておくルイグラス。

 俺達は牙以外の素材をまた売り払いお金を手にすることができた。


 「……」

 

 喋れないグラディスがちょっと寂しそうだったことを付け加えておく。

 宿泊施設と集会所で腰を下ろし、ルイグラスの質問を受けることにした。

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