214.ライクベルン王都陥落


 「アルベール殿……!!」

 「どうしたスチュアート、そんなに慌てて? ……お前は!?」

 

 庭でいつものように訓練をしていると、巡回途中のはずであるスチュアートが転がるように入って来て、場に居た全員が注目する。

 そこにはスチュアート以外にもう一人居たんだけど、その人が大怪我を負っており俺達は慌てて近づいていく。


 「ア、アルベール……殿」

 「喋らないで。<ヒーリング>」


 俺は回復魔法でライクベルンで見た将軍の傷を治療する。この人がここまでやられるとは、一体なにがあったんだ?

 痛みが引いて来たらしい彼に水を飲ませて一息つかせると、俺達を見渡した後にとんでもない情報を口にする。


 「……ライクベルン王都が、陥落しました」

 「「「は?」」」


 恐らくそこにいた人間は全員理解が及ばなかっただろう。

 王都が陥落したということは実質このライクベルン王国の崩壊を意味する。

 爺さんがすぐ我に返り、彼の両肩を掴んで大声で叫ぶ。


 「ど、どういうことだクラスト! 陛下は無事なのか? 他のみんなはどうなった!」

 「陛下をお連れできなかったのは……最初に捕まってしまったからです……くっ……」


 経緯はドラッツエルという馴染みのない北方の国から王女が来訪。

 三人の護衛と女王が謁見を申し出て進めていたのだが、目的を聞いた瞬間に豹変……それが――


 「黒い剣士だって……!?」

 「ああ、どうやったのか豪奢なドレスが一瞬で黒い鎧に変化して戦闘が始まった。私を含めて将軍は二人、騎士団長五人、騎士が二十人近く居たから負けるはずは無いと思っていたのだが……」

 「たった四人相手に、負けたというのか!?」


 爺さんの言葉にクラストは力なく頷き、俺達は驚愕の表情を浮かべる。

 このクラトスという騎士も爺さんとランク的には近く、確か88とかだったはず。

 騎士団長も80上はあるはずだが、黒い剣士の強さはそれ以上らしい。


 「それじゃ『英雄』クラスじゃねえか。ギルディーラが本気になったらオレや死神、アル様が全員でかかっても勝てるだろ? それに近いんじゃねえか?」

 『……確かに『英雄』クラスなら、不意打ち気味に仕掛けた場合それくらいは出来るだろう。一応いっておくが面と向かってお前達と戦うのは流石にきついぞ?』

 「それは置いといて、王女は『ブック・オブ・アカシック』を手に入れたいと言ったんだな?」


 俺の問いにクラトスは頷き、話を続ける。


 「私が逃げきれたのは偶然ではないだろう。メッセンジャーとしての役割もあったはず。そしてアルフェン君が持っていることは知っている様子だったから、遅かれ早かれここに来るだろう」

 「そうだろうね。さて、困ったことになったな……」

 「どうするの? ここに居たらみんなを巻き込んじゃうから別の場所へ行く?」

 「くぅん……」


 クリーガーを抱っこしたリンカが心配そうに言う。

 全くその通りなのだが、悩む。


 俺を狙ってくるならこの町が危険になるのは当然で、その覚悟はあった。

 町の人達もわざわざ物見やぐらみたいなのを作って四方を監視するくらいには協力をしてくれている。

 ……だが、王都を狙うとは思っていなかった。これだと王都そのものが人質になるから、向こうが要求してきた場合俺が行かなければどうなるか分からない。


 「……戦わずして本を手に入れるには絶好のシチュエーションだ、逃げ場がない」

 「うーん……」


 俺が別の国へ移動しておびき寄せるという手もあるが、やはり王都を掌握されているのはネックだ。ならばと、俺は提案を口にする。


 「……黒い剣士を倒すのは俺の悲願。そして『ブック・オブ・アカシック』は俺が持っている。だから、こちらから攻め入ろうと思う」

 「アルフェン、それは」

 「爺ちゃんの言いたいことは分かるよ。陛下や町の人に危険が及ぶ可能性があるってことだよね? それを承知で、俺一人で乗り込むつもりさ」

 

 真面目に目を見てそう告げると、爺さんは目を合わせたまま驚くことを口にする。


 「違うぞアルフェン、行くなら全員だ。王都は奪還せねばならんからな」

 「でも人数が全然足りないと思うけど……」

 『俺は手伝うぞ。黒い剣士の正体を掴まねばならん。ディカルトも来るだろう』

 「当然だぜ! 将軍クラスを倒す王女とか惚れそうだぜ」

 「スチュアート達も総動員すれば、潜入して撃破はできよう。王都のことは我々の方が詳しい」


 隠れる場所や抜け道など、裏を掻く方法はある、と。

 それなら勝機は見いだせるか?

 意見の交換をしていたその時、魚屋のゲンさんが庭に駆けこんできた。


 「こっちに向かって黒装束の集団が来ているぞ!!」

 「私が追われたか……!」

 「いや、前回襲撃してきた時にこの家が俺の住む場所ってのは知られているからそれはないよ。今回は夜襲じゃないのが不思議なくらいだ」

 「迎え撃つぞ。相手の戦力を吐かせたい、一人は残すのだぞ」

 『承知』

 「アルフェン……」

 「行ってくるよリンカ。あいつを黒い剣士を倒せば全てが終わる……その前哨戦だ」


 俺はリンカの頭を撫でると、マチェットを手にしてみんなとともに屋敷を飛び出した。

 

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