69.前進か、後退か
「……」
「お、おい、そろそろ離れてくれ、話がしにくいだろ」
「まあまあ、いいじゃないか未来の嫁をそう無下にしなくても」
「そうですねエドワウ。アル、そのままで構いません、経緯を話してください」
「そうだぞアル殿」
無責任に騎士のグシルスが焚き付けてくるが、俺が構うんだけどね!?
よく分からないけどめちゃくちゃ怒ってるくせに俺の腕にしがみ付いて離れてくれないエリベールさん。
そういやルーナとルークは元気かなと思い出すくらいの勢いでくっついている。
まあ、可愛い子に抱き着かれて嫌なこともないのでこのままヴィクソン家で起こったことを話す。
危険は一つ減ったが根本的なことが終わっていないこと、向こうがこちらに気づいたであろうなどを。
特に注意すべきは『向こうがこちらが気づいたことに気づいたこと』だな。
200年もこんなことを続けていたエルフ。
どういう意図があるにせよ、あったか分からんが、このままヴィクソン家を放置するとは思えない。
「では、今後ヴィクソン家はことが済むまで城内で過ごして貰います。念のため護衛はつけます。窮屈だと思いますが、よしなに」
「はい。寛大な処置、感謝します。しかるべき時に処罰も甘んじて受ける所存でございます。ただ、息子だけは何も知りません、何卒……」
エドワウが頭を下げ、隣に座るミスミーも頭を下げる。
護衛といえば聞こえはいいが、実質監視だ。それは二人も承知のようで先のセリフを放つ。
「先代の仕出かしたこととはいえ、【呪い】による脅迫。そこまで重い処罰は考えていませんよ。それで、契約書は?」
「こちらです」
「あ、ディアンネス様、俺に貸してください。危ないかもしれないので」
「ではアルに任せます」
「いいんですかい? 確かにアル殿は豪胆ですが、ここは私が」
「大丈夫だ、グシルスさん。ここはあまり関係がない俺が適任だと思う。ほら、エリベールも巻き込まれないようにちょっと離れて」
「えー! ……まあ、どこかに行くわけじゃないからいいか……」
エリベールはそれこそ、本当に渋々といった感じで離れてくれた。
演技に熱が入りすぎているような……後で破棄になったとき悪者になりそうだ。
それはともかく、木の筒に入っていた紙を取り出して紐を解く。
200年経っているとは思えないくらいの紙が出てきて、俺は驚く。
「凄いな、新品みたいだ」
「保存魔法がかかっているんでしょうね、『ハイ』クラス以上の魔法だと聞いたことがあるわ」
「へえ、覚えたいな。そういやエリベールが使う‟ベルクリフ”の回復魔法とか覚えたいんだけど」
「素養があれば使えると思うけど……アルは持ってそうよね」
「どうかな。っと、ほどけたよ。……なに?」
「ん?」
なぜか周りの大人たちが生暖かい目で見ていることに気づき俺は口を尖らす。
まあ、いいかと俺は書類を開き内容を確認する。
そこに書かれていたものはなかなかのものだった。
‟ハンネス=ヴィクソンとカーラン=オーディとの間に【呪い】の契約を締結する。
この内容はカーラン=オーディが破棄するまで有効となる。これは代が変わっても有効とする。
カーランがヴィクソン家に渡す報酬は財と栄誉。家が続くことを約束する。
【呪い】はヴィクソン家を介して王族へと流れ込む‟脈”を作ることとした。
これは王族、それとその血筋から生まれてくる子を短命にするため、いつか王となれる時が来る。
口外すれば自身も【呪い】により滅びることを忘れぬように。”
……とのことだ。
「ふん、いけすかねえ野郎だな」
「俺もそう思う」
「しかし契約してしまったから仕方ないのでは?」
「それはそうなんだけど、この契約、ヴィクソン家にとってかなり不利、というかデメリットが多い」
「それは?」
読み上げた文章に文句をつける俺とグシルス。
エドワウが首を傾げるが、よくこんな契約を結んだものだと俺はため息を吐く。
「まず一つめはカーランが契約を止めない限り、ヴィクソン家から終了ができない。代替わりをしてもヴィクソン家から破棄できないため、操り人形と変わらない」
「それに‟いつか”と時期が曖昧だ、契約者自身が王になりたかったのかもしれないが、実際にはなれていない。元々、ヴィクソン家を手駒にするつもりだったんだろうな」
グシルスがもう一つの懸念を口にし、俺は頷く。
内容をよく見ないで契約したか、それともすぐに機会はくるとでも言いくるめられたか……
「それにしてもどうしてヴィクソン家だったのでしょう?」
沈黙する場に、ミスミーがポツリと呟く。
だが、その答えはヴィクソン家の当主により明らかに。
「……ハンネス、という名前には聞き覚えがある。僕の祖父がぼやいていたよ。彼は戦争をしたかったらしい。大森林とイークベルン王国を手に入れてこの大陸全土を手中にすべきだと主張していたそうだよ
もちろん却下され、それでカーランが持ちかけたのかもしれない」
「なるほど」
とは言っておくが謎は多い。
そこでディアンネス様が口を開く。
「気になるのは‟脈”でしょうか、ヴィクソン家とここを繋ぐものとは一体?」
「うーん、ヴィクソン家に【呪い】のガーゴイル像がおもちゃに紛れてあったくらいだし、そういう形として残るものを使っているのかも? なにかヴィクソン家に贈呈されたモノとかあったら怪しいかも」
「……後で宝物庫を探させましょう。アルは他にも気になっていることがありそうね?」
尋ねられて、俺は言おうか迷うが――
「ちょっとだけ失礼します」
役立たずを取り出し、念のためどういったものか分からないか聞いてみる。
‟ヴィクソン家から王族に贈られたアイテムはドラゴンの彫像だったはず。
だが、油断はするな。すでに時間軸は理を越えたところにある。
詳しく情報が出せないのは理由がある。アルフェンが旅に出ればすり合わせが――”
文字はそこで途切れた。
旅に出たらすり合わせが、なんだ?
相変わらず出し渋る役立たずな本だ……それも『はず』ってなあ……
だが、無いよりはマシか。
油断するな、というのはガーゴイルみたいにドラゴンとなって襲い掛かってくるからか?
「ドラゴンの彫像ね、探させるわ。それを壊せば脈も消えてエリベールが助かるのね!」
「とりあえず可能性があるとだけ言っておきますね。『ブック・オブ・アカシック』はそこまで分からないみたいなので」
「ほっ……」
エリベールが安堵したため息を吐いた。
一応、16歳まで生き残るとは言え不安はあるだろう。俺は頭を撫でてやると、くすぐったそうな顔で微笑んだ。
だが――
<それで解決しますかね……?>
――リグレットの言葉に俺もそう思っていた。
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