227.手加減はいらない
「その首、貰うぞ」
「……」
爺さんの一撃は速く、重い。ランク96まで上り詰めたその実力は本物で、ランク70まで認められた俺では魔法アリの全力で戦って10回やって2回膝をつかせればラッキーだというくらい。
……だが、黒い鎧の男はその爺さんの攻撃を捌いていた。
呪いの武器などを持つこいつらの手札が読めないため爺さんが様子見をしているのだが、それにしても正確に返してくる。
さっきギルディーラに一撃で殺されたヤツに比べたらナメクジとゴブリンロードくらいの差がある。
「王女が強盗をする国の集団の割に強いではないか」
「……黙るのだな!」
「危ない!」
爺さんが煽ると語気を強めて素早い二段斬りを繰り出してくる男に、爺さんは口をへの字にしたままそれを返す。
「忠誠心は高いようだが……それ故に人を殺してまでも本を手に入れたい理由が分からんな? アレの使用方法は知っているのか?」
「……我々に知る由は無い。手に入れれば後は王女のやることだ」
「なるほど、トップの言うことが絶対というスタンスということか。ドラッツェル王国は聞いたことがないが……!」
「お前達が知っていることだけが全てではないということだ。そろそろ本気を出したらどうだ?」
今度は男が爺さんを煽りながら近くのギルディーラに刃を振り下ろす。それを弾いた爺さんはそのまま半歩踏み込み肩から体当たりを仕掛けて相手のバランスを崩す。
騎士は型を使って攻めていくことが多いのだが、実戦ともなるとそうもいかないのでこういう荒っぽい手段を使うことは多々ある。
「……!」
「やりおるわ!」
男が踏ん張り剣の柄で爺さんの脇腹を狙う。その速度はかなりのものだったが、それを見越して鞘でそれを受けきる爺さんも凄い!
「どのみちワシの娘夫婦を殺した貴様等に生き残る選択はないからな」
「本さえ手に入ればこちらもお前達に用はない。あの子供を引き渡せば見逃してもいいぞ?」
「ほざくか……!!」
「ぬ……!?」
地雷を踏んだなと俺は爺さんの勝利を確信する。
爺さんは半歩しかない距離で膝蹴りを出し、それを察知した男が後方へ下がり、右肩を狙うように剣を落としてくる。
だが、膝蹴りを出した後はすでに爺さんは次の行動に出ていたため、その攻撃を回避しながら側面に回り込む。
「ハッ!」
「ふん!」
「男も負けていない……!」
「おじいちゃんすごい!!」
伊達にここを任されているわけじゃない実力だ。
男は爺さんの剣を受けると、胴薙ぎからの返す刀で首を狙ってくる。
それを紙一重で回避し、爺さんはライクベルンの型を瞬時に繰り出した。
「ハァッ!!」
「ぐあ!? 流石は死神というところか……!! ここを襲撃した時に貴様が居なかったのが悔やまれる」
「残念だったな。ワシは将軍であるとともにアルフェンの祖父だ。陛下にも進言しているが、復讐をしたいと思っていたのは孫だけではないということだ」
鎧で守られていない部分だけを確実に切り裂かれて血を噴出させる男へさらに接敵する。
「くっ……! 後は任せるぞ!」
「もはや逃げられん!」
「ぐぬ、せめて一撃――」
最後の一撃。
それが交差した次の瞬間、男の首は胴体とお別れを告げた。
爺さんは最後まで掠らせもせず、いつもの仏頂面で剣についた血を払う。
まずは一人、か。
「掠らせもせんとは……」
「貴様等の小賢しい【呪い】は一度受けて痛い目を見ているのでな」
「……」
「次はお前がああなる番だ、アルの両親を殺したお前等に容赦はいらない。情報ももはや必要ない。だからここで死ね」
仲間がやられて僅かに動揺が見られるが父さんの攻撃を避けないわけにはいかず先ほどの男と違い二刀流のダガーで大剣を受ける。
さて、相性は父さんに不利。
ダガーの小回りに対して大剣は通路のせいもあって大振りは難しいからだ。
「死神でなければ……」
「速いがそのくらいなら対処のしようはいくらでもある!」
「おお!」
「パパー!!」
「うわ!? やめろルーナ!」
なるほど、大剣を盾に
ルーナが腰の剣を抜いて振り回しながら興奮気味に応援していた。
「貴様の子か」
「そうだ、可愛いだろ? だからお前の主人に渡すわけにはいかんのだ!」
「……我々とて子供を女王の前に連れて行くのは心苦しいが――」
「どういうこった?」
「……」
そこで父さんと戦う男がなにか含みのある言い方をし、父さんが大剣を切っ先の動きだけで追い込みながら尋ねるもだんまりを決め込んだ。
「そういえば……」
「どうしたんだいアル?」
「爺ちゃんが倒した相手……水や泡にならなかった」
「あ、確かに」
こいつらは本当になんなのだろう……?
魔法生物かと思えば人間のようだし――
◆ ◇ ◆
「……来たか。戦力は十分のようだな。あいつらには悪いが、恐らく勝てまい。……私が本を手に入れられるかどうか。運命はどこで途切れるのか? ……見せてもらおう」
そういって謁見の間で女王ヴィネは剣を床に突き立てながら扉をじっと凝視し、いつもの笑みは消えていた――
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