226.不気味な幕


 「!」

 「始まった……!!」


 轟音と呼んで差し支えない音が真夜中の空に響き渡り、それが開戦の合図となった。

 場は騒然となり、闇夜を兵士や戦士が松明やライティングの魔法が爆発のあった方角へ移動していくのが見え、俺達が侵入する隠し通路付近も手薄になった。


 「行くぞ」

 「ペロはー?」

 「問題ないよ。少し窮屈だけど連れて行けるからね」


 双子が気に入ったラクダのペロを置いていくのかと心配していたが爺さんが笑顔でルーナに返す。

 ペロには俺と二人が乗っていて、フタコブラクダは乗りやすいなとどうでもいいこことを思う。

 そして一気に城壁へ接近し、明らかに壁にしか見えない箇所を爺さんがなにか操作すると壁が奥へ押し込まれて左右から中へ入れるようになった。


 「イークンベルにもこういうの必要かもな」

 「お主らに見られたからここは封鎖するが、いざというときの備えは必要だ、提案するといい」

 「アルベール将軍にはかないませんな」

 「ほらほら、感心していないで行くよ」

 「いくよーパパ!」

 

 壁をすぐに閉じてゆっくりと大通りへと向かう。

 中に兵士が居るかと思ったが恐ろしいほど静かだった。


 「灯りはついているけど……生活感が感じられないわね」

 「空気がおかしい気がする」

 「空気?」

 「いや、なんと言っていいか分からないけど……この場所だけ時が止まっているような感じだよ」

 「……時が? いや、今はそこを論じている暇はないか、誰も居ないならこのまま城まで突っ切るぞ」


 爺さんの言葉で大通りへと踊り出す。ここまでくれば外の騒ぎを聞きつけた者が出てきても出会い頭に斬り捨てられると最短距離を進むことに。

 

 ……しかし、いざ進んでみても敵はまったく現れずなんの苦労もなく城内へと入ることができた。


 『門番も居ない、だと? 一体なにを考えている。いや、これは……』

 <お兄ちゃん……これ……>

 「ああ、また空気が変わった」

 「いやな空気だ、アルの言う意味が分かった。しかしここまで入らせるとはよほど自信があるらしいな」


 馬に乗ったまま城内へ侵入し、階段前で降りてから違和感を口にする。

 なぜそこなのかと言われれば答えるのは難しいが『悪意』とでもいうのだろうか? そういう『気配』があったからだ。


 そして俺達はペロ達を置いて階段を駆け上がる。


 「大人しくしてるんだよー」

 「ペロまたね」

 

 双子が手を振り空気を呼んだのかいつものように『ブルベェェ』とは泣かずじっと待ってくれていた。


 マンションなら五階建て相当になる城だが、謁見の間は二階。

 すぐに到着する場所だと思っていると――


 「……外で騒ぎがあったようだが、もうここまで入り込んでいるとは」

 

 通路の途中で黒ずくめの「護衛か? となると、やはり謁見の間にヤツいるみたいだな。死にたくなければどけ」

 「貴様が本の所有者か? 死にたくなければだと、生意気なこの俺に勝て――」

 『どけ』

 「わ!?」


 相手が剣を抜くより先に、ギルディーラが相手の胸板を貫いていた。

 あまりの速さにルークがびっくりして目を丸くしていたけど、相手が死んだってこを見せていいものかどうか……。


 「ぐが……!?」

 『ガタガタ言う前にかかってくるべきだったな。こっちは貴様等の態度に怒り心頭というやつだからな』

 「チィ……!」

 『悪あがきを』

 「ギルディーラ、そのダガーは避けろ!」

 『む!』

 「避け……ぐふ……」


 腰から抜いたダガーをガードしようとしたギルディーラに爺さんが叫び、すぐにその場を離れると男は泡になって消えた。


 「……やっぱりこうなるのか。魔法生物かなにかなのか?」

 「気にしても仕方がない。先を急ぐぞ」

 「ドライだなあ」


 殺す相手のことなど知っても仕方がないとは爺さんの言葉だが、黒い剣士はどうしてこんなことをしたのかは知りたい気もする。

 そこまでする価値が『ブック・オブ・アカシック』にあるのだろうか、と。


 そこで、奥の通路からさらに黒い剣士の仲間が数人躍り出る。

 数は……三人か。


 「……賊、いや、かの子供か」

 「そのようだ。子供以外は皆殺しで問題ないだろう」

 「子供は三人居るぞ」

 「なら子供だけ残せばいいだろう」

 「違いない」


 淡々と話すやつらが正直不気味だ。

 微妙に聞こえる物騒なセリフが終わるより早く、爺さんとギルディーラ、そして父さんが踏み込んでいた。


 狭い通路、というほどではなく六人が並んでも余裕のある場所なのでそれぞれ狙いをつけた相手を狙いつつ……


 「はっ!!」

 「む!」

 「余所見をする暇があるのか!」

 

 ……自分の相手を攻撃しつつ、他の二人の敵へも攻撃を仕掛けていた。

 国も戦闘力も違うのに確実に相手を邪魔する三人に少し胸が躍ったのは内緒だ。

 これが強者が強者たる所以だということだろう。


 「ここは任せよう、下手に手出しするとこっちがやられそうだ」

 「アル兄ちゃん、攻撃しないの? あ、パパ危ない!」

 「え!?」


 ルークが不思議そうに首を傾げていたが、父さんの背後に剣が迫り手からファイヤーボールを撃ち出していた。


 「ぐ……!? チィ……!」

 「助かったぞルーク!」


 「お前、無詠唱で魔法を撃てるのか?」

 「うん! アル兄ちゃんが教えてくれたやつだよ!」

 「あ、ルーナもできるよ! えい!」


 「おお……!?」

 

 ルーナが適当に放ったファイヤーボールはルークより小さかったが、無詠唱で黒ずくめの方へ飛んでいく。

 それは外れ、無邪気に口を尖らせるルーナ。伊達に母さんの子供じゃないってことか。


 <お兄ちゃんのせいじゃない……?>


 俺は聞かれたから答えただけだ。


 「子供が存外やるぞ」

 「今は放っておけ。まずはこの者達の始末だ」


 さっきの奴と違いこの三人は冷静で、強い。

 城を乗っ取った時に女王と一緒に居たという三人がこいつらってことだろう。


 「我等の攻撃をここまで耐えるとは、将軍を相手にこの国を抑えただけはあるな」

 「……些末なことにすぎん。全ては我等が女王のために」

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