146.再び登場する二人組
「とりあえず俺達も定期便が無くなるとその間は金が入らないからさっさと終わらせたいんだよな」
「なるほどね。魔物が居る方角とは違うらしいけど、ライクベルンへは徒歩で行けると思う?」
「王都からライクベルンの国境まではかなり遠いからなあ。パーティを組んでいればなんとかなると思うぞ。夜に一人は危ないからな? ドラゴンスネイルの時は運が良かったと思って無茶すんじゃないぞ」
若い冒険者はそう言ってから片手を上げて立ち去っていく。
とりあえず話を聞いた限り魔物の群れがどの程度の規模なのか調査をするのだとか。
その規模によっては討伐隊を出す必要があり、今は調査隊の選別をしているようだ。
王都から見て北と南に冒険者と兵士を派遣。
どちらかと言えば南の方に頻発しているので北西のライクベルンに行く妨げにはならない……はずだが、北にも出るため油断はできない。
「どっちにしても足止めか……キャンプ用品を買って歩くか?」
<アル様なら大丈夫だと思いますけど、遠いですからねえ。おじい様も心配ですし……>
リグレットの言葉ももっともである。
だけど、変に強力な魔物と遭遇して死ぬのも本末転倒なので、さっきの冒険者が言う通り無茶はしないでしばらく様子を見るべきだろう。
依頼を受けるには人が多すぎたので今日のところは一旦考える時間を設けるかと外へ出て適当にぶらつく俺。
「きゅんきゅん♪」
「あんまりはしゃぐなよ、さらわれて売られるぞ」
「きゅん!」
散歩がてら商店やよくあるタイプの露店を眺めていると、やはりというか当然の結果が頭をよぎる。
「となると金が欲しいな……」
それは金である。
コウとセロについての謝礼はもらったものの、いつまで足止めを食らうか分からないので持っている10万弱では心もとない。
「へい、そこの兄ちゃん。金が欲しいのかい? いい仕事があるよ」
「え?」
「貴族の帰り道に護衛をするだけ! 三食ついて超お得!」
俺が振り返ると、サングラスをかけた二人組が俺に向かってそんなことを言い始めた。
まあ、当然というか――
「なにをやってるんだ? オーフとロレーナ」
「「ぎくっ!?」」
「もう帰ったんじゃなかったのかよ……。それにそれで変装したつもりか?」
俺が呆れて首を振るとロレーナがサングラスを外しながら口を開く。
「ちぇー。折角知らないていで勧誘して、受けてくれたらじゃじゃーんってやるつもりだったのに」
「なー」
「なー、じゃねえから。だいたい正体を隠す理由がないだろう。で、どうしたんだ?」
カナブンみたいな虫にじゃれながらきゅんきゅん鳴くクリーガーから目を離さずに問うと、オーフが肩を竦めて笑う。
「もちろん帰るつもりだぞ。だけど、スタンピードの可能性もあるし、お前が無茶しないか見に来たって訳だ」
「そしたら『金が欲しい』とか言ってるし、アレだったらヴィダー様の護衛をしないかなと思ったのよ。どうせライクベルンには行けないでしょ?」
「確かにそうだけど、あんた達が帰るのは南の方だろ? ライクベルンとは逆方向だからなあ」
「スタンピード、か」
「ああ、魔物が大勢で押し寄せることをそういうんだが、その可能性はあるらしいってさ」
なるほど、そういうのはゲームとかでもあったかと頷く。
とりあえず心遣いは嬉しいけど、ライクベルンからと遠ざかるならここで稼いで事態が収束するのを待つ方がいい。するとロレーナは得意気に言う。
「今回の依頼を終えたら、ヴィダー様との契約も終わりだからアルフェン君と一緒にライクベルンへ行ってあげようか? 護衛料を貰って旅を続けられて可愛いお姉さんと一緒ってよくない?」
「俺、彼女いるから」
「なんかふられた!?」
「ま、ライクベルンへ行くかどうかはともかく、悪い話じゃないと思うぜ?」
「ふむ」
ヴィダーもそこは良いと言っているらしい。
ちなみにこの騒動が落ち着くまでは乗合馬車は本数が減るとのこと。ただそれはあくまでも港町方面へ戻る方のみで先に進んだり、中央大陸の中央寄りには出ないので、ヴィダーが持つ自前の馬車はかなり破格ということになる。
どうせ依頼で危険な目に合う可能性が高いことを考えれば、オーフとロレーナという性格はアレだが強力な冒険者についていくだけで金が入るのは得かもしれない。
うまくやれば馬車を貸してくれたりしないだろうか?
グラディスと一緒に乗った馬を思い出してガラにもなく懐かしく思ってしまった。
それはともかくサッと移動してサッと出発すればいいか?
少し確かめたいことがあるので、俺は二人へと確認をする。
「ちなみにいつ出発だ?」
「ん? そうねー、お昼には出るわよ。どうしたの?」
「ちょっとやりたいことがあるから少し待ってもらえるかなって」
「構わないぜ。もし一緒に行って『くれる』なら、南側の門で昼まで待っているから来てくれ。居なかったら出たと思ってくれていい」
「分かった。行くぞ、クリーガー」
「きゅーん」
「また後でね~♪」
カナブンっぽい虫を咥えてご満悦な子狼を連れて俺はこの場を立ち去り、適当なカフェっぽい店に入ってから俺は『ブック・オブ・アカシック』を取り出してページをめくる。
<あ、使うんですね>
「ああ」
「きゅふ……」
あくびをするクリーガーを膝に乗せ、俺は静かに口を開く。
調べたいことは二つ。
「……オーフとロレーナという冒険者について行って問題ないか?」
ある程度情報を念じてマナを送る。すると本に文字が浮かび上がり――
‟ジャンクリィ王国の王都に滞在しても、ライクベルンへ行くには30日程度かかる。冒険者についていった方が帰郷は早くなるだろう。
少し面倒ごとがあるが、留まるよりは確実にいい”
珍しく饒舌だな?
なら、ついていくほうが急がば回れってことでお願いするとしよう。
面倒ごとが気になるが、死ぬようなことではない……と思う。
「それともう一つ。爺さんの状態はわからない? 婆さんのことでもいい。国交が復旧しているのに連絡がない理由は無いか?」
もう一つはやはり爺さん達のことだ。やはり一年もの間に連絡が来なかったのはおかしい。前ははぐらかされたような気がするが、どうだ?
‟……不明。恐らく、なんらかの事態に巻き込まれていると思われる。ただ、戻れば分かるはずだ”
歯切れが悪い、か。
よほど状況が悪いのか、焦らせないようにしているのか分からないが。
とりあえず指針は決まったので、俺はお茶を飲みながら時間を待つことにした。
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