145.足止めを食らう
「良く似合っていますね! 可愛い!」
「きゅーん♪」
「それじゃこれもらおうかな」
「はい、15790ルブルになりまーす♪」
……ペットには金がかかるのはどこの世界でも同じかと考えながら金を払って店を後にする。
「きゅんきゅん」
<なんかご満悦ですね、可愛い>
「虫よけの魔法がかかった足輪に燃えにくい素材のバンダナ……ブラッシング用のブラシに、ベッドとおもちゃ、クッション……高い……!!」
<まあまあ、向こうの世界より需要が低いから金額もそれなりでよかったじゃないですか>
「その分、種類も少ないけどな。食うのに困っている人が居るのに、ペットを飼うなんてよほどの金持ちか貴族だけだから仕方ないが」
真っ白な毛に赤いバンダナがよく映える。
ご機嫌で歩いていると、ふと子供連れの親子が子狼を見て話しているのが聞こえる。
「みて、おかあさん! 可愛いわんちゃん!」
「ふふ、そうね。オシャレさんねえ」
「きゅん! ……きゅーん」
女の子に褒められてしゃきっと背筋を伸ばすが、親子を見た後に俺の足にすり寄って来た。
「お、どうした?」
<お母さんを思い出したんじゃないですかね>
ああ、そういうことか……。
お別れは済ませたがもう親は居ない。
魔物と言えど、気持ちの切り替えがすぐにできるほど薄情ではないということだ。
「ほら、おいで」
「きゅーん」
あの時、俺がカッとなってこいつを助けたのも多分、あの時のことが重なったからだと思う。そういう意味で俺と子狼は相棒足りえるのかもしれないな。
「よし、お前には強い名前をつけてやろう」
「きゅん!」
俺が抱き上げて顔を前に持ってくると元気よく返事をしたので、笑顔で言ってやる。
「いい返事だ。お前は今日からクリーガーだ、いいな」
「きゅんきゅーん!」
<どういう意味です?>
「ドイツ語で戦士って意味だ。今は可愛いけど、強くなってくれそうだろ?」
「きゅきゅーん!」
<気に入ったみたいですね♪>
尻尾を千切れんばかりに振ってから俺の顔を舐めてくる。
とりあえず今日のところは疲れているので、美味しいものを食べてゆっくり休むと決め、宿を探してチェックイン。
ペット可か気になったが、そういう人用の部屋もあると案内された。もちろん割高だった。俺は少し軽くなった財布を見て泣いた。
「おら、逃げるな!」
「きゅぅぅん……」
ノミとかいそうなので風呂で洗ってやると、嫌がっていた。
だけど白いと思っていた毛が、実はもっと白い毛並みだったことを知ることができた。
「お前……高そうな感じするなあ」
「きゅん!」
「いたた……悪かったって。でもさっぱりして気持ちよかったろ。さて、明日も早いし、さっさと寝るぞー」
収納魔法からクリーガーのベッドとクッションを出してやると、床は嫌なのか自分で咥えてベッドに載せてから丸くなった。
急に環境が変わって眠れないかとも思ったけど、意外と神経の太いヤツで助かったな。
そんな旅の道連れが増えたものの、王都を出たら北西に向かって後三日ほどで国境付近に到着するはずだ。
爺さんからの連絡は結局無かった……どうなっているのか不安だ――
◆ ◇ ◆
――翌朝
宿をサッと引き払い、朝からやっている露店で馬車で食べるための昼食を買いながら乗合馬車の乗り場へと向かう。
乗り継ぐためのチケットがあることを確認して受付へ向かうと、昨日の御者が困った顔でタバコをふかしていた。
「おはよう……って、どうしたんだい、おじさん」
「おお、あんたか。いや、昨日のドラゴンスネイルとフェンリアーの件が結構深刻な状況だって判断されたみたいでな、今日は馬車を出さないようにと通達があったのさ」
マジか!?
ここに来て足止めを食らうとは思わなかった。俺が驚いた顔をしていることに気づいた御者のおっさんは煙を吐きながら口を開く。
「最近、魔物が多くなってきたって話もあるから、陛下も慎重なんだろう。騎士は元より、冒険者へ依頼として大々的に討伐をしてもらっているからな」
「なるほど……昨日みたいなのはやっぱ珍しいのか?」
俺が尋ねると、おっさんは頷き続ける。
フェンリアーの群れをあれほど見ることはないそうだ。で、どうも王都から南の方が特に魔物との遭遇率が高いのだそうだ。
ここから南に行くと、ヴィダーの家がある領地へ辿り着くし、さらに南へ行けばコウとセロが住んでいたアイゼンの森があるはずだ。
まあ、アイゼンの森は国が違うから国境を越えなければならない。
それはそれとして――
「しかしまいったなあ。もうちょっとでライクベルンに帰れると思ったのに。うーん、明日はどう?」
「分からんよ。ギルドと城の取り決めだから、何日かこのまま動けないかもしれん」
むう……焦るのは危険だがここに来てこれは歯がゆい。
なので俺はおっさんにとあることを聞いてみる。
「徒歩は問題ないんだろ? 馬車のお金、払い戻しはできるか?」
「おいおい、お前さんがいくら強くてもそりゃ止めた方がいいぞ。国境付近の町まで歩くと五日はかかる。その間は村も無いから基本野営だ。
乗合馬車なら魔法のコテージがあるが、身を守るものなしでの野営は自殺行為に等しいぞ」
悪いことは言わないから止めとけと言い、それでもと払い戻しだけはしてもらった。
慌てて死ぬのも馬鹿らしいので他に手立てが無いか考えよう。
ギルドでライクベルンへ行く冒険者でも居れば随伴させてもらえないか交渉も視野に入れてみるか……
「魔法のコテージがあれば徒歩で行くんだけど」
<80万は高いですよ……これからクリーガーも養わないといけないですし>
「だな……。とりあえずギルドへ行ってみるか」
そんな調子でギルドへ足を運んでみることに。
人づてに場所を聞いてひと際でかい建物の扉をくぐると、早朝ということもあってかたくさんの人が集まっていた。
「アレか? 王様が依頼をかけたってやつか?」
「お、昨日の坊主か。フェンリアーの子もいるな」
「きゅん」
そんな中、昨日の若い護衛冒険者が俺に気づき、声をかけてきた。
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