144.先行き不安


 結局ヴィダーの馬車でジャンクリィ王都へと到着。

 途中、魔物が出るかと思ったがあのドラゴンスネイルの一件以降は静かなもので、逆に不気味さを醸し出していた。

 それでも目的地へ無事に到着したことは喜ぶべきだろう。

 

 「おや、オルソン家の方ですか」

 「ああ、通るぞ」

 「決まりですから、念のため全員の身分を確認させてください」

 「はやくし――。いや、よろしく頼む」


 ヴィダーが横柄な言葉を言い換え、衛兵は少し驚いたような顔をしたあと、笑顔で頷いた。悪名……ってほどでもなさそうだが態度が悪いのは知れ渡っているのかもしれないな。

 俺が道中で散々友達が欲しいなら言葉遣いから直せと言ってやったので、これからの努力次第だろう。誘拐……はどうも事情があるっぽいけど、こちらから聞くのは止めて置く。余計なことになりかねない。


 「きゅん」

 「おっと、こいつは犬……じゃないな。フェンリアーの子か、珍しいのを連れているな」

 「俺の連れなんだけど町に入っても大丈夫か?」

 「まあ、子供だし政令上問題ない。ただ、はぐれて迷子になったり、連れ去られても責任は持てんからしっかり見ておくんだぞ」

 「オッケー、ありがとう」

 

 魔物を飼うなんてヤツはよほどの物好きだけどペットを飼う習慣はあるため、どこかの店で目印になるようなものを買っておくかな。

 特に不都合なく町へ入ることができたが、乗合馬車のところへ行かないといけないことに気づく。


 「そういや乗合馬車から飛び降りたんだった、心配されてるかもしれないから顔を出してくるよ」

 「あ、そういえばそうだったわね。いってらっしゃーい♪」

 「送ってくれた助かったよヴィダー」

 「う、うむ、気にするな。獣人の件を含めて迷惑をかけたしな」

 「オーフとロレーナも元気でな!」

 「おう! さあて酒だ酒だ! 行こうぜ坊ちゃん!」

 

 しんみりとしないのはあいつらのいいところだと思う。

 コウとセロも無事に送り届けてもらっているといいが、今の俺には知る由もない。

 

 「さて、それじゃ俺達も行くか」

 「きゅん!」


 俺はヴィダー達の馬車を見送り、子狼を抱っこして歩き出す。

 当然、港町よりも大きな町なので人通りも多く、店もずらりと立ち並ぶ。

 色々と物色した衝動に駆られるがまずは目的の場所を探そう。


 「すみません、乗合馬車はどこですか?」

 「ん? この道を真っすぐ行って、二つ目の十字路を右だよ」

 「ありがとう!」


 こういう時は現地人に聞くのが手っ取り早いものだ。程なくして到着すると、一緒に乗っていた人達が焦った様子で揉めている? ような感じだった。


 「おいおい、ガキ一人残したままなんだ、つべこべ言わずにとりあえず馬車を出せよ」

 「しかし、振り落とされたわけではなく自分から降りたのだから仕方あるまい」

 「ドラゴンスネイル相手に生きているとは思えんしなあ……」

 「いいから行くぞ! どっちにしてもドラゴンスネイルはそのままにゃできねえだろ」

 「おーい! ごめん、飛び降りたりして! 俺は無事だから喧嘩しないでくれ」

 「「「!?」」」


 なんか俺を助けに行くのとあの魔物を退治しときたいらしい話をしていたので、すぐに声をかけた。すると一緒に乗っていた護衛冒険者達が目を見開いてこちらを見た後、安堵のため息を吐いて俺に群がって来る。


 「マジかお前、逃げきれたのかよ」

 「いやあ、無事でよかった! 途中降りようと思ったが、他の魔物にも襲われてな……結局ここまできちまったんだ」

 「いや、俺が勝手をしたんだから気にしないでよ。来てくれようとしただけでもありがたい。それとあの大蛇は倒しておいた」


 あらかじめ出しておいたカバンからオーフ達と分けた素材を見せると、肩を竦めながら口を開く。


 「ひゅう……飛び降りた時も驚いたが、こいつは将来有望だな。一体だったか?」

 「いや、二体居た。オーフとロレーナっていう冒険者が加勢してくれて倒せたよ」

 「オーフだと? まさか『斬鋼のオーフ』か? 相方がロレーナと名乗ったならそっちは『灰燼のロレーナ』だな」

 

 あのちゃらんぽらんな二人が物騒な二つ名持ちってか?

 確かにあの剣筋と火薬を使った戦法はそれらしい感じはするが。


 「……有名なのかい?」

 「まあ、それなりにはな。あいつらなら倒せても不思議じゃねえ、良かったな坊主。悪かったな馬車屋。解散だ、ギルドに報告行くぞー」


 詳しい話をとも思ったが、まあ会うことも無いだろうしいいか。

 そこで一人の冒険者が俺の胸元に居る子狼に気づいた。


 「って、そいつはあの時の子狼か? 連れて来たのかよ」

 「なんかボスみたいなやつに託された」

 「きゅん」

 「ほう……。命がけで助けたからだろうな。育ててやりゃいいパートナーになったケースもある。大切にしてやんな」

 

 髭のすごい冒険者が子狼の頭を撫でてから立ち去っていく。

 なんというかあちこちのギルドとか巡って思うことは、物語で見る冒険者より仲間意識が高いような気がする。

 命がけの商売だし助け合いの精神というヤツだろうな。


 「まだ陽も高いし、買い物でもするか。お前の名前も決めないとな」

 「きゅんきゅん♪」

 「さてと、雑貨屋はどこかな?」

 <右手にショーウインドウがある建物がありますね、行ってみましょう>

 

 リグレットの提案にのって歩き出す。

 もうちょっとでライクベルン……だと思ったのだが――


 ◆ ◇ ◆


 ――ライクベルン城 将軍用執務室――


 「イーデルン様、よろしいでしょうか」

 「……入れ」

 「ハッ! 本日届いた手紙をお持ちしました」

 「ご苦労、下がっていいぞ」


 アルフェンの祖父、アルベールに代わり将軍の座を手に入れたイーデルンが部下が持ってきた手紙の束に目を通す。

 その中に目的の差出人の名を見つけてそれを抜く。


 「……また送って来ていたな。一年前にアルベール宛としてここに届いたときは驚いたものだ。まさか孫のアルフェンが生きていたとは思わなかった」


 そう呟いたかと思うと、アルフェンの手紙をガラスでできた灰皿へ投げ入れると、ファイアの魔法で燃やし尽くしてしまう。


 「小僧が帰れば喜ぶだろうし、気力を取り戻されてはかなわない……。あの爺は片腕でも化け物だ……ここへ復帰するとも限らないし、始末しておくか? 国境で誘導して捕らえるか、そもそも入国させずに殺すか、だな。

 船で戻ってくるなら、ジャンクリィ王国を通るはず――」


 イーベルンは少し考えた後、執務室を後にする。

 いい案が浮かんだ。

 彼の顔はそう、物語っていた――

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