142.敵討ち
「ギシャ!?」
特大のファイヤーボールを顔の側面にぶち当てると大蛇は一瞬怯んだ様子が見えたので魔法は通用するようだ。
俺はアクアフォームでクッションを作って着地すると、強く地面を蹴って子狼へ向かう。
「きゅん! きゅん!」
「シャァァァァ」
攻撃を仕掛けた俺に目を向けたものの、親を守ろうと健気に鳴く子狼という美味しいエサが先だと言わんばかりにすぐ鎌首を下げて子狼を飲み込もうとする。
「させるかぁぁぁぁ!!」
さらに追撃でファイヤーボール三発とハイクラスの魔法、ゲイルスラッシュを放つとそれでようやくドラゴンスネイルが俺を『敵』だと認識し、こちらへ首を向けてきた。
「ガラガラガラ……」
「なんだ? いや、今はそれよりこいつを!」
「ひゅーん……」
剣で牽制しながら子狼を回収して距離を取る。
下顎に当てたものの確かに鱗が硬く、剣で倒すのはかなりしんどいと思わせる鈍い音がしたので軽く舌打ちをした。
「ついでに食らっとけ!」
「シャアァ!」
「避けた!? とりあえずお前は降りとけ」
「きゅん!」
子狼を降ろそうと思ったが、恩人だと分かっているのか邪魔にならないように俺の頭の上に鎮座した。爪が少し引っかかるが子犬程度の力じゃ痛いほどじゃない。
「仇は取ってやる、落ちるなよ!」
「きゅんきゅん!!」
「ギシャァァァァ!」
喉を鳴らし終えたドラゴンスネイルが倒れた狼達を踏みならしながら俺に向かってきたのでアイシクルダガーを放ち側面に回り込む。
思った通り、爬虫類なら寒い魔法に弱いようで数本が胴体に刺さって少しだけ動きが鈍くなる。
そのまま前進し剣を構えてギリギリの距離まで接近。
大蛇野郎の側面に回り込みたいが動きが鈍くなったとしても長さ6メートル、太さは俺くらいある巨大な蛇は頭を確実にこちらへ向けてくる。
「でかいってだけで有利な場合もあるんだな」
なら正面からいくかと右手と左手に別々の魔法を生み出し撃ち込んでいく。
ミドルクラスのファイヤーボールでは結構ぶつけないとダメそうなので、ハイクラスで応戦する。
右手からはフロストストーム、左手にはフレイムランス。
寒さと熱さのダブルパンチならどうだ……!!
鋭い風と吹雪が大蛇を包み込むと硬い皮膚を傷つけ、フレイムランスがその傷へ直撃し爆発を起こす。ファイヤーボールのように面ではなく点の一撃なので傷口を広げるエグイ攻撃だ。
「ギ……!?」
「おっと! よしよし、効いているな。このまま押し切る!」
鮮血が飛び散る中、俺は足を止めずに魔法を連発していく。
このまま魔法だけで完封できそうだが、トドメの一撃は欲しいかもしれない。
素材は欲しいが初戦闘の相手なので、ここはきっちり殺しておくことにしよう。
「シャァァァァ……!」
「<エクスプロード>!」
何度か捕捉されそうになったが、度重なる魔法のおかげで完全に動きが止まったドラゴンスネイルへエクスプロードを撃ち込んでやると大爆発を起こした。
「終わったか……」
<頭が半分吹き飛んでいますし完全に死んだかと思います>
森が燃えるのは避けたかったのでマナはおさえて放ったが流石にエキスパートクラスの魔法は恐ろしい威力を誇る。
母さん本気モードで魔物を粉々に吹き飛ばしつつ大森林の木を削って後悔していたエピソードがあるくらいだし。
「さて、どうするかな」
乗合馬車は先に行ってしまったのでここには俺一人。
自分で追いかけるしかないが、その前に子狼をどうするか考えないといけないな。
「きゅーん……」
その子狼と言えば動かない親の姿を見て察したのか、頭の上でか細く鳴くばかりだった。
<残念ですけど【
「そうか。こいつの身内とか仲間が戻って来ないかなあ……」
魔物とはいえ群れの仲間は大事にすると思うんだが……そんなことを考えていると、リグレットが大声を上げた。
<アル様、後ろ!?>
「なに!?」
「ジャァァッァァァァ!」
振り返ると今殺したドラゴンスネイルとは別の個体が口を開けて迫ってきていた。
咄嗟に魔法を出すため手を前に出す。
「さっきの音は仲間を呼ぶ音だったのか!?」
見れば狼の毛が口の周りについているため別の場所で食事をしていたのかもしれない。
「間に合え……!!」
ぽっかり空いた口にファイヤーボールをぶちこむつもりだったが、それを見越していたのか大蛇がそれを避けて迫りくる。
マズイ、そう思った瞬間に頭の子狼が鳴きながらジャンプした。
「きゅーん!」
「あ、馬鹿!?」
「シャァァア!」
当然、魔法を撃つ俺よりも弱い存在に目が行く大蛇。
すぐに進路を変えて子狼へと向かおうとしたので慌てて剣を叩きつける。
「止めろ! お前、早く逃げろ!」
「きゅん! きゅん!」
なんかよく分からんが大蛇を煽るように鳴く子狼。そこでリグレットが気づいたかのように口を開く。
<アル様! 自分を囮にしてるんですよ!>
「マジか!? くそ、こっち向けっての!!」
「ギシャァァァ!?」
どてっぱらにエクスプロードを放ったが半分千切れながらも子狼から視線を外さない。食われる! そう思った瞬間、大蛇の目にダガーが突き刺さった。
「今度はなんだ!?」
「オーフ、左目を潰したわ」
「オッケーだ、ロレーナ。隙が一瞬あればいいってな」
出てきたのはオーフとロレーナ。
オーフが剣を振ると、ぶちゅりという音と共に首が斬れた。
トドメまで一息というところで今度はロレーナが目の前まで来て大蛇の口になにかを食わせ――
「『原初の力よ目の前で熾せ』<ファイア>」
――ライトクラスの魔法を使うと口元から爆散して頭が粉々に吹き飛んでいった。
あれは……火薬か?
「よし! こりゃ金になるぞロレーナ!!」
「後をつけて正解だったわねオーフ! ぐふふ、今日も一杯飲むわよ……酒だけに」
「きゅんきゅん♪」
「おお、無事か……! にしても……後をつけてきたのかよ」
「くっくっく……わたし達からは逃げられない……!」
何故かロレーナが悪い笑みを浮かべているのに呆れながら、とりあえず解体をしてできるだけ金にしようというふたりを手伝いに入る。
多分あいつもいるだろうなと思っていると、しばらくしてから馬車がこちらへ向かってくるのが見えた。
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