32.孤高の生徒に俺はなる……かもしれない
そんなわけで強制的に学校へ行かされることになった訳だが、正直な話としては面倒である。
なんせ子供は好奇心の塊だ。
じゃれついてくる子は必ずいる。
そうなると邪険に扱うのが難しいんだよな……。例えばルークとルーナを部屋から追い出すとするだろ? そしたら大泣きするんだ。
懐かれたら終わりだと思っていい。まあ双子は可愛いが。
で、前世の友人関係はというと悪くなかったと思う。カラオケ合コン、ゲーセンなどなどよく遊んでいたしな。
だが、あの事件以降、あまりよろしくない事務所に出入りしていたことや、路地裏の怪しい店とか情報屋に接触していたことを責められたもんだ。
『家族はそんなことを望んでいない』とか言ってさ。
俺はそいつをぶん殴った。全力で。
だってそうだろ? 他人のお前になにが解るかって話だ。
実際、家族はそう思っていたかもしれない。両親も妹も、亡くなった本当の両親やカーネリア母さん達と同じくらい優しかったから。
だけどそれがどうした? そうだったかもしれないしそうじゃなかったかもしれないんだ。
残された俺の幸せ?
俺の幸せは恐らく家族が死んだ時点で終わったのだ。それを蚊帳の外に居る人間にとやかく言われる筋合いはないのだ。
……心配してくれるやつもいたが、俺を売るやつも居た。
俺がゼルガイド父さん達のフォーゲンバーグ家から早く出たいのは、俺という人間が相手を倒そうとした時、それが弱点になり得る可能性があるからだ。
だからなるべく人に知られないのが好ましい――
「ひとがいっぱいー!」
「アルにいちゃ、いっぱい!」
「はいはい。校庭に集合みたいだね、家族も行くのかな?」
考え事をしながら進んでいくと、校庭に人が集まっていき、カーネリア母さんが口を開く。
「みたいだね、あたしたちは後ろで見てるから、行っておいで。ほら、ルークにルーナ、抱っこしてあげるからおいで」
「にいちゃとおてて繋ぐー!」
「二人とも、アルは今からあそこに行くんだ。ほらパパとママと一緒に行くよ」
「やー!」
強く掴んでしゃがみ込む双子に苦笑する。
さすがにこのまま並ぶわけにもいかないので俺も目線を合わせて二人に言う。
「離してくれないと、家に帰ったら一緒に遊ばないぞ?」
「「やーー!!」」
ガーンといった効果音が出てきそうなくらいショックな顔ですぐに手を離す双子。可愛い。俺は二人の背中を軽く叩いてから立ち上がる。
「それじゃ、行ってくるよ。どうせ面白い話でもないだろうけど」
「こら、そんなこと言うんじゃないの!」
「あはは、冗談だって! 行ってくるよ」
「ばいばい……」
今生の別れみたいな顔で手を振るルーナに返してから前を向いて集合場所へ向かう。
「さて、一番後ろでいいかな」
貴族は概ねゼルガイド父さんやさっきの嫌な奴(もう名前を忘れた)みたいな城勤めの人や、ライノス父さんみたいに他に仕事を持っていて適当な土地に屋敷を持っている家族くらいなので、ここに通うのは一般人が多いらしい。
「侯爵で貴族の息子に近づく奴も少ないかな? ここはあえて尊大な態度で嫌な奴アピールを……」
「嫌な奴、ですか?」
「うん、あんまりクラスメイトに近づいて欲しくない……って君、誰?」
「僕はラッドって言います! さっきの双子って兄妹ですか? 可愛かったですね!」
「ああ、うん、自慢だからね。それじゃ俺はこれで――」
「待って!? 今日から入学だよね!? 一緒に行こうよ!」
――なるべく人に関わらないのが好ましい、のだが、早速妙なのに捕まった……。
とりあえず無視して歩き始めるのだが――
「いっぱい人が居るね! 友達いっぱいできるかな? 楽しみで昨日は眠れなかったよ。あ、そうそう僕にも妹がいるんだよ。ひとつ下だから来年入って来るんだ。あの双子ちゃんたちはいくつ?」
ぐいぐい来る。
明らかに嫌そうな顔をしている俺に。だけどお構いなしにペラペラと話しかけてくるんだこれが……
<凄い圧です>
そうだねリグレット……。
空気を読まない……というか子供らしく読めないと言うべきか。
集まっている同年代を見て目をキラッキラさせているのは子供らしくていいと思うけどな。
「悪い、俺に話しかけないで――」
「居たぞラッド様だ!!」
「げ!? もう見つかった!」
「お待ちください一人なんて危険すぎますぞ!!」
「さっさと列に入らないと目立っちゃうな! それじゃ先に行くね! 君、名前は!」
「あ? ああ、アル……」
「アル、またね!」
慌ただしく駆け出し、振り返りながら笑顔を向けてくるラッド。
思わず片手を上げて見送ってしまった。
直後、俺の脇を平民とは違う服を着た男と爺さんがすり抜けていく。
「……どっかの貴族の息子かな? 同じクラスにならないといいけど」
<一年くらいはいいんじゃないんですか? 旅に出たらどうせ顔を合わせないでしょうし>
「そこは妥協できないかなあ」
リグレットの言葉に、俺は頭を掻きながら列の一番後ろに並ぶのだった。
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