33.一つの提案


 「――で、仲良くみんなで座学、剣術、魔法を勉強してくださいね? お返事は?」

 『はーい!』

 「ふあ……」

<いけませんよアル様>


 列の一番後ろで婆さんの話を聞いていた俺は、みんなが返事をする中あくびをする。

 お年寄りにしては短い話だった。

 けど、友達を作れとか英雄の話なんかを聞かされてカーネリア母さん達の焼き直しみたいなことばかりだったので退屈していたから仕方ないよな?

 

 ちなみにあの人婆さんはこの学校の一番偉い人で、校長みたいな存在らしい。

 さて、次はクラス決めか?


 そう思っていると、さっき俺に絡んできた子供が簡易壇上に上がっていくのが見えた。


 「今日からこの学校でお世話になるラッド=ハウ=イークベルンです。代表でみんなの代わりにご挨拶することになりました、よろしくお願いします!」

 『よろしくお願いしまーす!』

 <おや>

 「な!?」


 イークベルンってこの国の名前だよな!?

 あいつ王子だったのか……どおりで高そうな服を着た人が追いかけていたわけだ。 

 

 邪険に扱ったな……


 ま、まあ、そんな重要人物が俺とまた会うことはないだろうし大丈夫か?


 そんなことを考えていると、後ろから視線を感じ振り返ると義両親が笑っていた。

 さっきのやりとりを見ていたのだろうか?


 あ、そうか……ゼルガイド父さんは騎士団長だから知っているのか……

 

 「ラッド様、ありがとうございました。では、よりよい学校生活をしてもらえるよう我々も尽力しますので、お父さんお母さん、ご安心ください! さて、この後クラス決めがあります。この教材を手にしたらここから右に見える訓練場へ集まって試験を行いますよ」

 「それじゃこっちへどうぞ!」


 男性教諭が案内を行い、眼鏡をかけた女性教諭が子供達を順番に招いて教材を渡していく。

 木剣とガラスの玉がついた杖、それと教科書って感じだな。

 総勢で100人くらいの列がどんどん消化されていき、俺の番になった。


 「はい、頑張ろうね! わたしはベルナット、よろしくね」

 「はーい。……ちなみに試験ってなんなの? クラスは?」

 「ふふ、気になる? まあ後で聞くことになるからいいけど、あそこでクラス分けをするの」

 「どうやって……?」


 なんとなーく、把握したがあえて聞いてみると――


 「魔法の適正を調べるの。出来る子とできない子をバランスよく……ってまだ分からないわよね」

 「ううん、大丈夫! ありがとう先生!」

 「先生……! いい響き……」


 なんか感動している女性教諭をよそに、俺は訓練場とやらに向かって歩き出す。

 

 「へえ、でかいなあ」

 <どこかで見たことがある感じですね>


 リグレットが言う通り、中は楕円形じゃないが競技場のような形をしていた。

 観客席もあるので、なにか行事をする時に使うのかもしれないな。


 「はい、そこまで! じゃああっちに行ってね」

 「はぁい、上手くできなかったよー」

 「じゃあ私の番!」

 

 喧騒に包まれた周囲を見ると、子供達が的に向かって魔法を撃って一喜一憂している微笑ましい光景が広がっていた。


 「でも、結構出来る子が多いか」


 もうちょっと出来なさそうなイメージだったけど『ライト』クラスの魔法を撃ち出すことくらいは出来ている。


 「学校に入るって決まってから頑張ったのよウチの子」


 そんな声が観客席から聞こえてくる。

 なるほど、カーネリア母さん達が俺にどんどん鍛えろと言っていたのはそのせいかと納得する。


 そんな中でも出来るやつは居るもので――


 「<ヘルファイア>!」

 「お、グノシス殿の息子さんはミドルクラスを使えるのか。凄いじゃないか」

 「へへ、当たり前だ!」


 「<ハイウインド>ぉ!」

 「ラッド王子もよく鍛えていますね『ミドル』クラスを使える生徒が二人も居るとは今年は面白くなりそう」


 あのいけ好かないやつと王子は結構いいセンスか努力をしたのだろう、この歳で『ミドル』クラスはまあまあ凄いのはカーネリア母さんとの修行で知っている。


 「度肝を抜けって言ってたよな」

 <そうですね。やるんですか?>

 「折角だしな。えっと……あ、いたいた」


 俺は先ほどの婆さんを見つけて近づいていく。

 もし叶うなら提案をしてみたいと思ったからだ。


 「あの、いいですか?」

 「おや、試験はあっちだよ?」

 「ううん、先生に話があったから大丈夫。えっと、これでクラス分けをしていると思うんだけど、もし俺がみんなよりずっと上だったら基本的に自習でいいクラスにして欲しいんだけどダメかな?」

 「ほう」


 婆さんは窘めてくると思ったが「面白いことを言う子」だと言わんばかりに呟く。

 すると俺を見下ろしながら言う。


 「そうだね……私を驚かせてくれたら考えてあげてもいいよ?」

 「お! 話が分かる! でも、驚かせるって?」

 「そこは自分で考えなさいな、あなたが言い出したことですよ」

 「確かにそうだね。よし、早速――」


 俺は腕まくりをして空いている的の前に立ち、詠唱を始める。

 的までの距離はだいたい5メートルってところか。


 「『灼熱を手のひらに、熱を指先に――』」

 「ん?」

 「『――二つの赤き力を一つにし、大いなる渦となって飛んでいけ』<ヒュージフレイム>!」

 

 俺の両手から放たれた『ハイ』クラスの巨大な炎が的を直撃し――


 「あ、やべ!?」

 「ああああああ!?」


 大爆発を起こした――

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