34.問題児だ!


 「きゃあああ!?」

 「なんだ今の爆発!?」

 「おちついてー! 大丈夫、大丈夫ですからー!」


 阿鼻叫喚。


 そう言って差し支えない場が騒然としていた。

 ちょっといいとこ見せてみたい、と思って今使える最高の魔法を使ったけど、真面目に詠唱したせいで思いのほか爆発が大きくなってしまった。


 「『水の泡よ』<アクアフォーム>」

 

 教員達が鎮火を始めたので原因である俺も手伝うべきかと魔法を使う。


 「『清らかなせせらぎを激流に変えよ』<アクアストリーム>」

 「あああ!? グラウンドがびしゃびしゃに!? ちょっと君、止めて止めて!」

 「あ、ごめんなさい!?」


 一気に消すならと思ったけどそこまでは考えていなかった。

 渦を巻いた水の奔流がグラウンドを水浸しにしてしまう。


 「やりすぎたかな……」

 「こほん!」

 「う……!?」


 婆さんの咳払いがすぐ背後から聞こえて、俺は一瞬びくりと体を震わせる。

 周囲が冷え込むような気配が漂っていたからだ。

 

 恐る恐る振り返ると――


 「確かに凄かったですよ。だけどやりすぎです!」

 「ぐあ……!?」


 当然というか必然。俺は婆さんに拳骨を食らってしゃがみ込む。

 細腕なのにカーネリア母さんと同じくらいの威力があるぞ……。


 「しかし、よく鍛えていますね。……ふむ」

 「?」


 婆さんは顎に手を当てて俺をじっと見つめ、なにかを考える仕草をする。

 

 「君! 凄かったけど、危ないでしょ!」

 「誰のお子さんだろう、注意してもらわないと。こっちへ来なさい」

 「あ、あれ?」


 怒り顔の教諭達に両脇を抱えられて、俺は焦る。

 すると、婆さんが教諭二人に声をかけた。


 「この子は私が預かりましょう、いいですね?」

 「え? でも……」

 「任せなさい、あなた達は他の子供を」

 「わ、分かりました。なにかあれば呼んでくださいね」


 女性教諭がそう言うと、婆さんはにこりと微笑み小さく頷く。

 俺が呆然と見送っていると、婆さんが首根っこを掴まえ引きずりだした。


 「ええ!? ど、どこに行くのさ」

 「お望みの特別クラスにしてあげるんだよ。……担任は私で」

 「ホントに!? でもせっかくなら若い人の方が……いて!?」

 「生意気言うんじゃありません! はあ……まさかこんな子がいるなんてね」


 呆れたように俺を引きずっていく婆さん。

 周りを見ると、他の子達もクラスが決まっていくようで別の出口からどんどん抜けていく。


 「あはは! 叱られてる!」


 ラッド王子が俺に気づき、大笑いしながら指をさしていた。

 うむ、もう会うこともないだろうし、別に構わない。


 競技場のような場所を出ると、俺は 途中から自分の足で歩き、婆さんに着いていく。


 「そういえば名前は?」

 「アル。アル=フォーゲンバーグだよ」


 俺は話し合いの末、念のためアルフェンではなく愛称のアルを基本として、ゼルガイド父さんの苗字を借りている。この地で爺さんを知る者は居ても、孫の俺を知っている人間は恐らく居ない。

 だけど、ゼグライド家となれば知る者も出てくるであろうということでこうしている。


 「なるほど、ゼルガイド坊やの子か。母はハーフエルフのカーネリアか。それなら納得いくけど、『ハイ』クラスまではやりすぎじゃないかねえ」

 「ん、カーネリア母さんも言っていたけど、俺はすぐに慣れたから色々使えるよ」

 「面白い子だねえ。私はこの学校の校長で今日からアルの担任、ミーア=ワイアップよ」

 「オッケー、よろしくミーア先生」

 

 俺が握手のため手を出すと、目をパチパチさせながら握り返し、フッと笑って口を開く。


 「なんだか子供らしくないけど……よろしくアル。ただし、私の授業は甘くないから覚悟しておきなよ」

 「それも大丈夫だよ。元々、他の子と慣れ合うつもりは無かったんだ。これでいい」

 「……本当におかしな子だねえ。後でゼルガイドに話を聞かせて貰わないと」

 

 そう呟いて握手を離さずそのまま手を握り校舎へ入っていく。


 しかし――


 「……あれ? あっちの綺麗な校舎じゃないの?」

 「あんたは問題児だからね、こっちの古い校舎で十分! さ、行くよ」

 「好都合だけど……ぼろいなあ……」

 <まあ目的を考えたらいいじゃありませんか>

 

 リグレットの言う通り、確かにそれはそうなんだよな。

 とりあえず、咄嗟に考えた案だけど一人だけ別クラスになることができた。

 後はもっと強くなるために三年間生活していこう。



 ◆ ◇ ◆


 「な、なんだったんだ……あの子」

 「凄かったな『ハイ』クラスだったが……」


 自分の子供達が試験を終えて姿を消すのを見送りながら、あちこちで父兄がアルフェンの魔法に驚いていた


 「にいちゃすごい!」

 「うん、すごい!」

 「あはは、まあ最初が肝心だからね。舐められないよう度肝を抜いてやる必要があったんだ」

 「魔法はカーネリア。剣は俺だから、剣術の方も楽しみ……って、アルが校長に引きずられていくぞ? なんだ?」


 よくやったとアルを褒めるカーネリア達の眼下でアルフェンがミーアに連れて行かれるところを目撃して訝しむ。


 「やりすぎたかしら? ミーアさん、厳しいしねえ」

 「俺もあの人には絞られたことがあるからな……。さて、それじゃ俺達はここまでだ、先に帰ろう」

 「またない?」

 「ん、いつになるか分からないからね。抱っこしてあげるよ」


 カーネリアは笑顔でルーナを抱っこし、ゼルガイドがルークを肩車する。

 まさか自分の子が問題児扱いされていると思いもせず――

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