波乱の学校生活
31.自重無しで良いらしいです
「似合うわよアル」
「えー、なんか浮いてない? ……やっぱり学校に行くの止めてもいい?」
「ダメよ。魔法と剣は教えられるけど、学校ではそれ以外でも得られるものはあるの。それに、学校へ行かせるって約束したからね」
「ルークとルーナでもいいんじゃ……」
「お前も出自はどうあれ俺の息子だ。正直、学校は行って欲しい。友達を作るとまた変わるかもしれないしな」
二人して『度肝を抜いてこい』と言わんばかりの笑みで俺の頭と肩に手を置いてそんなことを言う。
友達を作れとも言っていたけど、俺はここだけは真面目に答えることにした。
「ううん、友達は作らないよ。卒業してしばらく修行したらライクベルンに戻る旅に出ようと思ってるんだ」
「アル……」
「お前……」
学校は三年ほどで修了する。
そのころは十二歳。この世界の成人年齢には4年ほど足りないが、その4年を修行と金稼ぎに使って爺さんのところへ戻るつもりだ。
急ぎたい理由もある。
この屋敷で暮らすようになって二年くらいは手紙を出していたのだが、迎えが来るどころか返事すらないのだ。
婆ちゃんが居るから自暴自棄になってはいないだろうし、手掛かりがないから黒い剣士を探しに旅に出たといった線は考えにくい。
故に状況を確認するため戻りたいのだ。
あ、カーネリア母さんが物凄く悲しい顔をした。
罪悪感はあるし、感謝もしている。恩返しはきちんと果たしたいところである。
「にいちゃ、どっか行くの?」
「ルーナも行く!」
「はは、まだどこにも行かないよ。それで学校は……」
「行きなさい」
「はい……」
悲しげな顔から怖い笑顔に変わったカーネリア母さんの気迫に、俺は頷くしかなかった。
<本があるので勉強はどこでも出来るのですがね>
ま、そうなんだよな。
だけど、期待してくれているし頑張って通うとしますかね。
友人は……作ると後々寂しくなるから、なるべく一人で居るつもりだ。
前世では汚いことも結構やった。
殺しだけは最後のあの時までやらなかったが、あれを達成するために、それこそ色々と。
だから俺は一人でいい。
今後の人生もあの女を殺すためだけに生きることになるだろう。そんなやつに付き合わせてはいけないのだ。
カーネリア母さんやルーク、ルーナ、ゼルガイド父さんが巻き込まれるのも避けたいしな。
「さ、しんみりした話は無しだよ! そろそろ行こうか」
「はーい」
「おさんぽ!」
「おさんぽ!」
「ルーク、ルーナ、パパと一緒に……」
「にいちゃがいい!」
「とほほ……」
「空いている手を握ってあげなよ」
屋敷を出ると即座に両脇を双子に挟まれて右手と左手が埋まる。寝るときも一緒に寝ようとするし可愛いんだけど困ることもある。
「うん! パパ、こっち!」
「ママはこっちのおてて!」
「ふふ、ありがとうね」
俺を中心に一列に並んで歩いていくのがおかしくてカーネリア母さんが笑う。
この幸せな家族になにも起こらないよう祈るばかりだ。
双子が町の人を魅了し、声をかけられ、時折立ち止まりつつ移動。
そして町を散歩している時にも見た立派な校庭のある学校に到着する。
「いっぱいいるー」
ルークの言う通り、入学式があるため親子連れがたくさん校庭に集まっていた。
この学校、身分は関係なしに年齢になれば誰でも入れ、なんと学費は殆どタダ同然らしい。
何故か?
国が学業に力を入れている結果なんだそうだ。各町に一つは必ずあるらしく、村から通いの子供も多いとか。
三年で詰め込み教育じゃなければいいけど。
それと問題点はもう一つ。
俺の通う学校は城のある城下町だけあって貴族のお子さんが多いとのこと。
ゼルガイド父さんの同僚の子が同い年らしいが、面倒なことにならないことを祈ろう。
「これはこれはゼルガイド殿」
「ん? おお、グノシスじゃないか。どうしたんだこんなところで?」
「私の子が入学でしてね、ゼルガイド殿は?」
「奇遇だな! 俺の子も今日から入学なんだ。アル、父さんの同僚で騎士団の二番隊副隊長のグノシスだ」
陰気そうな顔をした長髪の男が、オレンジの髪を揺らして俺を見る。となりには同じくオレンジの髪をしたふてぶてしい顔の子供が立っていた。
「初めまして、アルと言います。グノシス様ですね? よろしくお願いします」
「……ほう、さすが、躾が出来ていますね……。ほら、イワンお前も挨拶をしなさい」
「はい父上。イワン=ホエリールです。騎士団長になるため、頑張っています。よろしく」
「お、いいな。ウチのアルは俺の後を継ぐ気がないから羨ましいよ」
そう言って笑うゼルガイド父さんに、グノシスが薄ら笑いを浮かべながら言う。
「……確かその子は拾い子では? 双子が出来て良かったですねえ、家を乗っ取られないで済みましたか」
「おい、どういう意味だ。確かにアルは血がつながっていないが、そんな子じゃないぞ」
ああ、ゼグライド父さんをやっかんでいるタイプの人間か。
矮小な考えをするやつが言いそうなことだ。
親が親なら子も子か、イワンも俺を見ながらニヤニヤと笑っていた。
一触即発。
そんな空気を打ち破ったのは――
「はいはい、行くよゼル。悪いねグノシスさん、ウチのアルは優秀でさ、もし乗っ取られたとしてもアルなら仕方ないね」
「アルにいちゃは強いんだぞー」
「ぞー!」
双子も抗議の声を上げると、グノシスは目を細めてイワンを抱えると踵を返す。
「……まあ、優秀さは学校生活で分かるでしょうから。それでは」
「ふん。あんなことを考えていたのか、あいつは」
「まあまあ、言いたいやつには言わせておこうよ」
ゼルガイド父さんが口を尖らせているのを俺とカーネリア母さんが背中を撫でて落ち着かせる。
さて、少なくともアレよりは上だってことを知らしめないといけないかな?
そんなことを考えながら俺達は校門をくぐった。
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