189.『魔神』ギルディーラ
驚くべき殺気を放つ『魔神』……。
『英雄』と肩を並べる、いや、それ以上かもしれない魔人の中の英雄だとグラディスが語っていた。
その男が今、俺を肩車して町を闊歩している。
「居ないなあ。これで宿は最後?」
「そうだな。まさかライクベルンの使者とは思わなかったぞ」
「まあ、メインは将軍や騎士達だから俺はおまけだけどね。このまま城に連れて行ってもらってもいい?」
「構わないが……お前は俺が怖くないのか?」
ギルディーラが視線を俺に向けてそんなことを聞いてきたので俺は笑いながら口を開く。
「はは、背後に立たれた時はもの凄い気配だったけど慣れたら普通かなあ。魔人族にグラディスって知り合いもるし、角があっても気にならないよ」
「ほう……小さいのに肝が据わっているな」
「ギルディーラがでかすぎるんだよ」
「はっはっは! 違いない!」
なんかよく分からんがいい人そうだ。
強者だから横柄ってヤツも多いけど、ギルディーラは子供の俺を心配して助けてくれたわけでそれだけでも好感が持てる。
……ただ気になるのは、彼がこの国に雇われているということだ。
交渉次第では敵になる、そういう意味を持つというのも頭に置いておかなければならない。
逆に言えばギルディーラが居るから頑なに交渉を蹴っているのかもしれないというところまで考えたところで城が見えて来た。
「……」
「……アルフェンと言ったか? 成りは子供だが、お前は戦士なのだな。戦いになった場合、有利な地形を見ている」
「おっと、バレてたか。まあね、これでもそれなりに危ない橋を渡って来た。全部の能力を鍛え上げるためにやれることはやるんだよ」
「そこまでするということは倒したい敵がいる、ということか」
「そういうこと。黒い剣士で女、顔に傷があるって手掛かりはあるんだけど、この8年、情報が入ってきたことが無いんだ。なにか知らない?」
魔神ともなれば強者の噂を聞いたことがあるかもしれないと気軽に尋ねてみるが、ギルディーラは少し無言になったあとに言う。
「……いや、聞いたことがないな。そいつはなにをしたんだ?」
「俺の両親と使用人を殺したんだ。あいつを殺すために今の俺は生きている」
「ふむ……」
そこで会話は途切れ、ギルディーラは小高い丘の上にある城へ到着すると、イーデルンとオーフの二人の姿を発見する。
「おーい! オーフ!」
「あ? ……おお! アルフェンじゃねぇか! 無事だったか。ってかでけぇなおっさん」
「魔人族はそういうものだぞ、人族よ。こやつらが連れか」
「そうそう。ありがとうギルディーラ!」
「構わん、ここに戻るついでだ」
ギルディーラが俺を降ろし、イーデルン達を見据えていた。俺達をはかっているって感じがするけど、それはまあいいか。
「爺ちゃんとロレーナは? あ、ディカルトもいない?」
「お前を探しに町に出てるぜ。いきなりはぐれるとは恐れ入ったな! あっはっはっは!」
「いやいや、みんなが俺からはぐれたんだって」
「ひでぇ言い訳だなおい!?」
俺とオーフがじゃれあっているとイーデルンが渋い顔で俺に話しかけてくる。珍しいな?
「アルフェン、君のせいで城に入るのを止めていたんだ。そういう態度は良くないだろう?」
「ああ、確かにそうかも。すみません……とは言っても、誰かに伝えるとか、俺は子供だし話し合いだけなら抜きでもいけたんじゃ……?」
「アルベール殿が居なければ集まったことにならないだろう。探しに行かれては先に進めん」
いや、代表はイーデルンとオーフだし別に後から合流でいいと思うんだけど……?
戦力的に爺さんが居た方がとは思うのでびびってんだろうなあ。
こんなのが将軍で今後大丈夫かね? そう思っていると、眼下に爺さんとロレーナ、それとディカルトの姿が見えた。
「おーい! ごめん、はぐれちゃったよ」
「あ! アルフェン君がいる! アルベール様、良かったですね!」
「うむ」
「あだっ!?」
うむ、とか言いながら俺に拳骨を食らわす爺さんはしつけには厳しい。
まあ俺が悪かったのでここは頭を下げて置く。
「本当にごめん、心配をかけたよ」
「ここは他国だ、気を引き締めよアルフェン。む、そちらは?」
「ああ、『魔神』のギルディーラって人で、チンピラに絡まれていた俺を助けてくれてここまで連れて来てくれたんだ」
「なんと、それはご丁寧に。私はアルベールと申す。このアルフェンの祖父です」
「アルフェンに言われてしまったがギルディーラだ。構わん、たまたま通りかかったところだったからな」
二人が握手をした瞬間、お互いの眉がピクリと動き、お互いの技量を認識した様子が見受けられる。
「あんたは町で喧嘩しようとしていたのにねえ」
「ありゃ因縁つけてきたヤツが悪ぃんだって、ロレーナちゃん。……『魔神』ねえ、オレと手合わせしてくんねえかな」
ディカルトがアホなことを言いだし、俺達が呆れてため息を吐いていると、ギルディーラが目を細めて口を開く。
「……その機会はすぐにあるだろうな。国王に会うのだろう? ついてくるといい」
「……」
ここに来た理由を承知した上で『戦いになる』と示唆したか。ならやはり敵に回る可能性は高いな。
ま、とりあえず国王がどんな奴か顔を拝ませてもらうとしよう。
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