190.国王に見えぬ者

 「ギルディーラ殿……」

 「案内ご苦労、ここからは俺が連れて行こう」

 「し、しかし……いえ、よろしくお願いいたします」


 俺達をここまで案内してきたサンディラス国の兵士は頭を下げて道を譲り、困惑しながらも門番により鉄柵が開かれた

 門を抜け、ツィアル国の宮殿に近い造りをした城へ入る俺達。

 なんというかこういうのはエジプトとかにありそうだなみたいな感想を抱いていると、半そでのローブを着た男が駆け寄ってくる。


 「ギルディーラ様お戻りになられていましたか。……そちらは?」

 「客人だ。国王に会いたいそうだ」

 「は!? お言葉ですが、見る感じ他国の者……今の状況でそれは……」

 

 もっともだ。

 他国と喧嘩しようって時に王の許可なく連れ歩くのは常識で考えれば無理である。

 しかし、ギルディーラはローブの男の肩に手を置いて言う。


 「なにかあっても俺が守るから心配するな。それともなんだ? 俺の強さが信じられないか?」

 「い、いえ、そういうわけでは……」

 「ならいいだろう。俺の客でもあるのだ。国王との謁見を申し出てくれ」


 ギルディーラがにこりと笑顔を見せると、ローブの男は冷や汗をかきながら踵を返してこの場を去った。


 「なんだ? 折角笑顔で対応してやったのに」

 「怖すぎるよ、どう考えても煽っているんだけど」

 「なんだと……? おい、”死神”、お前の孫は恐れを知らないな」

 「はっはっは、私自慢の孫ですからな、ギルディーラ殿」

 「久しぶりに気概のある戦士を見たな」

 「精鋭ぞろいですよお父さん♪」

 「誰がお父さんだ」


 ロレーナに呆れた目を向けながら呟くギルディーラは、爺さん、オーフ、ロレーナ、ディカルトの順に目を向ける。

 気概のある戦士は彼等のことらしい。まあびくびくしていないし。


 ジャンクリィ王国の騎士や冒険者もまあまあだといった感じだが、イーデルン以下、ライクベルンの方には目もくれなかった。

 傍目には堂々しているイーデルン達だけど、分かる人には分かるんだな、やっぱ。


 そんな会話をしながら通路を進み、大きな扉の前まで案内される。

 そこでロレーナが今更なことを聞いてきた。


 「そういえばクリーガーちゃんも居ないのね?」

 「リンカと一緒に留守番してもらってるよ。婆ちゃんとリンカに預けとけば安心だからな」

 

 戦いになったら困るし、とはさすがにギルディーラの前では口にしない。それにこの暑さじゃまいっちまうだろうし連れて来なくて正解だったと思う。

 

 しばらく待っていると扉が開き、髭もじゃのおっさんが入るように促してきたので、ギルディーラの後を追う。


 赤いカーペットはお約束かと思いながら視線をなぞり、少し遠め見える玉座に合わさると、眼鏡をかけた優男っぽい人間が口元に笑みを浮かべて肘をついていた。

 ……見るからになんかありそうなヤツだと直感で思う。

 年の頃は30半ばから後半ってところか? 浅黒い肌がこの国の人間であることを物語る。

 俺達が中ほどまで進んだあたりで男が口を開いた。


 「おかえりギルディーラ殿。町の散歩はどうだったかな?」

 「まあまあ活気があって悪くない。後はチンピラの取り締まりを厚くしてもらいたいものだな。旅行してきた子供が因縁をつけられていたぞ」

 「くく、この国に旅行に来る方が悪いのさ。我ら砂塵族の領域に入ったのだから従ってもらわないと。君もその限りではないよギルディーラ殿?」


 国王……でいいのか? そういう雰囲気には見えない男がギルディーラに指を向けながらそんなことを口にする。

 すぐにそれはそれといった調子で俺達に目を向けて細い目をさらに細めた。


 「それで、ライクベルンとジャンクリィ王国の使者がサンディラス国王であるダーハルになんの用だい?」

 

 なるほど、俺達が決めている間に先に戻っていた奴が居たらしく、伝わっていたようだ。するとオーフが一歩前に出ると片膝をついて口を開く。


 「ジャンクリィ王国の代表、オーフと申します。お察しの通り使者として参った次第。我が国の陛下より書状を承っております、ご査収いただけますでしょうか?」

 

 すると慌ててイーデルンも前へ出て懐から書状を取り出した。


 「ライクベルンは一将軍、イーデルン=マイヤーです。こちらも同じく、確認をしていただきたい」

 

 冒険者のオーフに遅れているようじゃなあ……。

 とりあえず髭もじゃのおっさんが二人の手紙を回収して国王ダーハルに渡す。

 

 そのまま待機していると、ひとしきり目を通したダーハルがバッと手紙をまき散らして、笑う。


 「まあ、こんなものだろうね。残念だけど、答えはノー。国交は回復させないよ」


 その態度に俺達はピクリと眉を動かし、周りの兵士たちは困惑顔で様子を伺っている。


 「……そうですか。ライクベルンの町は砂塵族のせいで大変なことになっているのですがそちらについてはどうお考えかお聞かせいただきたい」

 「ア、アルベール殿」

 「イーデルン、一国の主が決めたことだ、そういうつもりなら仕方がない。だが、自国の領民が他国で迷惑をかけている状況は確認をとらねばならん」

 「む、むう……」


 爺さんが窘めるとイーデルンが呻く。

 まあ、自分とこはそれでいいかもしれないけど、言う通り迷惑をかけられている事実はあるんだよな。

 それについてどう返答してくるか? 返事を待っているとオーフが便乗して質問を投げかけた。


 「ジャンクリィ王国とのトンネルの件もある。あそこは今、そちら側の出口だけ封鎖されているが、こちら側も閉鎖させてもらいますよ? 攻め込まれたらたまりませんからね」

 

 暗に戦争はさせないと訴えているオーフ。

 ダーハルの答えは――

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