248.同じ者だからこそ


 「……っ! ここは!」

 『謁見の間のようだな。こう似たような寂れ具合では移動したかどうかわからないな』

 「いや、さっき居た場所に比べれば度合いが違うぞギルディーラ。クリスタルの柱はこんなにヒビが入っていなかった」

 『ここは確かに私の城だが……人が居なくなってから年月はかなり経っているな。灯りをつけてみろ、椅子もボロボロだ』

 「……だな。人が居なければこうなる、か。こっちのアルの声からすると何十年とこんな状態みたいだな。ツムギちゃんだっけ、足元に気をつけなよ」

 「あ、はい。ありがとうございます、オーフさん!」


 周囲を見渡しながら各自が慎重に警戒しながら口を開く。オーフは後で締めよう。

 それはともかくここが未来の別世界、か。

 簡単にとは言わないけどあっさり来れたものだ。


 『リンカ君を助けたらここに戻って来てくれ。その間に力を回復させておくから』

 「力? いや、分かった。よろしく頼む! まずは城を片っ端から調査だ」

 「手分けしていくか?」

 「こっちの『俺』がどれほどのものか分からないし、固まって動いた方がいいと思う。ここに来るまで結構な時間を費やしているから状況的に急ぐ必要もないはずだよ」


 俺が爺さんにそう告げると小さく頷いた。

 ここへ来るまでトータルで約二十五日かかっているのだ、もはや今更だろう。

 慌てるよりは全員で一気に攻撃をした方が確実性はあがる。

 リンカを殺すような真似はさすがにしないだろうし。


 ラヴィーネが内部に詳しいため、先頭に立ってもらい部屋をひとつずつ開けて行く。謁見の間は一階。で、この城はさっきも言ったように大きくないため探索自体はそれほどかからないはずだ。


 「……厨房に火が入っているな。生活感があるのは今のところここだけか」

 『地下牢という線は?』

 「ないと思う。俺ならリンカを傷つけるような真似はしないし、彼女が必要だったのなら丁重に扱うはず」

 「なら上へ行こうぜ。ラヴィーネ、寝室はどこだ?」

 『案内しよう。確かに男が女を手に入れたらやることはやるか』

 「……」


 恐らくだがその心配しなくてもいいと直感が告げる。

 素面ならリンカが『俺』以外に体を預けるようなことは無い。


 どちらかと言えば洗脳されたり身投げでもして死なれている場合が、怖い。


 ゆっくりと階段をあがっていると――


 (きゃあああああ――)


 「今のは!」

 「リンカだ! こっちか!!」

 

 無事だったことに安堵しつつ、俺達は声のした方向へ駆け出していく。

 悲鳴ということは洗脳されていたりも無さそうだ。

 二階の通路、右。その一つの部屋でドアが開いたままの場所があった。


 「リンカ!!」


 部屋に駆け込んで大声で叫ぶ俺。目の前の光景は――

 

 「嫌よ! いくらドラゴンの肉が美味しいからって鱗がついたままじゃない!? 私、トカゲや蛇みたいな鱗が苦手なの!!」

 「しかし栄養を取らないと元気な子を産むどころか、栄養が摂取れない。さあ、食べるんだリンカ……!」

 「い、いやあ……」


 ――ボロボロの服を着た……俺? に肉を食わされようとしているリンカだった。

 確かにあの肉はちょっと気持ち悪い。

 そこで俺達に気付いたリンカが涙目のままパッと表情を明るくする。


 「アル!! それにおじい様!!」

 「なんだと……!? ……お前達、どうやってここに……」

 「お前が調子に乗ってペラペラと語っていたからな。イルネースが手配してくれたんだよ」

 「……そうか『向こう側』のヤツは死んでいなかったな」

 「ふむ、確かにアルフェンが成長したら、という風貌だな。同一人物とは言え、そのリンカはこちら側の世界の人間。返してもらうぞ」

 「爺さんも居るのか。それに……ディカルトだっけ? お前がそっち側にいるとはなあ……。それにオーフ……懐かしい。あの時に庇ってくれたからこそ、俺はこうして生きている。ギルディーラは……よく知らないんだ、悪いな」

 

 爺さんとオーフを見て懐かしいと言うヤツだが、ギルディーラだけは知らないらしい。


 『どういうことだ?』

 「俺は水神騒動の時にサンディラス国へ行っていないからそもそも出会っていない。『ブック・オブ・アカシック』を通してそっちの『俺』からの情報のみだ」

 「なんで行かなかったんだ?」

 「リンカを置いて行くわけにはいかないだろう? なにかあったら大変だ。だからゴブリンロードとの戦いのとき、俺はリンカを連れて逃げた」

 「お前……」


 ゴブリンロードとの戦いではどさくさに紛れて逃げたらしい。その時にオーフが死んだ……。


 「自分勝手なふるまいを……!」

 「イルネースが自由に生きろと言った。だからその通りにしただけだ。……まさかここまで不遇が続くとは思わなかったがな」

 「最初は確かにそうだったが……あ、いや、ちょっと待て」


 そこで俺はふと『一番最初』の出来事に違和感を感じて思考する。こいつが『ブック・オブ・アカシック』を送り込んでラヴィーネが屋敷に来るように誘導した……。

 じゃあ『こいつ』の時に屋敷が襲われた理由はなんなんだ?


 「ああ、そのことな。なに、難しいことじゃない。『俺』は知っていると思うが、父さんは優秀な学者だっただろう? そいつが攫いに来たんだよ一家ごとな」

 『……私か』

 「そうだ。抵抗した俺達は攻撃され、辛くも逃げ出したのは俺とマイヤ。後はだいたい似たような流れだな。父さんがお前の子孫だってことを知らずに殺したのはお粗末だったと思うよ」

 『……』


 なるほど『ズレている』というのはすでに初めからおかしかったということか。

 ラヴィーネに関してはどういう結末を辿っても俺に倒されるようだが、恐らく死んだ時に解放されてはいないような気がする。

 

 結局、この世界が荒廃しているならそれは然るべきものだったというわけだ。

 それで俺に手を差し伸べ、リンカを奪うという計画は最後の心の拠り所だったのかもしれない。

 同じ状況になれば俺だってなにをするか分からない。復讐の為に人生を捨てた男だ、怖いものは無い。


 だからこそ、俺はこいつを倒さねばならない――


 「お前は多分、間違っていない。これまでの人生での助言は凄く助かった。……だけどリンカは渡せない。彼女はお前が欲したように俺だって失うわけにはいかない大事な人だからだ」

 「アル……」

 「ふん、まあ『俺』だからな。……ならば力づくで連れて行くのだな! 俺はお前達を殺して今度こそ幸せになるのだ!!」

 「いきなりエクスプロードか!? みんなやられるなよ!」

 「うむ……!!」


 ヤツの放った無詠唱のエクスプロードが戦闘開始の合図となった!!

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