193.裏切りの末路と裏切り

 一瞬の風切り音――


 それが爺さんの振った剣の音だと気づいた時にはイーデルンの首が飛んで――

 

 「……!?」

 「ああ!?」

 「あ、アルベール様……これは……」


 ――はおらず、イーデルンの襟にあった徽章が宙を舞い爺さんの手に収まった。


 「貴様の性根が腐っていたのはこの際、こうべを垂れたので許してやろう。戻ったら陛下に自分からここまでの経緯を告げるのだ、いいな? 副隊長としては使ってやれんが家族の為に一兵卒からやり直せ!」

 「は、はい……いいいいいい!?」

 「「……!?」」

 「はは、そうなるよな流石に」


 爺さんが徽章を掴んだ拳をイーデルンの顔面に叩きつけ、ヤツは一直線に吹き飛んで壁にぶつかり目を回して気絶した。

 一応、爺さんなりのケジメをつけたということだろう。俺は今日からイーデルンにネチネチと嫌味を言ってやるのでむしろこれから――


 「おいアルフェン、今の音はなんだ!?」

 「大丈夫!?」

 「喧嘩か! なあ!」


 衝撃が別の部屋にまで伝わっていたようでオーフとロレーナ、それとアホが部屋のドアを叩いて大声で叫んできたので、俺はとりあえず返しておく。


 「大丈夫だよ! ちょっと内輪もめがあっただけ」

 「マジか。……ああ、そういうことな」

 「なんかあったら教えてね!」

 「チッ、こうなんもねえと面白くねえな……折角敵地に来たってのによ」

 「ディカルトは置いて帰ろう」

 「そりゃねえよロレーナちゃん」


 そんな会話をしながら部屋を遠ざかっていき、俺はイーデルンに回復魔法をかけてからベッドに放り投げて、その日は寝る……つもりだったが――


 「……アルベール殿はここか?」

 「む……その声、ギルディーラ殿? 早速ワシらを始末しに来たか?」

 

 昼間に聞いた渋い声が扉越しに聞こえて俺達はすぐに構えて扉の方を見る。

 すると、ギルディーラは特に襲撃して来るわけでもなく話を続けてきた。

 

 「そのままで構わん。伝えたいことがあって来た。間違いなく戦争は開始されるだろう、追撃命令も出ている」

 「それをわざわざ……?」

 「明日には追撃隊が出るし、俺も出るだろう。国の一大事ということになれば雇われている限り出撃しないわけにはいかないからな」


 雇われ……ずっとそんなことを言ってるが、それはやめればカタがつくのでは?

 そう思い、俺は扉の近くまで行って質問を投げる。


 「嫌ならやめればいいんじゃないのか? 『魔神』なら止められないだろ」

 「アルフェンか。……それについての話も含まれるんだ、ここに来た理由はな」

 「どういうことだ?


 爺さんの言葉で少し沈黙した後、ギルディーラが話し始めたことは裏切りとも言えるような話だった。

 ギルディーラは昔この国に立ち寄ったことがあり、先代の王とは顔見知りの間柄らしい。で、久しぶりに来てみたら息子に代替わり。

 10年位前の話なので退位には早いと思い、探ってみるとどうやら今の国王ダーハルがどこかへ追放してしまったとのこと。

 投獄したとかそういうものではなく、本当にどこへ行ったか分からないらしい。そこで真実を確かめるために留まっているそうだ。


 「なんでそんなことを俺達に?」

 「勝手な話で申し訳ないが先王を探してくれないだろうか? アルベール殿とアルフェンは騎士でないと聞いた。サポートはつける。俺は簡単に動けないからな。報酬も俺があちこちで手に入れた宝を出す」


 と、ギルディーラは最後に交渉を持ちかけてきた。爺さんに視線を合わせると難しい顔で顎に手を当てていた。

 多分『嘘か本当か』がこの時点で不明なのが引っかかるのだろう。

 本当であれば戦争を回避するきっかけの一つになり、『魔神』と戦うのも避けられる。

 だが、嘘であれば爺さんをこの国に置いて戦争を有利に進める、ということも考えられるからだ。


 「……どうする?」

 「難しいな。確かにワシは一般人だが、この後どうなるか分からん。しかし、こやつが嘘をついているとは思えん」


 小声でイーデルンを見ながら先ほどの将軍に戻る話があったのでここに留まるのは難しい。オーフ達はジャンクリィの方なので頼るのもなあと思う。

 ただ、一つ提案できることがあったので俺はそれを口にする。


 「爺ちゃん、俺とディカルトを残してくれるかい? そしたら先王を探すのはこっちで爺ちゃんは将軍に戻って牽制をすればいい」

 「……!? 馬鹿な、ようやく帰ってきたというのにまた離れろというのか!」

 「俺ももうすぐ成人になるくらいの歳だし、なんとかなるよ。そこまで弱いつもりもないし、ディカルトもアホだけど強さはそれなりにある」

 「むう……」

 「リンカと婆ちゃんを守って欲しいし、できれば戦争は回避したい」


 そう口にすると、爺さんは口をへの字をしたまま腕を組み、天井をあおいで考え込んだ後、


 「……任せていいかアルフェン? お前ならその辺の冒険者よりよほど強い。生き延びる力もあるし、な」

 「オッケー、言い出しっぺは俺だ。任せてよ」

 

 俺は指を鳴らして笑うと、ギルディーラへその提案を飲むことを伝える。

 もうひとつ、探す手段がないわけでもないしな。


 「俺が残って先代の王を探す。それでいいか?」

 「お前が残るか。いや、子供なら警戒もされにくい、よろしく頼む。すまないが、今後の話をしたい。明日、指定の場所に来てもらえるか?」

 「ああ。こっちからは俺ともう一人が行く予定だ」


 ギルディーラは扉を開けることなく、扉の下にスッと紙を部屋に入れた後、その場を立ち去る足音が聞こえてきた。

 さて……オーガ出るかデビルが出るかってな。


 「ではワシは全力で国を守ろう」

 「頼むよ。……リンカには上手く言っておいてよ」

 「うむ。……婆さんとリンカには怒られそうだ……」


 俺達がため息を吐いているとイーデルン配下の騎士が口を開く。黙って固唾を飲んでいたが、さすがに大騒動だと思ったようだ。


 「だ、大丈夫なのですか? 信用できるとは思えませんが……」

 「先王はすでに殺されている、とか?」

 「それは調査次第だと思うよ、ギルディーラが嘘を言っているというよりダーハルの方が嘘をついている可能性が高い。そこを確信させるため頼んだ、と考えている」


 騎士達は納得のいっていない顔をしているが、半々ってところなのでこんなものだろう。


 それじゃ、早速『ブック・オブ・アカシック』に聞いてみるとするかね? 

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