192.苛立ちのアルフェン
あまりいい気分ではない夕食を終えた俺達一行は宿に戻って今後のことを考えていた。
まあ、正直ここからは国同士の話になるので俺が考えることは殆どないんだが戦争ともなればリンカや婆さんも危ない目に合う可能性があるため、屋敷の防衛はこれまで以上に考えないといけないかもと思っている。
「爺ちゃん、帰ったら町の防衛を厚くした方がいいんじゃない?」
「そうだな、黒い剣士も探さねばならんというのに問題が出てくるとは困ったものだ」
目標の前に立ちはだかる面倒ごとに俺と爺さんがため息を吐いていると、部屋に訪問していたイーデルンがおずおずとした感じで言う。
ちなみにライクベルンの騎士達は全員ここに居たりするのだが。
「……アルベール殿はあの『魔神』に勝てますか?」
「一対一で、という意味なら無理だろうな。英雄クラスが相手となればワシだけでは到底無理だ。ワシのランクは96。かの英雄にあと一歩というところだが、今の時代の英雄がダブルランクで終わっているとは思えんよ」
昔から聞いているラヴィーネ=アレルタも生きていればトリプルランク、すなわち3桁であってもおかしくないと爺さんは言う。
なのでギルディーラが100以上の強さがあってもおかしくないってことみたいだ。
さらに戦争ともなれば乱戦になり、強者がギルディーラと相対する前に壊滅する未来もあると爺さんが告げて騎士達が身を震わせていた。
「それでも、戦いになれば相手を倒さねばならん。国を守るとはそういうことだ。ただの平民より給金が多く、甘い汁を吸えるには理由があるということぞ」
「う……」
「ま、我が領地に来た敵は処理する。陛下をしっかりとお守りするのだ」
「こっちはこっちで手いっぱいだしね」
酒をあおりながらイーデルン達へそう告げると、驚いた顔で俺達へ声を上げる。
「アルベール殿は参加なさらないと……!?」
「今のワシは将軍でもなんでもない。たまたま腕が治っただけで、本来は居ない者だからな。孫と妻、それと町の防衛に尽力する必要があるわい」
「ご、ご冗談を……あなたが居なければ『魔神』に対抗できるものが居な――」
「全員で死ぬ気でかかるしかあるまい。こういう時の将軍と騎士であろうが!!」
「「は、はひ!」」
爺さんの怒声が部屋に響き、ガラス窓が震えていた。そりゃ騎士達で頑張んないとなんのための騎士団だって話だよな。
いい機会だと思い俺は収納魔法からマチェットを取り出して肩に乗せて口を開いた。
「だいたい、イーデルンが爺ちゃんに罠をかけたりしなきゃ良かったんだろ? その将軍の座が欲しくてやらかしたんだ。それでも陛下のために、という騎士の精神は持っているんだろ? なら戦えよ」
「アルフェン……」
爺さんが困ったヤツだと苦笑しながら椅子から立ち、俺の頭に手を乗せる。こいつらの勝手が面白くないし、たとえここでこいつらに襲われたとしても返り討ちもできるという判断だ。
案の定、青い顔で冷や汗を流すイーデルンと取り巻きの騎士。ディカルトがここに居たらさぞ大笑いしただろうなと考えていると――
「ご、ご存知、だったのですか……」
「うむ。アルフェンの持つ『ブック・オブ・アカシック』で知った」
「いつ、から……?」
「こいつが帰って来てすぐだ。陛下と謁見した際にはすでに知っておったよ。……ワシを疎ましく思っていたようだが、それについて言及する気はない。ワシの不徳の致すところだからな」
「……」
「黙っていたのはアルフェンの意見もあっていまさらお前を糾弾しても、ということで口にはしなかっただけだ」
「だけど口を開けば爺ちゃん頼みで、腰抜けみたいな発言ばっかりでうんざりだよ。とりあえず自分で蒔いた種なんだから自分で刈り取りなよ?」
「う……ぐ……」
慈悲で見逃されているだけだという現実を突きつけてやり、冷ややかに言ってやるとイーデルン達は言葉を詰まらせて黙り込む。
まあ、いざとなれば爺さんは陛下を守るために動くと思うけどこいつらには思い知らせてやる必要があると思ったので告げてやったのだ。
「とりあえず明日から危険があるんだ、さっさと寝よう爺ちゃん」
「そうだな。警戒を怠るなよ、お前達。戦争の前に命を落とすぞ」
爺さんがもうぬるくなっていたであろう酒を一気に飲み干してからそういうと、青い顔をしたイーデルンが椅子から転がり落ちるようにして床に膝をついて土下座を決めた。
「も、申し訳ありませんでした! 全てを知った上で私を見逃してくれていたなど露知らず……アルベール様、私が間違っていました。将軍に復帰してもらえないでしょうか!」
「どういう風の吹き回しだ? お前はその地位が欲しかったのではないか? ランクは少し低いかもしれんが、決して他の将軍に劣ってもいない」
「ありがたきお言葉……。最初はおっしゃる通り、アルベール様を失脚させることで優位に立ったと思い浮足立っておりました。しかし――」
しかし、小賢しい手を使って成り上がった自分には荷が重いと、この期に及んで気が付いたという。
陛下の為に死ぬことは怖くない。が、戦術・戦闘力・思考に至るすべてにおいて、ここに来るまでの爺さんに勝てることが無かったと吐露していた。
慣れるより慣れろとはよく言うが、副隊長として爺さんの下についていた時になにを学んでいたのか? ということなり、俺は呆れていた。
……結局のところ嫉妬の方が勝っていて何一つ学ぼうとしない。俺にだってできると思い込んでいた結果なのだろう。
「私には家族もおりませんし、この命を差し上げても良い所存。陛下だけはお守りせねば……そのためにはアルベール様の力が必要なのです……どうか……」
直後、その場に居た騎士が頭を下げる。
イーデルンに甘い汁を吸わせてもらっていたのだろうが、ここで主人の心が折れたのなら死ぬより従った方がいいと考えたか?
「ふむ……その言葉に嘘はないな?」
「は、はい……。……!?」
イーデルンが頭を上げると、そこには剣を抜いた爺さんが立っていた――
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