173.裏の話
爺さんが居ることで安全だと騎士達を下げた陛下……ではなく、俺達に話があったようで、特に機密性の高い部屋と案内された。
王妃様は参加しないけどお茶は用意してくれるようだ。それにしても一体どうしたんだろうな?
全員が着席したところで陛下が俺達の顔を見渡してから口を開く。表情は……少し厳しい。
「……まずはアルベール、アルフェンの件と腕、両方とも戻って来たことを喜ぼう。良かったな、アルフェンも苦労をしたようだし無事でなによりだ」
「ハッ、勿体ないお言葉でございます」
「ありがとうございます」
俺と爺さんは椅子から立ち上がって頭を下げる。陛下は手で座るように示唆した後、話を続ける。
「うむ。さて、堅苦しいのも疲れるから砕けて話すが、ロレーナと言ったな、あの内容は本当なんだな?」
「はい。ジャンクリィ王国では魔物が大量発生し、討伐隊を組みました。そこでゴブリンロードと戦闘を行い、そこに居るアルフェン君のおかげで倒すことができました」
「結果として魔物はゴブリンロードが操っていた、ということだがそのゴブリンロードが現れたのがいつなのかハッキリしないわけか」
「そうですねえ。リンカちゃんの国にもちょっかい出していたわけですし」
「え? え?」
「ちょっと待ってロレーナ。手紙はいったいなにが書いてあったんだ?」
俺が問うとロレーナはこちらに視線を向けて語り出した。
その内容は意外なもので、俺達が参戦した行軍以前から調査していたことからこの前の結果までを綴っていたそうである。
やはりというか懸念点はゴブリンロードなのだが、双方を潰させようとしていたという点が気になるらしい。
誤解は解けたが『ゴブリンロードがそこまで知恵を回したのか?』という意見を有識者の8割の人間が『あり得ない』と口にしたから。
で、なんでこれをライクベルンの国王へ伝えたのか?
それは、こちら側の人間に疑いを持っているからとのこと。要するに、攻め入る隙を作ろうとしたんじゃないかと。
「私の目が届いていない可能性があるとは思いたくはないが、こちらでも調べてみるとしよう」
「お願いします。ジャンクリィの王は陛下を疑ってはおりませんが、暴走する者がいては困るから情報として持っていて欲しいという意味合いだそうです」
「分かった。他に変わったことは無いか?」
「ディカルトという――」
「いや、大丈夫です。なにか協力できることがあれば遠慮なく申し付けてください」
ロレーナがディカルトのことを口にしようとしたのを遮って目配せをする。すぐに察してくれたのか口を閉じてくれた。
あれから顔を出して来ないし襲っても来ていない。上司のイーデルンも俺と爺さんを見てあの焦りようだし、今は置いておこう。
陛下が爺さんと懇意でなければ糾弾していただろうけど、国のトップである陛下に事情を説明しておくことほど抑止力になることも無いんじゃないかな?
とりあえず国同士のやりとりは承知したということで今度は陛下から書状を出すとのことで、ロレーナが再び持って行くことになりそうだとのこと。
そこで硬い話は終わりとばかりに陛下が苦笑しながら俺に目を向けて話し出す。
「それにしてもゴブリンロード討伐か。死神の孫はやはりというところか? いやそれより12歳でシェリシンダ王国の国王候補で秘術を使えるとは」
「ははは、さすがにワシも驚きましたわい。しかし失った腕はこの通り元通りですからな」
「ゴブリンロードは私とロレーナさんも倒すのを見たので間違いないです」
「そうかシェリシンダ王国の未来は明るいな、羨ましい限りだ。こうなるとあそこをなんとかする必要があるかな……」
「あそこ?」
顎に手を当ててなにかを考える陛下に尋ねてみるが、手を振りながら言う。
「ああ、こっちの話だ。それより敵討ちは本当にやるつもりか? 婚約しているんだ、危険なことはやるべきではないと思うんだが……」
「……お気持ちは嬉しいです。だけど、あの連中が生きているということは他にも犠牲が出る可能性も高いんです。人をあっさり殺す悪魔のような連中をのさばらせておくのは見て見ぬふりをするようで嫌です」
「……!」
「ん? どうしたリンカ?」
「い、いえ、なんでもないわ」
リンカが驚いた顔で俺を見ていたが、やっぱり幸せに暮らせそうなのに復讐に向かうのは変だろうからな……。
ま、前世の記憶が残っているからこうなのだ、恨むならイルネースあたりに文句を言って欲しいものだ。
「む、むう……ハッキリ言う。そこはやはりアルベールの孫か……アルフェンはいつ発つのだ?」
「それなのですが、ワシも一緒に町へ移住しようかと考えていましてな」
「爺ちゃん?」
「騎士団に復帰はしませんが、アルフェンを探すという目的も達されました。後はこの子と一緒に過ごせればと考えております」
……どうやら王都の家は引き払って使用人と一緒に引っ越すつもりらしい。
「婆ちゃんとリンカはどうするのさ? 戦いに巻き込むかもしれないよ」
「ふん、そこはワシの妻じゃ。わかっておるわい。それに町の人間に危険が及ぶのも確実。だからお前だけの問題でもないのじゃぞ?」
「あ」
そこが一番の問題だと爺さんは口をへの字にして片目を瞑る。
なにかあれば遊撃ができ、かつこの国で最強を誇る爺さんなら、ということか。
「リンカはお前が守れ。それで良かろう」
「わ、私も戦えますから! それに、成人したら旅に出ますし……」
「ま、そこはおいおいだな。スチュアートあたりが来てくれると助かるんじゃが」
「ふむ、あまり動かせんが騎士を回せるよう手配してみるか。ここで恩を売っておけば、シェリシンダの特産品の交易ができるかもしれんしな?」
「はは……」
くくく、と笑う陛下は冗談なのか本気なのか分からない口調で言う。
俺も愛想笑いで返し、あえて返事はしなかった。
そんな話し合いの末、俺達は城を後にする。
ちょっと驚いたが、爺さんが来てくれるのは心強いのは間違いない。
「それじゃ引っ越し準備か」
「まあ、ワシらは大して物を持っておらんからすぐだな。すまぬなリンカ、来たばかりなのに」
「い、いえ、むしろ置いていただけるだけでもいいですから」
「?」
さっきから俺のことをチラチラと見てくるなあ。なんかしたっけ?
それはそうとずっと静かなロレーナが気になり目を向けると――
「あー……」
「お、おい、大丈夫か!?」
「き、緊迫した空気を……吸い過ぎた……」
虚ろな目をしたロレーナが膝から崩れ落ちた。
なんなんだ一体……。
……さて、問題は多いがこれからの生活が楽しみだな。早く片付けばエリベールのところへ戻れるけど、ことはそう簡単じゃない。
折角だ、爺さんに稽古をつけてもらうかな?
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