172.謁見
「では、行くとしようか」
「うん。リンカも行く必要あるのか?」
「まあ、どっちでもいいと思うけどね。リンカちゃんは『冒険者』としてわたし達と依頼を受けたって話にしているから、居た方がいいかな?」
「もちろん行きます! 皆さんのお世話になってばかりですから!」
あんまり気にしなくてもいいんだけど、リンカは決意の表情で拳を作っていた。
そんなやりとりをしながら俺達は準備を終えて馬車へと乗り込む。
俺がもらった馬は厩舎で生活するようになっているけど、幼少期に過ごした町へ戻る時には連れて行こうと思う。
「懐かしいな」
馬車から眺める風景は子どものころに見たそのままなので、父さんや母さん達と一緒に登城した時のことを思い出す。
爺さんは俺の呟くには特に何も言わず腕を組んだまま目を瞑っていた。
ちなみに再生した腕は良好のようで、朝っぱらから剣の振っていたよ。
そして城へ到着し、爺さんが謁見の申し入れを行うため執政官へ話をしにいくと、馬車から降りてすぐに俺達を連れ城内へ。
「ア、アルベール様ではありませんか! そ、それにその腕は……」
「治ったわい! 陛下にお目通りを願いたいが本日はどうか?」
「も、問題ないかと。え、えらいこっちゃ……!」
執政官が爺さんの腕を見て目を丸くしながら取り付けに走っていく。
うーむ、先に治療したのは迂闊だったか? 詰め寄られる姿が目に浮かぶ……。
まあ、この力も含めて知らしめておけば牽制になるか。
特にイーデルンが黒幕で爺さんの腕を奪ったのであれば、動揺は隠せまい。
俺達はヤツを泳がせることにしたけど、少しでも心労を患ってほしいものだ。
「腕がなるわね……」
「ただの謁見だから変なことを言うの止めてくれよ?」
「そうだぞロレーナさん、王様の前ではきちんと挨拶をするんだ」
「あ、厳格モードになったのねリンカちゃん」
「と、当然です。他国の王様なのですから」
「あの、よろしいですか?」
「問題ないぞ、ほらゆくぞ」
「あ、はい!」
「……おっと」
爺さんに促されて謁見の間に入ると、両脇に騎士が数十人が並んでいて奥には陛下と王妃様が並んで座っていた。
俺達は中央まで進んでから全員で膝をついて礼をすると、陛下が口火を切ってくれる。
「久しぶりだなアルベール! 隠居生活はお前には似合わんがどうなんだ?」
「ふふ、陛下もお元気そうで。しかし今日はいくつか報告がありましてな。まずはこの娘の話を聞いていただきたい」
「ふむ、良いぞ」
「初めまして。わたしはジャンクリィ王国の王からの使者としてやってきたロレーナと言います。書状と親交の品をお受け取りいただく参りました」
おお、きちんと言えている。
いつものお茶らけた雰囲気とは大違いだと感心するなか、小さいころ見たことがある宰相さんがロレーナから手紙を受け取り陛下へと渡す。
「ふむ、ジャンクリィ王国のファリア王とも長らく会っておらんな……ほう、なるほどな……あい分かった。私の好きなフルーツもあるようだし、いただくとしよう」
「ありがとうございます。王もお喜びになるかと思います」
……? それだけなのか? 陛下とロレーナは笑顔で言葉を交わし、彼女はさっと後ろに下がった。
するとすぐに陛下が爺さんと俺に目を向けて言う。
「さて……言いたいことがたくさんある状況だが、ひとつずつ聞かせてもらおうか。そこの少年はアルフェンか?」
「はい、小さいころお会いしたことがありました。お久しぶりです」
「まあ! では見つかったんですのね! 無事どころか立派になって……」
「おかげさまで、なんとかこの地へ戻ってくることができました」
王妃様が手を合わせて喜んでくれ、俺はほっこりした気持ちになる。二人のお子さんは俺より少し大きいけどほとんど変わらないので、同情をしてくれているのだろう。
微笑みながら小さく頷いている陛下は続いて爺さんへと質問を投げかけた。
「……で、その……お前の腕は本物?」
そこはやっぱり気になるよな。周りの騎士達も無言で『よく聞いてくれた!』って感じでこちらに目を向けている。
「ふっふっふ、これですかな? もちろん本物ですぞ」
「いや、え? どうして治っているんだ?」
「それは――」
と、そこから俺の今までを伝えることになった。
イークベルン王国で暮らしていたり、ツィアル国のことだな。流石に直近で二回も同じ話をすると疲れるが、大事なことなので仕方がない。
王妃は涙ながらに、陛下は神妙な顔で聞き入り、騎士達は動揺を見せていた。
将軍クラスも居て、もちろんイーデルンの姿もある。
仕事があるので全員ではないが、爺さん以外のメンツは変わっていないっぽいかな?
とりあえず全てを話し終え、最後に――
「僕はシェリシンダ王国のエリベール姫と婚約をしています。なにかあればそちらにも連絡をお願いしたいです」
「窮地を救った英雄みたいなものだからそれくらいはあるだろうな。うむ、無事にライクベルンへ戻ったと私からも手紙を出すから、アルフェンも書いてくれ。
皆の者、聞いたな? 貴重な能力を持った上に王候補だそうだ、対応は相応にな」
「「ハッ!」」
「まだ完全に決まった訳じゃないですから、いつも通りで構いません。僕はやることがあるので」
「やること?」
「はい、両親を殺した犯人、その者を討伐することです」
「……ふむ。きっかけになった話に戻るのか、難儀なものだな……分かった。こちらでも情報を集めよう。アルベールが戦えば黒い剣士とやらも倒せるだろう。
それより、アルベールは将軍には戻らないのか?」
「ええ、今は孫と黒い剣士を倒すことに尽力したいと考えておりますので」
「……残念だが、仕方ないか。ようやく戻って来た孫と過ごしたいのもあろう。さて、では我々はこのままお茶会へ移行したい。騎士達は仕事に戻ってよいぞ」
「かしこまりました。アルベール殿、また稽古をつけていただきたい」
「はっはっは、またな」
騎士達は爺さんに握手をしながら笑顔で良かったと謁見の間を出て行くが、イーデルンの番では――
「久しぶりだなイーデルン。しっかりやっておるか?」
「え、ええ……もちろん! アルベール殿の後釜、苦しくもありますがなんとかやれていますよ」
「そうか、これからも精進するのだぞ?」
「……ありがとう、ございます……」
そういって頭を下げてから謁見の間を出て行くが、ずっと顔が引きつっていたことを本人は気づいているのだろうか?
そして俺達は陛下とのお茶会へ――
◆ ◇ ◆
「なんだ……一体どういうことなんだ? あのガキが腕を再生させただと? 確かに神の魔法‟ベルクリフ”ならあり得なくはないが、素養があったとでもいうのか?
それにシェリシンダ王国の姫と婚約者……反逆者と言ったが、撤回して正解、か。ディカルトに礼を言うのは癪だが助かった。
それにアルベールも将軍に戻るつもりがないなら、しばらく静観するとしよう――」
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