243.久我 和人


 「俺だと……!? どういうことだ!」

 『そうだな、どこから話すべきか――』

 「声……これはお前が喋っているのか? ……本じゃなかったのか?」


 視線だけでリンカを探しつつ俺だと名乗る『ブック・オブ・アカシック』に尋ねていると悲鳴を聞きつけた人達が集まって来た。


 「さっきの悲鳴はここからか! アル、どうした!」

 「それは『ブック・オブ・アカシック』か? 持ってきていたのか」

 「いや、そうじゃないんだ。俺もなにがなんだか……」

 「アル、リンカはどこへ行ったんです?」

 

 父さんやエリベールが矢継ぎ早に質問してくるが俺にもどういうことなのか分からない。そしてリンカの姿も気配も無いと焦っていると再度声が響く。


 『ああ、懐かしいなゼルガイド父さんにエリベール。ラッドに爺ちゃん、カーネリア母さんも居るな。オーフも生きている……そっちの褐色の娘は知らんが』

 「どこから声が……」

 「なにおう……!!」

 「よせダーハル。お前は本当に俺なのか?」

 『そうだな。俺の目標のために動いてくれたお前達には本当に感謝しているよ、おかげでリンカを再びこの手に掴むことができた』


 『俺』の声はわずかに歓喜を含むながらそんなことを口にする。リンカが目的だったというがもし俺の別世界の存在なら――


 「お前は別の世界の俺、なのか?」

 『流石は俺、察しが早くて助かる。その通り、並行世界とでもいうのかな? そこからアクセスしている』

 「……リンカはどこだ」

 『こちら側に引き入れた』

 「どうしてだ? そっちにはリンカは居ないのか?」


 俺が問うと『俺』はゆっくりと真相を語りだす――


 『俺は間違いなくアルフェン=ゼグライトであり久我 和人だ。そして、そこにいる面々は先ほどの言葉通り『懐かしい』と思えるくらいには似たような世界だった。ただ、こちら側には『ブック・オブ・アカシック』は無く、未来は読めなかった』

 「なんだと……? いや、そういうことか。だから俺が尋ねた時に『予言が合わずズレている』とか言っていたのか」

 『ご名答』

 

 やはりか……おかしいと思った時期はある。

 だけど不利になることは無かったので不信感はあれど味方だと思っていた。だが、そうだとしたら俺はずっと踊らされていたことに、なる。


 「アルフェン、これはどういうことじゃ……?」

 「爺ちゃん、この本は……別世界、しかも今からさらに未来に存在する俺が作ったものらしい。そして、今まで予言してきたことは恐らく『俺』が体験してきたことを綴っていたものだと思う」

 「別世界!? そんなことが本当にあるの!?」

 『ああ、それがあるんだよロレーナ。いや、若いな。ははは、懐かしいよ。……話が逸れたが、俺の世界の状況を話しておこうか』


 『俺』こと久我 和人は死んだあと、例によってイルネースにより異世界へ送られ、黒い剣士が襲撃してくるところまでは同じだった。


 違った点はカーネリア母さんに拾われ、イークンベル王国から少しずつ変わっていて、フォーゲンバーグ家で暮らしたが、復讐の鬼と化していた『俺』は両親と双子にそこまで慣れあうことは無かったようだ。

 生誕祭の襲撃の際、ルーナもエリベールも助けることはできたが導きは無かったためルーナは重傷を負った。


 そして歯車が崩れだす。


 ルーナは程なくして怪我の後遺症で死亡、4歳の誕生日を迎えることはできず【呪い】についても知識がないためエリベールも程なくして命を落とした。

 責められはしなかったがルーナを助けられなかったことに申し訳なさを感じて『俺』はフォーゲンバーグ家を後にすることに。


 その後に誘拐されたところは同じだが、到着したツィアル国はエルフの手により掌握され魔人族との戦争になる。

 結果的に首謀者のエルフであるカーラン倒すことにはなるが、両者の溝は深いものとなったらしい。


 マイヤを見つけて覚えていないことに苛立ちを覚えてそのまま出立。

 獣人兄弟を樽から見つけて港町でオーフ達に引き渡す。

 黒い剣士の手掛かりを掴むため、オーフの依頼を引き受けたもののゴブリンロードとの戦いでオーフは死亡。

 なぜか? 一緒にいたリンカを優先したことと、ルーナが死んでから父さんが稽古をつけてくれなくなったため修行不足によるところが大きい。

 それはそうだ、実の娘でなく他人の俺が生き残ったため葛藤が芽生えたから以前のように接してもらえるはずはない。

 【破壊の右腕パズス】でゴブリンロードを倒したがもっと早く使っていればとロレーナに責められた。


 リンカと二人でライクベルンへ戻り、爺さんの腕を治療。

 途中で邪魔をしてきたディカルトは襲ってきた時点で殺した。


 しばらくは平和に暮らせていたがサンディラス国の侵攻を止めるため爺さん達が現場へ行き『俺』は屋敷に残った。

 もう大事な人を失いたくないからとリンカだけは守るために常に寄り添った。


 ……しかし、それも長くは続かず――


 『サンディラス国との戦いを終えてすぐにラヴィーネがライクベルンへ攻めてきた。『ブック・オブ・アカシック』が無い世界だ、人間を亡ぼすために容赦はしないまま。今のお前と同じくらいの時期だったかな? ライクベルン各地がラヴィーネから作られる異形の兵に襲われた。もちろん俺達は戦ったが、ラヴィーネが屋敷に来た時に……リンカが殺された』

 「……」

 『俺が【破壊の右腕パズス】を使うより早くリンカの胸は抉られていたよ。回復魔法で治せないくらいにな。で、結果的にラヴィーネを殺すことはできた。だが、ライクベルンは滅茶苦茶になった。俺が子孫だとは知られなかったが、それを知ったのも後からだった。俺がラヴィーネがいた国に辿り着いたのは運命だったのかもしれない』


 そして……リンカの亡骸を持って『俺』は北の国で過ごしていると告げ、ついに悪魔の計画を語りだす。

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