223.ライクベルンへ
「……」
「さて、どうなっているのかねえ……」
ディカルトが呟き、ガタガタと箱が震える。
移動は馬車で、御者はオーフとロレーナのジャンクリィ王国コンビだ。
後、姿を見せているのはフォーゲンバーグ一家で、ライクベルン組は姿を隠す形となっている。
他国の人間なら通してくれる、というのもあるがそもそも国境はどうなっているかが分からないので念のためってところである。
「おっと、懐かしいとこまで来たぞ。気配を消しておけ」
どうやら国境付近に近づいたようでオーフが小声で警戒するよう指示してきた。
ちなみに双子が静かなのは母さんと一緒にラクダのペロに乗っているからである。
戦闘になるならまずは俺達がやり合うのが早いしな。
そんなことを考えていると会話が聞こえてきた。
「お勤めご苦労様です。ライクベルンへ行きたいんですが」
「ああ、構わないよ。旅行かい?」
「そんなところです。俺達は旅行を生業としている兄妹なんですが、サンディラス国とジャンクリィ王国は回ったんで、次はライクベルンへってところですぜ」
「なるほど、だから見慣れない動物が……」
俺と爺さんが蓋を少し開けて前を見る。
国境にはライクベルンの兵装をした男が応対しているが――
「……知らん顔だな。ワシはほぼ全員の顔は覚えておるが、こいつと奥のヤツは知らんな」
「すり替わっているのか……。それでも普通に接しているのが不気味だな」
『確かに。あくまでも平静を装う理由はなんだ……?』
ギルディーラが妙だとばかりに口を開く。
まあ、こいつらが国境を守ってくれるならいいけど――
「それじゃ、通らせてもらうぜ?」
「王都は今、閉鎖されているから行く理由は無いと思うぞ?」
「ほう、どうしてだ?」
「それは……ぎゃああああ!?」
「お前らが占拠しているからだな!」
俺と爺さんが後部から踊り出て、偽の兵士を切り裂く。
叫び声に反応したのか、詰所からさらに兵が出てくるが、
「全員知らん顔だ。殺しても構わん」
「な、なんだお前達、ライクベルンを敵に回す気か!?」
「それを言ったらこっちはライクベルンの将軍がいるんだけどな? 爺ちゃんの顔を知らないヤツがライクベルンを語るとは笑わせる……!!」
「貴様等……『ブック・オブ・アカシック』の――」
一時場が騒然としたが、爺さんと俺があっという間に片づけ、すぐに拘束する。攻撃が無いと確信したところで詰所へ駆けこむと本物の兵士たちが拘束されていた。
占拠されたのはおよそ15日前。随分と衰弱しているようだった。
「しっかりしろ」
「う、うう……ア、アルベール様? これは奇跡か……」
「ご飯を食べていないみたいだね、すぐに用意するよ。水はゆっくり飲ませてね」
「合点承知!」
「「承知!」」
「双子に良くないからロレーナは少し静かにして欲しいな」
「なんでよ!?」
◆ ◇ ◆
ひとまず事態を収拾した俺達は詰所にて話を聞くが、いきなり強襲されたようで確保されたのはあっという間だったらしい。
「お恥ずかしい限りですが、夜中にやられました。まさか王都も乗っ取られているとは……」
「こいつらは戦力としては強力だから仕方あるまい。しかし、なぜ殺さなかった?」
爺さんが片膝をついて黒い剣士の一味に尋ねるが、無言で素知らぬ顔をするばかり。
「子供たちを連れて外へ行っていただけるか?」
「ええ、分かりましたよ。アル、ルーナ、ルークおいで」
「俺も?」
「じゃないと双子がついてこないからね」
「まあ……」
俺の横に立っている二人はズボンを掴んだまま離さないので必然的にそうなるかと踵を返したところで――
「……王女様は本を待ち望んでいる。持ち主が変わらなければ読むことができないともご存じだ。行くがいい、死地へ。どうせあの方に勝つことなどできないのだ」
「行くさ。俺の両親を殺したヤツに報復をしないといけないからな?」
「フッ、出来るものなら……やってみせるのだな――」
「なっ!?」
「わ、お水になっちゃった!?」
言い終えた男の姿が消え、後には水浸しになった床だけが残り、他に捕らえた者達も服だけを残して消え去った。
「なんなんだこいつら……? 前に戦った時も鎧だけ残して消えたが……」
「わからん。が、得体のしれない連中というのが確実になったということだ。黒い剣士……王女だというが面妖な……」
「これは気を引き締めないといかんな。カーネリア、ここで装備を整えておこう。ルーク達にも魔法のマントを」
「そうだね……。強さはそうでもないけど、不気味なもんだ。魔物とも違うようだし……」
父さん達も驚きを隠せない様子で汗を拭う。
目的は分かっているが、ここまでのことをする理由は……なんだ?
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