224.作戦前夜
国境を解放してすぐに出発。
道中も警戒をしていたが、特に襲撃を受けることも無く進むことができた。
両親をあっさり殺すするようなヤツだ、ライクベルンの民が皆殺しにあってもおかしくないと思うのだが、静かなもの。
あくまでも『なにかあった』とは気づかせないようにしているみたいだ。
「ああ、懐かしいわね。リンカちゃんと進んでいたらディカルトが追っかけてきたっけ」
「あー、あったなあ。あの頃はいい女が居るなって思ってたんだぜ?」
「でもあんたアホだからなあ」
「ひでえ」
途中にある小屋であえて釣りも兼ねた宿泊をするも襲撃は無かった。
国境は抑えていたけど、戦力は王都周辺に全て集めているみたいだ。
それを裏付けるように、王都へ近づくと――
『これは思い切っているな……』
「近くまで来たら絶対なにかあるってわかるやつだろこれ」
丘の上から見える光景で、だいたい1キロ周辺にキャンプがあり、部隊が展開されていると思われる状況が見えた。
「こっちが王都へ乗り込むことを想定しているというわけか。アルが持っているというのは知っているのか?」
「噂を流しているから間違いなく。俺は川に流される直前あいつの仮面を魔法で吹き飛ばしているからお互い顔も知っている」
「ってことは親の仇ってのも分かってる、か。アルが来るのを待っているんだろうねえ」
父さんと母さんが眉を顰めて眼下に見える王都を見ながら口を開く。
足元ではそれを真似する双子が居てほっこりする。
「悪い奴はあそこにいるのー?」
「そうだぞ。怖いからルーナ達はここで待っていたらどうだ?」
「だいじょうぶー! アル兄ちゃんが強いから平気だもん!」
「ねー! パパもママも強いもん!」
「ああ、可愛い……」
ロレーナが身もだえながら目を輝かせているが、手には物騒なものを持っていた。
『それをどうするのだ?』
「んー、手薄な場所から入るからいいと思うんだけど、一応陽動もしとかないとね。これを別の場所で爆発させて注目させようかなと」
いわゆるダイナマイトである。
火薬に精通しているとはいえこんなものまで作り出せるとは……。
『一人でか? 俺が護衛につくぞ』
「お父さんはアルフェン君と黒い剣士のところへ行かないとじゃない? 大丈夫、わたし素早いし!」
「というかなんでギルディーラをお父さんって言うんだ……?」
「え? よく分かんないけどそう思うのよね。嫌?」
『べ、別に構わんが……』
「悪いなギルディーラさん、ウチのアホ妹が。いてっ!?」
理由は無いらしい。
子供のころ捨てられたって言ってたけど、父親の面影でもあるのだろうか?
それはともかくロレーナ一人というのはあまりよろしくないなと考えていると、
「ならオレがついていくぜ! アル様、いいか?」
ディカルトが笑顔で申し出た。
まあ、正面から戦う訳じゃないし、護衛と考えれば異論はない。
「そうだね、ロレーナ一人は危険すぎるし、そうしてくれると助かるよディカルト。でも、黒い剣士と戦いたいんじゃないのか? 強いし」
「……そこはアル様の仇だし、今回は遠慮するぜ」
「そっか」
こいつも復讐をしたことがあるから仇敵を自分の手で倒したいだろうという気遣いらしい。ま、ロレーナが好きなのかもしれないし、今までの態度から任せてもいいだろう。
「なら王都に侵入後はディカルトとロレーナが別行動か」
「地図は頭に入っているか?」
「はい! どこから侵入するかも大丈夫です! ディカルトなら王都の中も良く知っているから追いつけると思います」
「余裕だな。国境に居た程度の強さなら何人か倒して来ますぜ」
「無茶をするなよ、犠牲無しで帰るんだ。特にオーフ達兄妹や一家は客人でもあるのだからな」
爺さんの言葉にさすがのディカルトも真面目な顔で頷いて大剣を磨く作業に戻る。
決行は明日の深夜で、作戦はシンプルなもので、ロレーナが城の外でダイナマイトを着火して敵を誘導。
その間に入り込んで一気に城へと乗り込むのみだ。
「腕が鳴るな。黒い剣士を倒せばアルの憂いは断てる、そうすればシェリシンダ王国に行って結婚だ」
「ま、まあ、確かにそうだけど……」
「あ、親父さん。町にリンカっていう娘もいますぜ。お姫様に許可をもらうとかなんとか」
「ば、馬鹿! 言うなって!」
「ほう、やるなアル。エリベール様も怒らないだろ、お前はモテそうだとか言ってたし」
父さんが俺の頭に手を乗せながらニヤリと笑い、実際は修羅場を期待している目を向けてくる。
「……どっちにしてもヤツを倒してからだ」
俺は王都、いや、城を睨みながらそう返すのだった。
◆ ◇ ◆
――ライクベルン謁見の間――
「……そろそろ到着するころか?」
「ええ。先陣が帰ってこないところを見ると恐らく全滅。第二陣で『ブック・オブ・アカシック』を手に入れることができるでしょうか?」
「どうかな。向こうも手練れが居るし、恐らくあの子供も強くなっているはずだ。復讐心というのは存外、侮れん。特に捨て身でかかってくる場合は相手の気迫に飲まれればこちらがやられる」
「……それはご自身の体験から、ですかな?」
「首を刎ねられたいようだな?」
「フフ、冗談ですよ。まあ、攻め続けていればいずれ手に入りましょう。一国を相手にする馬鹿はそうはおりますまい――」
そう言って黒い鎧を着た男は謁見の間を出て行く。
そしてヴィネが一人残った後、口元に笑みを浮かべて呟く。
「捨て身でかかってくる。それは戦いというだけではないのだぞ? もしかしたら喉元まで来ているかもしれん。お前みたいなやつは真っ先に……死ぬなあ。くく……くくく……あはは……」
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