81.謎の種族とその正体


 「いやあああああ!」

 「うわ、うわああああ!?」

 「うーん……」


 「今のはニーナとディアンドの悲鳴!? ……なんだ、こいつらの仲間が居たのか?」

 「マディリ!」

 「うわ!? ……あれ?」


 俺を追ってきていた男は怖い顔で俺を……追い抜いて行った。手には大型の剣があり、大剣とかグレートソートとか呼ばれる類のものだ。

 それを軽々と抱え、青い顔で突き進んでいく。


 後ろから首を持った男達も追いかけてきて、俺は慌ててニーナたちの悲鳴が聞こえた現場へ向かう。


 「うお……!?」


 すぐに追いついた俺達の目の前にはでかい犬が四頭、涎を垂らして立ちはだかっていた。

 目の色が赤い……ということは魔物か。


 ずっと町で生活していたからずっと関りが無い相手だったけど、知識はある。

 動物が魔物を食べたり『魔石』と呼ばれる、魔物が死んだあとや核となる紅い石を口にすると変貌する。それが魔物。


 基本的には動物をベースとしたモノが多いが、昆虫や植物もなり得ることがある。

 こいつは狼ではなく犬のようだ。


 「あ、アル兄ちゃん……!」

 「待ってろ、すぐに――」

 「ハァァァァ!」


 助けてやるというより早く、男が飛び上がり、剣を振るう。

 犬たちは避けたが、地面に当たった衝撃は大きく、犬や俺達が怯む。


 「す、すごい威力だ……当たったら確実に死ぬぞ……。だけど、今は助かる!」

 「アル君!」

 「三人とも立てるか?」

 「こ、腰が抜けちゃったよ……」

 「……ハクを頼む」

 「アル兄ちゃん?」

 

 三人はダメか。

 こうなったら俺が全員を相手にするしかないと収納魔法からマチェットを取り出して立ち上がる。


 あの男の強さなら四頭程度訳は無さそうだけど、相手は犬だ――


 「ガゥッゥ!」

 「だと思ったよ! <ファイア>!」

 「ギャン!?」


 別の方向からハクとニーナを狙って襲ってきた犬を炎で牽制。

 怯んだ犬の額に剣を振り下ろす。

 プロセスチーズにナイフを入れたような感触が手に入り、犬が崩れ落ち、痙攣を始める。

 反撃が来ないことを見届けながら、俺は別の場所に手を伸ばして魔法を放つ。


 「……そこだ!」

 「ワォォォォン!」

 「避けた!?」


 動かない的にしか魔法を撃っていないので、ぶっつけ本番。

 いけるかと思ったけど、そう甘くはないらしい!

 狙いは小さいハクのようで、一度旋回した後、また陰から出てきた一頭と共に左右から襲ってきた。


 「きゃあああ!」

 

 俺しか戦えないと知っての動きか?

 目の前の犬にはマチェットを振り、もう一頭には魔法を撃つ。


 だが、思考が散っているせいか二頭に回避されてしまう。


 「ガゥゥゥ……」

 「させるか!!」


 脇を抜けようとした一頭にマチェットで薙ぎ払うと、口でキャッチされ力比べとなってしまう。


 「グググ……!」

 「この野郎……!」

 「あ、アル兄ちゃん!!!」


 ディアンドの悲痛な叫びが聞こえ、俺は首を曲げる。

 こいつより向こうかと思っていると――


 「キエラ!」

 「ぎゃわん!?」

 

 追いついて来た女性の槍が胴体を刺し貫き地面に縫い付けた。向こうが大丈夫なら俺は全力でこいつを倒すだけだ。


 「ゼロ距離で……<ファイアーボール>!」

 

 腹にぶつけると同時に俺の手も少し焼けるが、犬の口が剣から離れた。


 「ギャウン!? グルアァァァ」

 「うっ……!? だぁりゃぁぁぁぁ!!」


 犬も負けじと飛び掛かってきて肩を切り裂かれる。だが、俺は踏み込んで剣を斬り上げ、犬を真っ二つにした。


 「大丈夫かみんな!?」

 「うああああああん! 怖かったぁぁ!」

 「ソイソイ」


 すぐに三人へ声をかける。

 みんな女性に抱き着き大泣きをしていたが、どうやら無事らしい。

 

 「ふう、良かった。……他に魔物は……?」

 「オオオオオ!!」

 「ヤァアアア!」


 視線を周囲に向けると、男達が残りの犬を倒していた。

 何気に数が増え、四頭だった八頭に。しかし、ものともせず、彼らは首を落とし確実に絶命させていった。


 「力任せってわけじゃなさそうだな……特にあの大剣使いはランク80くらいあるぞ」


 首ばかり狙うので、もしかして首狩り族かなんかだろうか?

 もうあの三人も動けないと悟った俺は諦めてマチェットを納刀して様子を伺うことに。


 「デルパ?」

 「わかんないけど、大丈夫って言ってるのか……? あ、そうだ!」

 「?」


 膝をついて俺に目線を合わせて何か言うのだが、やっぱりわからない。

 そこで俺は『ブック・オブ・アカシック』の存在を思い出して収納魔法を使う。


 「……!?」

 「さて、この謎の人達の言語を教えてくれ」


 ‟教えて進ぜよう”


 「なんだこいつ……!?」

 <生意気な本ですね>


 何故か上から目線でスラスラと文字が浮かび上がり、言語が浮かんでくる。


 「なになに……デルパは『大丈夫』、か。えっと『デルパ』」

 「ヨクテ!」

 「『ヨクテ』は良かった、か……。ありがとうは? 『アリトー』」

 「!」


 男は満面の笑みで俺の頭に手を乗せると、うんうん頷き撫でまわしてくれた。

 と、とりあえず本を見ながら話しを進められそうなので、俺はカタコトながら言葉を重ねていく。


 「俺はアル。えっと、助けてくれてありがとう」

 「気にしないでいい。いきなり逃げるからびっくりした。俺はグラディス、言葉が通じて良かった」

 「へっへ、お前の顔怖いから逃げられたんだよ。ああ、坊主、オレはヒデドンだ」

 

 ゴリラみたいな顔をした男に言われたくないだろうなと思いながら俺は握手を交わし、残りの三人も自己紹介をしてくれた。


 女性はイレイナといい、切れ長の目をした男がガブロフ、首を持っていた男がザグルスというらしい。


 「とりあえず質問」

 「なんだ?」

 「俺達はこれからどうなるんだ? その誘拐犯みたいになる?」


 俺がザグルスの持つ首に目を向けると、ニーナが小さく呻き、イレイナの後ろに隠れる。

 するとグラディスは腕組みをして口を開く。


 「町へ返したいところだが、この国の人間に俺達の姿を見られるわけにはいかない。すまないが、一緒についてきてもらう」

 「……なんかワケあり?」

 「そうだな。俺達‟魔人”は長いことこっちの人間といざこざを続けている。子供を連れていたらまたくだらない難癖をつけられると思う」


 いざこざか、どこにでもあるのかと胸中でため息を吐いたが、よく思い返して俺は戦慄する。


 「……ま、魔人?」

 「そうよ? この山の向こうにある領地に住んでるわ」


 運が悪い。

 一難去ってまた一難……ここは機嫌をとっておかないと、命が危ない。


 俺の人生の終着……すなわち黒い剣士を殺すことだが、いつになればそこへ近づくことができるのか……どんどん悪い方向へ行っている気がする……


 ああ、エリベールと結婚しておくべきだったのか……?


 そんなことを考えながら、俺達は魔人達に連行されるのだった。

 ちなみに彼らが何度か「キエラ」と言っていたが、あれは「殺す」という意味だってさ……

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