11.素質


 「げ!?」

 「きゃああああ!?」


 俺の生み出した火球はゆっくりと飛んでいき、親父と爺さんが戦っている傍にある巻き藁に直撃し――


 「うわあああ!?」

 「なんだ、敵襲か!?」

 「あ、これは危ないわね」


 ――けたたましい爆音とともに巻き藁が砕け散った。ついでに親父も吹き飛んだ。


 「ア、アル様が魔法を使った!? しかも詠唱短く無かったです!?」

 「え、ええ、私の真似をしたのでしょうけど……」

 「アル……」

 「は、はい!」


 俯いた母さんがゆらりと動き、いつもと違う雰囲気を醸し出していることに気づいた俺は怒られると背筋を伸ばす。

 母さんの手が俺に近づいてきたので、叩かれると目を瞑ってその時を待つ。

 

 「痛っ!?」

 「いきなりは危ないでしょう? ママが居たから火を消せたけど、もしかしたら大火事になっていたかもしれないし、木に当たってたかも。だからママは叱ります!」

 「ご、ごめんなさい……お母さんとイリーナがカッコよかったから……」

 

 母さんが俺の両頬をつねった後、腰に手を当てて叱る。これは俺の自業自得なので受けるべき罰。頭の中の俺は冷静だが、体はどうしても子供なので涙を浮かべて立ち尽くす。


 すると、母さんはすぐに抱っこしてくれ、微笑みながら頬にキスをしながら言う。


 「でも、三歳であの魔法を撃てたのは素直に凄いわ! 将来は凄い魔法使いかも!」

 「そうですね! 成長したらもっと凄い魔法……もしかしたら『マスター』クラスになれるかも!」

 「そ、それは言い過ぎじゃないかな……」


 マイヤが俺の小さい手を取って目を輝かせ、イリーナも微笑みながらつねられた頬を撫でてくれることに照れながら母さんにしがみついていると、親父と爺さんがこちらに向かってきた。


 「い、今のはイリーナか!?」

 「凄い爆発だったぞ!?」


 転んで汚れた親父と、慌てた様子の爺さんが目を丸くして俺達に詰め寄るが、イリーナがやんわりと制し、口を開く。


 「私ではありません、旦那様、アルバート様。今のは……」

 「アルですのよ!」

 「な、なんだって!?」

 「『ミドル』クラスは無かったか……? くく……流石はワシの孫だ! これは生きる楽しみができたわい!!」

 「わ!?」

 「お父様、気を付けてくださいね」


 爺さんが俺を高く抱え上げて高笑いをし母さんが口を尖らせる。どうやら俺は魔法使いの素質があったらしい。

 

 一番肝になるのは詠唱が少ないのに出せた、という部分なんだけどなんとなくで出したので正直色々試してみないと分からない。


 「しかし、剣も使わせたいな……」

 「ま、まあ、まだ三歳だし剣を持つのも難しいですよ。それにお義父さんは厳しいから僕が教えます!」

 「なにを言うか! お前のような弱腰の剣では強くなれんわ! よし、このまま連れて帰――」

 「お・と・う・さ・ま?」

 「――るとマルチナが寂しがるから止めとこう」


 誤魔化したか。

 母さんは静かに怒るのか、覚えておこう。実際、マイヤと遊んでいて怒られたことはなく、注意程度だったから頬をつねられたのは初めてである。

 まあ、叱らない親というのは色々と放棄していると思うので、悪いことをしたら叱れる母さんは正しい。

 ……前世は相当悪いことをしたし、今世は心配をかけない生き方をしたいな。

 

 爺さんの話だと戦争とかきな臭い話もある。

 素質があるなら両親を守るために魔法をしっかり勉強していくべきだなと強く思った。


 「それでは私とマイヤはお仕事に戻ります」

 「え、お母さんお仕事は――」

 「いいから来なさいマイヤ」

 「ふええ……?」


 イリーナがマイヤの首根っこを掴んで引きずるように連れて行き、よーく聞いてみると『アルバート様が久しぶりにいらっしゃっているんだから家族だけにしないと』と戒めていた。

 あの親子以外にも使用人はいるんだけど、俺の面倒を見てくれるのはマイヤが圧倒的に多い。イリーナと母さんの仲がいいのとなにか理由があるのだろうか?


 「それじゃ、もう少し魔法を訓練するかな?」

 「ううん、なんか疲れちゃったから今日はいいかな? お父さんかお母さんが居る時だけ使うようにするよ」

 「うん、アルは偉いね。大きくなったら勉強と剣は教えられるかな?」

 「学校か家庭教師か悩むわね。今日はお父様もいらっしゃってますし、おうちでお話をして過ごしましょうか」

 「もっとワシの勇姿を……」

 「行きますよお義父さん」

 「ま、待てライアス! アルお爺ちゃんの剣をもっと見たいよな!?」

 「おやつにしようお爺ちゃん!」

 「うむ」


 変わり身早いな……ま、怖い顔だけど、俺を可愛がってくれているのが良く分かるのでとても嬉しい。


 そして翌日、後ろ髪を惹かれながらも、部下に引きずられて帰っていく爺さんと別れる。遊びに行くことを約束したので、そのうち行くことになるだろう。


 ――そんな感じで魔法の素質があることが判明した俺は、この日を境に訓練を重ねていくことになる。

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