26.アルの違和感
さて、リビングに通された俺。
両脇にカーネリア母さんとゼルガイドさんが座り、対面にゼルガイドさんの両親が険しい顔で座る。
<厄介ですね>
話しかけてくるな。答えられないんだから! とりあえずリグレットはスルーして会話に耳を傾けることにしよう。
だが、あまり気分のいいものじゃないんだけどな。
「――ですから、一度は許しましたが再婚は認めません」
「うむ、お前はまだ若い。離婚歴が付いた貴族は疎まれるが、お前はこの国を代表する騎士だ。嫁はとれる。子が出来ないハーフエルフなど、跡取りが居なくなって困るのはお前だぞ」
「し、しかし、俺はカーネリアがいいんです! 跡取りは居なくても――」
「黙れ! 家を潰す気かお前は! それにその娘がいいとしか言えんのか!」
「……!」
白髪が生えて来たな、という感じの髪を後ろにまとめた親父さんが怒鳴り声をあげてゼルガイドさんが怯む。
まあ親父さんの言いたいことは良くわかる。
侯爵家という位まで上がって来たのはどの代か分からないが、跡取りがいなくなれば文字通りお家が無くなるのだ。
死ねばそんなことは関係ないが、先祖に顔向けができないと考えているに違いない。
いわば信念と情念。
親としては『こうあるべきだ』というレールから外すわけにはいかないのだ。
前世で俺はあの一家を根絶やしにするため血で手を染めて来た。
そして死んだ。
子供は居ないからウチの家系はそこで終わったことを思えば親父さんの剣幕は理解できるというわけだ。親戚従妹がいるんで完全に終わりではないが。
「……もういいよゼル。話を引っ掻き回して申し訳ございませんでした、あたしとアルはこの家には関わらないよう生きていくのでどうぞご安心を。行くよ、アル」
「う、うん」
完全に冷め切ってるなー
だけど、この二人――
「ま、待ってくれカーネリア! 父さん、母さん、跡取りならこのアルが居る。だから――」
「どこで拾ってきたか分からない子供を跡取りになんて出来るわけがないでしょう。ええ、ええ、こちらもせいせいするわ、早く出ておゆきなさい」
取り付く島もないが、カーネリア母さんは最初から期待していないと言った。
ゼルガイドさんの親父さんとおふくろさんも、だ。
この話し合いはゼルガイドさんの我儘のようなもの。
せめてカーネリア母さんが子供を作れればもう少し変わりそうな感じだ。
その前にゼルガイドさんがカーネリア母さんと自分に向き合わなければならない。
俺は立ち上がりながら口を開く。
「……ゼルガイドさんは母さんが好きなんだよね?」
「あ、ああ、そうだ。俺にとってカーネリアは生涯共にしたい相手――」
「なら、家を出てやるくらい言えばいいのに」
「……!? そ、それは……」
俺の言葉に絶句する。
だけど俺が初めから感じていた違和感。
ゼルガイドさんが本当にカーネリア母さんを好きなのは間違いない。それは態度で分かる。
だけど、
「両方とも手に入れようとするのはいいことだと思うけど……僕はなにが一番大事かを判断して片方を切り捨てるのも必要だと、思うよ」
「……」
「アル……」
目を見開くゼルガイドさんと両親。
そこに困った顔で笑うカーネリア母さんが俺の頭をひと撫でしてから目線を俺に合わせて、言う。
「ふふ、生意気な子だよあんたは。だけどゼルを責めないでやっておくれ、ゼルはあたしも二人も大好きなんだ。選べないんだよ」
「でも……それでも、あんなに言わせたい放題で黙っているのは……許せなかったんだ……」
俺は気づけば泣いていた。
この優しいカーネリア母さんが罵倒されるなんてことがあっちゃいけない。
たかだか数日の付き合いだけど、打算なく俺を引き取った彼女がだ。
罵倒している間、僅かに表情を曇らせていた両親。
一度は結婚を許しているのだ、心底憎いならその時点で止めるはずなので、嫌われ役を引き受けたといったところだろう。
俺が違和感を感じたのは言い返さないゼルガイドさんだった。愛する人なら、親父を殴ってでも言わせないものじゃないだろうか?
「……すまない……カーネリア……俺は自分のことばかり……」
「いいんだよ、ゼル。喧嘩別れをしたけど、あたしのこと好きだって言ってくれて嬉しかった。それじゃあ行こうか、アル」
「うん……カーネリア母さんに赤ちゃんができたらよかったのにね……」
「……」
もちろんゼルガイドさんの立場も分かるので、悲痛な顔に少々罪悪感を感じるが、カーネリア母さんに子供ができない以上この話は平行線で進展はしない。
すると、
<アル様が
「え!?」
「ひゃあ!? ど、どうしたんだいアル?」
「い、いや、ど、どういうこと?」
「こっちが聞きたいんだけど……」
今のはそれとなくリグレットに言ったものなのだが、流石に意味が解らんよな……ごめんよカーネリア母さん……。
<言ったままですよ。アル様の左腕のスキルを使えば、お母さまの子宮は治ります>
マジか……!?
だったらそれをしない手はないぞ!
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