アルフェンの旅立ち
117.それぞれの国へ
――ツィアル国が平穏になってからすでに1年と少しが経ち、俺は12歳となった。
この世界での成人である16歳までは後三年。学校卒業までは後一年もない。
とりあえずあの騒動の後は比較的平穏だったが、あくまでも『比較的』であり、俺自身は色々と大変だった。
まず、学校通いを再開して30日ほどしたところでツィアル国からの使者がやってきた。理由は魔人の国であるザンエルドへ一緒に来て欲しいという、前に聞いていた話だ。
もちろん承諾した俺は再びツィアル国のガリア王を尋ね、魔族の国へ赴いた。
「ルーナ達もいくのー!」
「にいちゃまたいなくなったら嫌ー!」
俺一人でいいと言ったのだが、ルーナとルークがむくれてしまい、ご飯を食べないという謎の脅迫を始めた。可愛すぎる。
それでもいきなり他国はどうかと思ったので、誘拐されるぞと脅したがダメ。
結局、母さんが引率として行くことを条件に、四人で行くことに。
で、ひと月あったせいか、すっかり温厚なおっさんになったガリア王だが、カーランの後始末によりげっそりしていた。
「ま、まあ、生きているだけで儲けものというやつだ……リンツの成長もまた見れるようになったからな」
リンツとはガリア王の息子であの王子様だ。
この子についてはちょっとした出来事があったんだが、まあそれは後で。
さて、魔人族の国はどうだったかというと、なんか色々でかかった。
グラディスもそうだったが魔人族は体がでかい。
なので、家屋が全体的に大きめに作られているのである。
それ以外だと、ツィアル国より国土が広く、内陸部は乾燥している感じだ。
砂漠みたいに気温がアホみたいに高いとかそういうことではなく、空気が乾燥している日本の夏みたいな?
まあ、喉は乾くし汗もそこそこ出るが、べったりとしないのが幸いか。
そんなザンエルドの王都へ到着すると――
『よく来たなアルフェン!』
グラディスに出会うことができた。
事前に俺達が来ることを知っていたので待っていてくれたとのことだ。
「おおきいー!」
「すごいー!」
「肩に乗せて貰おう。俺も乗ったし、いいか?」
『もちろんだ。ふん……!』
「「きゃー♪」」
両肩に双子をそれぞれ乗せてもびくともしないグラディスに双子はご満悦で、さらに俺と仲がいいのを感じ取ってかすぐに懐いた。
父さんよりも頭二つ近くでかいのだが、怯えるどころかはしゃぎ回っていたのが将来性を感じさせるな。
他にはイレイナ達とこっちの国へ来た三人とも再会することができた。
「アルにいちゃん!」
「アル君!」
「わーい!」
ディアンドにニーナ、ハクの三人は俺をあっという間に取り囲み半泣きで喜んでいた。
ボロボロの服からきちんとした服を着て、風呂にも入っているので三人とも見違えるほどきれいになっている。
三人は人族の言葉を話せる人、イレイナと一緒に過ごし、少しずつ魔人語も話せるようになっていた。将来、ニーナは人族語を教える先生になりたいらしい。
「良かった……グラディスさんと一緒だったから大丈夫だと思ったけど、無事な姿が見れてホッとした」
「ああ、そっちも無事にここへ来れていてなによりだ」
「むー」
「あら?」
俺とニーナが話をしているとルーナが足元に割って入り、頬を膨らませていた。
何事かと思ったが、母さんが苦笑しながら言う。
「いっちょ前に嫉妬しているんだよこの子」
「ふふ、大丈夫よ。お兄ちゃんを取ったりしないから」
「ほんとー?」
「うんうん。それに私と名前が似ているから、仲良くしましょう!」
「うん! ニーナとルーナ!」
三歳児は単純だった。
二人は両手を繋いでぶんぶん振っているのが微笑ましい。ニーナも先生を目指すから子供は好きなのだろう。
そんな二人とはまた別の組み合わせとして、ルークとハクが顔を見合わせていた。
「……何歳?」
「ん!」
「みっつね! わたしは4歳!」
「おねえさん!」
「そう! ルークくん、かっこいいね」
「わかんない! でも、ライラちゃんもそう言ってくなでてくれるよ!」
「もう彼女がいるの」
ませたお子様たちだった。
むう、ルークも俺に似てもてるな……などとどうでもいい冗談を考えていると、ディアンドが話しかけてきた。
「ニーナはアルにいちゃんのこと好きだと思うけどなあ」
「ま、そうだとしても俺とはあまり会う機会もないし、そっとしとこう。それよりどうだここの生活は」
「かなりいいぜ! あの町でゴミあさりをして過ごしていたころが懐かしいくらいだ。ケントは元気かなあ」
「あいつも家に帰ってた。親御さんが相当心配していたみたいで、今は中々口うるさいってさ」
「……あいつは放置子みたいだったから結果的に良かったのかもなあ」
もう両親が居ないディアンドが少し羨ましそうな顔で鼻の下をこすりながら笑い、俺は頭を撫でてやる。
するとそこでガリア王が割り込んできた。
「すまないな少年たち。不甲斐ない私のせいでこんなことになってしまって。もしツィアル国へ戻ることがあれば私を尋ねて来てくれ、家や仕事を紹介させてもらう」
「ありがとうございます王様。だけどそれは今、ツィアル国で孤児やってたり、家が無いヤツにやってあげて欲しいです。俺達は結構ここで幸せになれそうなんで」
「そうか。まあ、気が向いたらでいい」
「はい!」
そんな感じで知り合いとの嬉しい再会があったのは良かった。
ちなみにヒデドンとは会えなかったが、ロラを救出してくれたことを本当に感謝しているとお土産の果物をたくさんもらっていたりする。
最後に魔人族の王との謁見となったわけだが――
『おお、そなたがアルフェンか! グラディスに聞いているぞ。この度、魔人族の子らを救出してくれたこと感謝する』
『いえ、たまたまだったのでお気になさらないでください。無事だった子が居たのはなによりでした』
『うむ……我々は過去の傷があるからおいそれと動くのが難しくてな。グラディス達に調査をしてもらっていたが、良かった。ツィアル国の王もよく来てくれた』
『ええ、お会いできて光栄ですヒュレイド王』
ガリア王も魔人語が話せるようで、ヒュレイド王と逆サイドに座るガリア王が口を開く。
「おひげ凄いの!」
「ルーナは静かにね」
ルーナもヒュレイド王の長いひげに興味津々だった。ちなみに俺もツッコミたいくらいの長さだから仕方ない。
「ふぉふぉ、元気なお嬢さんだな! まあ、なんにせよグラディスとアルフェンの功績はかなりのものだ。今日の宴は期待していい」
と、かなり俺とグラディスをべた褒めする発言が多かった。
ちなみに宴も凄かったが、女の子をやたら寄こして来たのはどうなのかと感じたな。
恐らく誰かと結婚させて俺とパイプを作ろうとしている、という大人の事情が読めたがルーナが追い払ってくれたので事なきを得たのだった。
収穫としては魔人族と顔見知りになり、王との友好の証をもらえたことだろう。
これがあれば、世界中の魔人族に助力を得ることができるとのこと。
そんな調子でツィアル国とザンエルド国の国交復旧の調印が行われ、この大陸は実に十年ぶりとなる平和を掴むことができたわけだ。
ちょっとした旅行気分で双子たちも大満足で帰省。
「これおいしいねーにいちゃ!」
「おいしいねルーナ!」
おみやげの果物に舌鼓を打っていると、屋敷にエリベールが、やってきた――
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