力を手に入れるために

15.生き残った者として

 ――なんだ? 俺は川に流されたんじゃなかったか?


  俺は意識を取り戻したが、気づけば俺は花園のような場所に居た。困惑していると、


 『いやぁはっはっは! ……ぷっ……あははははは、まさかたった五歳でこんなことになるとはね!! 久我和人、君は本当に面白いね。さて、かなり危険な状況だけど僕はもう少し楽しませて欲しいから、ひとつプレゼントをしてあげるよ』


 そんなぼんやりした意識を覚醒させる、さも愉快だと笑う声が聞こえてきた。

 そちらへ方を向くと、目の前でクソ神が喋っていた。

 

 お前のせいじゃないのか……?


 『僕はあくまでも『観測』しかできない。生と死の狭間にいる君の魂だけを引っ張ってきているからなんとか会話ができるんだよ。マイヤだっけ? あんなに熱心にお願いされたらなにかしてあげないと』


 そうだ!? マイヤはどうなった! って身体が動かない……?


 『魂だけだと言ったろう? 身体はないから視えているのも僕が認識させているからさ。……あの子は残念だけど、僕が追っているわけじゃないからどうなったかは分からない』


 くそ……使えないな。


 『うるさいよ。傷は致命傷とまではいかないし、最後は泡に包まれて流されていたからどこか陸地に行きついていることを願うしかないね。海にまで出てしまったら終わりだろうけど』


 そうか……マイヤ……

 

 『あの子のことより今は自分の心配をした方がいいんじゃないかな? とりあえず傍に――』


 なんだ? 聞こえないぞ? なにをくれたんだ!


 『ああ、も――時――無。本――頼――』

 

 本? 頼れって? もっとちゃんと言えって!


 だんだんとぼやけていくクソ神に怒鳴り散らすが、ヤツの姿は完全に消え、俺は再び意識を霧散させた――



 ◆ ◇ ◆


 

 「う……」


 目が覚めたのか……? 体が痛い……だけど、とりあえず状況を確認しないといけないのでうっすら目を開ける。


 「ここ、は……?」


 痛む体を起こして周囲を見渡してみる。どうやらどこかの川辺に打ち上げられたようで砂利や草の生い茂っていた。時間は……早朝ってところか……


 あいつは危険な状態と言っていたけど、パッと見た感じ『ただ何もない』川辺で魔物などの姿は見えない。

 まあ、俺は町の外に出たことが無いので魔物がどういうものかを見たこともないんだけど。


 それにしても、本当に何もない……今がいつか分からないけど、少し前までベッドで寝起きし、剣や魔法の訓練、町の散歩と平和に過ごしてきたものが夢だったのではないかと思うほどに……


 「う……くっ……お父さん……お母さん……。うう……うあああああああああああああああああああああ……!!」


 頭が覚醒してくると記憶と現実がハッキリしてきて、あの光景が蘇ってきた。

 俺は本当に優しかった両親の死を目の当たりにして胸が痛くなり、泣いた。

 

 本当に、これ以上ないというくらい、とにかく泣いた。


 どれくらい経っただろうか、俺はせき込むほど泣いた後、川辺に寝転がり空を仰ぐ。あんなに大雨だったのに、俺の心はどんよりしているのに、空は清々しいほど晴れていた。

 

 「ぐす……とりあえず、ここから動かないと……」


 まず俺は身に着けているものを確認するところから始めることにした。アクアフォームがどれくらい持っていたのか分からないけど……


 「良かった、カバンは流されなかったみたいだ」

 

 カバンは肩から下げたままで中を確認するとマイヤとの買い物の時に持ち歩いていたあまり中身がない財布に、お菓子の飴玉。それと教科書である本が入っていた。


 「ずぶ濡れだけど大丈夫かな? ……え? 本は濡れていない……?」

 

 これって特殊な本だったりするのか? そんなことを考えていると、盛大に腹が鳴る。

 

 「……おめおめと生き残って、お腹まで鳴るなんてね。……恥ずかしくて死にそうだよ、ホント……」


 だけど死ねない。


 俺は死ぬわけにはいかない。


 俺の両親を……生活をめちゃくちゃにしたあの女を探し出して殺すまでは、絶対に。


 「……報いは受けさせる、必ず……」


 ひとまず、少し泥臭くなった飴玉を口にして俺は呟く。

 まずは人里、できれば町に行けば情報を得ることができると痛む体に鞭打って立ち上がると、傍に黒い棒が落ちていることに気づく。


 「これって? ……!? これは僕の――」


 どこかで見たことがある黒い棒を拾いあげると、それは前世で俺が使っていた武器である片刃の黒いマチェットだった。


 「まさかこれがプレゼントだとでも……? そうだね、今の僕……いや、俺にはこいつが相応しいか」


 五歳の俺には不釣り合いな長さだけど、爺さん達が使っていた剣よりは子供の俺でも使いやすいはず。

 そんな前世の武器を見て懐かしさと苦い思い出を頭に浮かべた後、目を閉じて鞘に納める。


 「……行くか。川を下れないのは痛いな」


 水を吸ったパジャマを引きずり、俺は近くの森へと足を運ぶ。


 「必ず殺してやる……」


 その想いだけを希望に――

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