16.苦難は続く
「はあ……はあ……どこまで行っても木ばっかり……喉が渇いた……飴玉じゃ限界だよ……」
川辺を出発してから数時間。俺は獣道やあぜ道を突き進んでいた。
しかし進めど人里はおろか、道らしい道にも当たらず――
「またスライム……! 『小さき火花よ』<ファイア>!」
緑とピンク色をした液状の魔物を魔法で蒸発させてまた歩き出す。
そう、魔物が度々行く手を阻んでくるのだ。
幸いと言っていいのか、スライムや前歯の鋭い兎くらいしか出会っていないので何とかなっているものの、動けば体力を持っていかれるし喉も乾く。
「『潤いの雫をこの手に』<ウォーター>」
マナは温存したいけど水分不足で倒れたら格好の餌だ……早く人を見つけないと折角助かったのに無駄になってしまう。
それにしても草木しか見えずに不安が広がる。
武器はあるし魔法はあるが、がっちり鍛えたわけじゃないこの五歳児の体はもたないと思う。
「はあ……はあ……。あ、で、出た……大きい道だ……」
街道、と言っていいだろうか? ゲームでよくあるような道が目の前に広がり安堵の尻もちをつく俺。
ここなら少しは休めるのと、もしかしたら誰かが通りかかるかもしれないのでそのまま座り続けた。
「……ここってどこなんだろう。どれくらい流されたかも分からないし、帰れるのかな……」
もう一度ウォーターで喉を潤しながら呟く。
マナで周囲の水分を集めて放出する魔法なので覚えておいて良かったと心の底から思う。
そんな感じでもう少し休憩をしようとしたところで――
「……!?」
「よし、確保したぞ! こいつを売って今日は酒盛りだな」
「しかしこんなところになんでガキが一人で座ってたんだ? なんかいい剣を持ってるのにパジャマだなんておかしなヤツだ」
――急に口塞がれて持ち上げられ、男二人が視界に入った。
皮の鎧に腰の剣と斧、筋骨隆々なその姿は戦士を思わせるが、目つきの悪い顔が正義の味方を思わせない。
「モガー!? (こいつら、人さらいか盗賊か!?)」
「こら、暴れるな! 痛い目を見たくなけりゃな。手足が揃ってりゃ顔が腫れ上がるまで殴ったっていいんだぜ?」
間違いなく悪人のセリフだった……
まずい、このままじゃどこかに売られて復讐どころじゃないぞ!?
「ンー!!」
「暴れるんじゃ……んねぇ!?」
俺は腰に下げていたマチェットのグリップを拳で殴りつけてシーソーのように剣先を打ち上げてやり、上手いこと脇腹にヒットした。
「ぷは!? せい!」
「うおおお……こ、股間を……」
さらにマチェットを振って股間に一撃を加えて、盗賊二人と距離を取る。
「お、おい、大丈夫か!? ガキが!」
「『激なる火の鼓動、目の前の障害を破壊せよ』!<ファイヤーボール>!」
「うお!? ま、魔法使いだと!?」
避けられた!? だけど、一瞬隙が出来た!
「もう一度だ! 『激なる火の鼓動、目の前の障害を破壊せよ』!<ファイヤーボール>」
「うおおおお!?」
焦っていたせいもあって初弾が躱されたものの、相手もおっかなびっくりと言った顔で盗賊が怯んだのでもう一度魔法を撃つ。
手加減なんてできないので、男の体に直撃てやり、爆発音と共に崩れ落ちた。
「ぐ……もう一発……<ファイヤーボール>!」
股間を抑えている男にも撃とうと手をかざすが、目の前でしょぼい火球が少し前に飛んだだけで消滅した。
「……マナが、尽きた……のか……? くっ……!?」
この体で本気の剣の打ち合いは無理だ、生き残るためには逃げるしかないと踵を返して街道を駆け出していく。
「誰かー! 誰かいませんか! たす……助けてください!! 人さらいなんです!」
危機的状況に、さっきまで重かった体が悲鳴を上げながらも動き出す。わき目もふらず大声で叫び、救援を期待する俺。
マナが尽きていなければ魔法で気絶させて逃げ切れると思ったが、俺の運では上手くいかないようだ……!
「助け……うわ!?」
「へへ、ガキの足に追いつくくらい訳ないぜ。よくもやってくれたな? 逃げられないよう足の骨を折っておくか……」
「う、く、くそ……! ぐふ……」
背後から首根っこを掴まれて地面に転がされた俺は、起き上がろうとしたところで腹を踏まれて息を吐く。
「さて、魔法も使えるとは高く売れそうだな。逃げられないよう足の骨でも折っておくか」
「や、やめろ……!? うう……」
「運が無かったな。というより、こんなところでウロウロしているお前が悪いんだぜ?」
踏みつけられたまま足を持ち上げられ背筋が凍る。こういう手合いは手加減なくへし折ってくるだろう。俺だって同じ状況ならやる。
「<ファイヤ>!」
「マナが尽きたか。まあ、頑張ったよガキの割にな……」
「いぎ!?」
そう言いながら盗賊は嬉しそうに呟き俺の足首に力を込める。やられる……そう思って目を瞑った瞬間――
<【
脳内で機械的な女性の声が響いた。
「な、なんだ……? 今、声が……」
「ん? 恐怖でおかしくなっちまったか? ま、関係ないか」
「うああああ!?」
痛みが増してくると、またあの声が聞こえて来た。
<再度【
「な、なんだってんだ……! ああああああ?!」
メキっと嫌な音が脳髄に響き、意識を失いかけたその時――
「な、なんだてめ――」
足の痛みが消えて、乗せられていた足の重さが消えた。
「い、いまの、は……」
消えたのは重さじゃなく……盗賊の体だった……足だけがごろりと転がり、混濁する意識の中起き上がろうとするが、俺は近づいてくる人影を最後に意識を閉じることになった――
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