ライクベルン王国へ
164.疑惑から確信へ
「また来てね」
「ありがとう、ゆっくり眠れたよ」
「おチビちゃんもね」
「きゅぅん♪」
さて、ライクベルン国境付近にある町‟オベリス”で一泊を終えた俺は宿を後にして馬車へと戻る。
戦争があった場合を想定してかこの町の壁は分厚くて高い。
上から弓兵が狙えるトーチカみたいな場所や、川が近いせいもあって堀に囲まれている特殊な町は日本の城のようでなかなか興味深い。
「南の山にゴブリンの親玉が居たらしいぜ」
「討伐成功したってな。さすがは騎士団だ」
「……」
あのゴブリンロード騒動はもう知れ渡っているようで、町の人がちらほら口にしているのを耳にする。
昨夜入った居酒屋兼飯屋でも調子に乗った冒険者が話していたな。あんなやついたっけと思ったけど。
ちなみに北の方は山ばかりで、強敵らしい強敵はおらず魔物が妙に多かった程度で済んでいたそうである。
ああ、ゴブリンの代わりにオークっていう豚頭の魔物と戦ったとか言ってたな。
それでも痛手になるような戦いでは無かったらしい。
山を越えたらライクベルンなので、そっち側に流れている可能性もあるわけだが……
「考えても仕方がないか。よし、町を出るぞ」
<……ようやく故郷ですねえ>
「……」
ようやく……そうだな7年ぶりになるはずだ。マジで爺さんと婆ちゃん生きてるんだろうな?
俺は緊張しながら町を出ると国境にある砦へと向かう。
町から出てゆるやかな坂道になっている山を三時間ほど進んだところで、山間に建てられている砦へと到着。
移動中、俺以外にも商人やら冒険者がすれ違ったりしていたのでもちろん関所みたいな場所に人が集まっていた。
「行商か、ここからは山を下る間に騎士を詰めている中継地点を用意してある。危なくなったら駆け込めよ」
「ええ、お気遣いいただきありがとうございます」
「次、どうぞ」
へえ、移動中の人の安全を考えているんだな。
まあ爺さんやライクベルンの陛下なら有り得そうな施策だと思う。
それゆえに『キナ臭い』という理由が気になるが――
「待て、通行料を払っていないぞ」
「え? 特にそういったことはやっていませ……ぐあ!?」
「オレに意見する気か貴様? 責任者は誰だ?」
「……ディカルト様であります」
「あ、あわわ……こ、これでいいですか!?」
目つきの悪い、天辺は赤、サイドは灰色という賑やかな頭をした男が入国管理をしていた騎士を殴り飛ばし、商人はびっくりしてお金を置いて先へ消えていく。
その後も数人『通行料』について抗議していたが――
「おいおい、言うことが聞けねえってのか? まあ払いたくなければ構わないが……山は行方不明になりやすいから気をつけろよ?」
「……!? 貴様……」
「脅すつもり!?」
「野盗も多いんだ、女はなおのこと気を付けないとなあ」
「チッ……」
――抜いた剣をチラつかせて意地の悪い笑みを浮かべる騎士が脅迫めいた言葉を吐いていた。
さっきの人との話からするとこいつがここの一番上。こういうヤツが上の階級に居ることも驚きだが、のさばらせているライクベルンの体制はどうなっているんだ?
<なーんか嫌な感じですねえ>
「ま、通るだけなら大丈夫だろ。金もあるし」
換金は麓の町になると思うが、ここで渡せないというほど貧乏でもないのでさっさと通って抗議してやればいい。
「次の者、前へ」
「はい」
「ギルドカードか、どれどれ……これは!? ディカルト様、これを!」
「あん? ……ほう」
なんだ?
ギルドカードを見せると、冷や汗をぶわっと出しながら責任者とやらに声をかけ、面倒くさそうな顔の後、俺の目を見て目細めながら笑う。
「……お前、アルフェンというのか。アルバート元将軍の孫だな?」
「そうだけど……って元将軍? 爺ちゃんは退役したのか?」
「まあそういうことだ。しかし、お前には関係ないことだ」
「どういう意味――」
<アル様!?>
鋭い殺気を感じて御者台から飛び降りると俺の身体があった場所を剣が通り抜けていた。あのまま座っていたら首が飛んでいたかもしれない……!
「どういうつもりだ!?」
「ディカルト様!?」
近くに居た兵士が驚愕の声を上げ、他にもいた人たちが悲鳴を上げて逃げまどう。
兵士の様子からするとここに居る全員がそうだとは知らないようだ。
「アルフェン=ゼグライト、てめえには反逆罪の疑いがある! よってここで処刑だ! 首は老いぼれのところへ届けてやるよ!」
「反逆罪だと!? 領地から流されてやっとの思いでここまで帰って来たのに!」
「知るか、上からの通達だ」
「弁明もさせずに処刑などと!!」
「なに!?」
ぎらついた目を向けながら斬りかかってくるディカルトという男の足元にアイシクルダガーを放ち勢いを殺す。
すぐに体勢を立て直した俺は剣を抜いて小手を狙うが――
「あ!? そういや折れたんだった!」
「ガキが、びびらせやがって!」
柄から先に刃は無く、思いっきり空振りをしてしまう。懐に入った俺に殴りかかってくるディカルトの一撃をかがんで避けてから胸板に手を突き出して叫ぶ。
「剣が無くとも魔法はあるんだよ!」
「こいつ……!?」
ファイヤーボールを炸裂させて止めようとしたがなかなかの手練れだ、寸前で後退して一番でかい当たりを避けやがった。
「ディカルト殿、おやめください!」
「うるせえ!」
俺から注意が逸れた、と思った瞬間に風魔法でディカルトを馬車から遠ざけて一気に乗り込む。
「逃げるぞ!」
「きゅんきゅん!」
馬が嘶き方向を変えて町へと進路を取る俺達。
「逃がすか! 『紅の槍よ焼き貫け』<ファイアランス>!」
「アクアフォームで……!」
「んだと……!? 追撃だ! 逃がすな! ……なんだ!?」
四重に重ねがけしたアクアフォームでファイアランスを相殺し、驚愕の表情を浮かべるディカルトを背後に、来た道を大急ぎで戻って行く。
追撃の声を聞いて困惑しながらも追ってこようと走り出すが、どこからともなく灰色の煙が彼らを覆った。
「煙幕? とりあえず助かった……! 事情が分からないしこれ以上は戦うと変な罪を着せられそうだ。しかし、どういうこった?」
俺が犯罪者とはかなり度し難い。
しかも周りの兵士は知らないと来た。爺さんは生きていそうだがどちらにせよ国境を越えない限り弁明も難しいか……
ひとまず町へ戻って『ブック・オブ・アカシック』がなにか知っているかもと先を急いだ。
◆ ◇ ◆
「……いきなり襲ってくるアホが居るとは思わなかったわねえ」
「まったくだ。アルフェンなら倒せるだろうが、犯罪者扱いはちと気になるな」
「どうするのオーフ? 煙幕でアルフェンは逃げられたと思うけど……」
「仕方ねえ、合流するか? やりようはあるだろ」
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